「チップ・ハース&ダン・ハース」という著者名を見れば、買わずにはいられない。なんと言ってもあの「アイデアのちから」の著者コンビである。
スイッチ! |
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チップ・ハース ダン・ハース 千葉敏生
早川書房 2010-08-06 おすすめ平均 |
前著のタイトルも「ありきたり」という評判だったが、今回の本のタイトルも実にひねりがない。ちなみに、本書の中で「スイッチ」という言葉が出てくるのはあとがきにあたる「さあ、スイッチしよう」の部分だけだ。
印象に残る名前にしたければ、「行動に変化を与えるための9つのフレームワーク」みたいなインパクトを求めても良いのかも知れない。が、こういう名前は記憶に焼き付かない。
なぜだろうか。
答えは簡単で、「ありふれているから」だ。書店の棚を見回してみると、「スイッチ!」のように一見ありふれた名前の本の方が少ない。
短くて、わかりやすく、本の内容が示すものを直感的にイメージさせる。それが「スイッチ!」というタイトルが持つ力である。おそらくこねくり回したタイトルを見慣れた人は見過ごす本だろう。でも、読む人は読む。内容が良ければそれが自然と広まる。広がり始める段階において「スイッチ!」という短い言葉は役に立つ。元々知っている言葉だし、言い間違いが発生する余地もない。こうして・・・とネーミングについて分析するのはそろそろ止めておこう。
本書のテーマは「変われない」を変える方法である。
変化を起こすための3つのフレーム
考えておきたいのは、人間というのは独立した存在ではなく、環境に大きく依存する存在だということだ。言い方を変えれば環境を変数とした関数と言ってもよい。環境によって感情が動かされ、環境によって理性が力を無くす。
私たちは実験室の中で脳波を測定されているわけではない。自分自身の状態や周りの人との関係性の中で行動を決めている。いわゆるソーシャルブレインズというヤツだ。
結局の所、「正しいこと」だけを振りかざしても人の行動に変化を与えることはできない、と言うことだ。控えめに言い直しても短期的な変化しか与えることはできない。
であれば、どうするか。
本書では3つのフレームを立てている。
- 象使いに方向を教える
- 象にやる気を与える
- 道筋を定める
それぞれ見ていこう。
象使いに方向を教える
象使いとは何か。私たちの「理性」にあたるものだ。象使いの強みは
長期的に考え、計画を練り、先を見すえることだ
である。理性が存在しなければ、毎日、衝動的・無計画・短絡的に生きるしか無くなってしまう。要するに気ままライフだ。
行動に変化を与える際に象使いを味方に付ける必要があるのは簡単に理解できる。ではどうすればいいか。「具体的な指示をすること」。これが答えの一つだ。
象使いが「正解」を求めようとすると永遠に悩み続ける羽目になる。世の中において大抵の選択肢はトレードオフだ。明示的に「正解」が見つかる事例の方が少ない。選択肢が多く、しかもそれぞれに良い点・悪い点があり評価できなければ「選択不全」に陥ってしまう。これを避けなければいけない。要は「正解」ではなく「最適解」さえ分かればいいのだ。
本書では「ブライト・スポットを見つける」という方法を提案している。ブライト・スポットとはホワイトベースの艦長席の事ではない。簡単に言えば「お手本となる成功例」の事である。
なぜ出来ないのか、根本的な問題を解決するにはどうすればいいのか、というアプローチではなく、実際に成功している事例はどのようなものがあるか。その事例は他の事例と比べて何が違うのかを考えていくのが「ブライト・スポットを見つける」という方法だ。
また、見つけた事例を人々の行動に落とし込むことも重要だ。そのあたりは、本書で紹介されている実際の事例__ベトナムでのスターニン氏が行った母親の料理習慣の変化__を参考にされると良い。一文だけ引用しておこう。
「知識では行動は変わらないのです。頭のおかしな精神科医、太った医者、離婚した結婚カウンセラーはどこにだっています」と彼は話す。
象にやる気を与える
象使いが理性だとすれば、象は感情にあたる。大きなパワーを持つのはこの「象」だ。感情を無視して、理性だけで行動をコントロールしようとするのは愚かしい。
例えば、私はその日のToDoリストは未だに「紙」だ。タスクを消化したときに、赤のボールペンでそれを消していく感触が好き、というのがその理由である。象と象使いの関係を考えれば、その感覚がバカに出来ないことがわかる。
象にやる気を与える方法として
- 感情を芽生えさせる
- 変化を細かくする
- 人を育てる
が提案されている。
道筋を定める
最後は道筋。象と象使いが一致団結していても進むべき道がでこぼこしていたのでは歩きにくいことこの上ない。これを変えていこうという事だ。
- 環境を変える
- 習慣を生み出す
- 仲間を集める
の3つの方法が提示されている。
まとめ
新しいことを始めようとすれば、何かしらの「変化」を起こす必要がある。
人は「惰性」で生きている。だから「変化」を起こすのは簡単ではない。
でも不可能な事ではない。
ノシノシと歩みを進める象が急に方向転換をするのは難しい。
でも不可能な事ではない。
象使いが進むべき道を理解し、象がその道の先にあるものに共感し、道自体が適切な傾斜を持ってカーブしていれば、方向転換は可能である。一つずつは小さい事である。というか、私たちは小さい事しかできない。
象と象使いの関係性を理解して、道が持つ力も考慮に加えることができるならば、スイッチを押すぐらいの小さい力でも変化を促せるようになる。本書を読めばスイッチの作り方が理解できるようになるだろう。もちろん、知識だけで充分ではないことは改めて書くまでもない。あなた自身が何かしらの変化を起こしてみる事をおすすめしておく。
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