物書き生活と道具箱

「本」の特徴と電子書籍

最近、電子書籍と読書体験というものについてよく考えている。

パブーというお手軽に電子書籍を作れるサービスの登場が登場したので、いよいよ素人でも簡単に本を作れる環境が日本でも整ってきたと言えるだろう。支払い方法が多様化し、閲覧性能が上がってくれば有料であっても売れるコンテンツが出てくるだろう。
パブー http://p.booklog.jp/

コンテンツを生み出す人にとって選択肢が増えるというのは良いことだ。当然私もそれを視野に入れている。しかし、安易に「電子書籍へGO!」となって良いのか、という不安もまた同時にある。

iPhone3GSで電子書籍を読んだ際には、取り立てて違和感はなかった。そこは問題ではない。ただ、私は自分の本を断裁してスキャンしたいとは考えていない。私の中では「電子書籍」と「本の電子化」というのは異なった位相に存在している物だ。

その差とは何だろうか、という疑問がずっと残っている。そしてそれについて考えることは、「電子書籍ならでは」について考えることにつながるのではないだろうかと思う。

そういう事を考えている時に、興味深いエントリーを読んだ。中原淳氏の「NAKAHARAーLAB.NET」のエントリーだ。

奇妙な既視感・・・電子書籍ブームとeラーニングブーム

 それによって、読者が快適に、楽しく、読書をする経験をもつことができるのか?

 それは紙で読む場合と同じなのか、それより高い付加価値のある読書経験が存在するのか、どうか?

これを読んで、自分の中で本と電子書籍の関係性について方向性が見えてきた。

大きな骨格となるのは

「違って良い」

ということだ。

電子書籍というのは、本の類似品ではない。本もまた電子書籍の類似品ではない。それは別のレイヤーに存在するものだ。あくまで情報を読者に提供するという機能を共有しているだけだ。全くの別物と考えたほうが良いだろう。

本は本で優れているところがあり、電子書籍がない物を持っている。
電子書籍は本では提供できない機能がある。

だから、電子書籍を本に近づけていくアプローチよりも、本では実現できない要素を強化していくべきだろう。リアルの本の代用品である必要はない。無理に本を目指す必要もない。

愛着

本にあって電子書籍には無いものとはなんだろうか。変な表現になるが例えば「愛着」というものがそうだろう。電子書籍を読むデバイス、例えばiPadには愛着が湧くことはある。しかし、その中で展開されるコンテンツに愛着が湧くことはないだろう。それはデバイスの中で均一化されたものだから当然だ。

例えば、ブログを考えてみよう。魅力的なブログ、好きなブログはたくさんあっても「愛着があるブログ」を持っている人はいるだろうか。少なくとも私は自分のブログですらあんまり「愛着」めいたものは持っていない。それらは簡単に形やデザインを変えられる。代用可能なものだ。

コンテンツとデバイスが一体化したモノ_つまり安易に代用できないもの_だからこそ、愛着が湧きやすいということはあるだろう。

限定性

本はコンテンツとデバイスが一体化したもの、とは先ほども述べた。これは「限定性」を作り出す。

それは「世界に入れる」という感覚だ。本を読むと意識が別の世界に行くような感覚を覚えないだろうか。まるでアバターを使ってオンラインの世界に身を置いているような間隔。本を読む行為は、そういった意識を外に飛ばす事ができる。

例えば、誰かと二人で話をしているとしよう。そのとき、携帯を見るのはそれほど失礼な事ではない。あるいは会話の最中にメールを送ることもあるだろう。もし、会話の最中に相手が本を読み始めたらどうだろうか。メールのやりとりと同じぐらいの時間だったとしても、不快感を覚えないだろうか。

基本的に読書というのは本と自分の中で閉じた行為だ。だからこそ、アウトプットが必要になってくる、というのはまた別の文脈の話なのだが、とりあえず「限定性」を作り出すというのも本の特徴だろう。

物質性

本は物である。そこにはある種のアフォーダンスがある。いや、そんな小難しい話をするまでもない。机の上に読みかけの本が置いてあれば、つい手を取って読みたくなるだろう。これが電子書籍ならばどうか。デバイスを起動させて、ビューアー、そして最近読んだ本、といった具合にアクセスする必要がある。つまり、読もうという意志が読むという行為の前になければならない。しかし、本という一塊の物質は、それ自体が「読む」という感情を呼び起こす機能を持つ。

実際には「ぱらぱらと目を通す」つもりで本を手に取ってみたら、じっくりと読み込んでいたという事になるかもしれない。どちらにせよこれは、電子書籍ではおこりにくい事態だろう

まとめ

上に挙げたような要素は電子書籍にはない。「だから電子書籍はだめなんだ」と言いたいわけではない。電子書籍は、編集のしやすさ、出版までのスピーディーさ、アクティブな要素を加えられる、といった別の良さを持っている。

「読者が快適に、楽しく、読書をする経験をもつ」ためには、本と電子書籍が同じ形を目指す必要はまったくない。提供する物も違えば、提供する形も違って当然だ。注目すべきはその差異なのだ。その差異を強化していくことが、両方のコンテンツを提供する人々にとって重要なことになっていくのだろう。

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