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書評 「採用は2秒で決まる!」(マルコム・グラッドウェル)

Posted on 2010 年 9 月 21 日 by Rashita

グラッドウェル・コラムシリーズ第三弾である。

マルコム・グラッドウェル THE NEW YORKER 傑作選3 採用は2秒で決まる! 直感はどこまでアテになるか? (マルコム・グラッドウェルTHE NEW YORKER傑作選)
マルコム・グラッドウェル THE NEW YORKER 傑作選3 採用は2秒で決まる! 直感はどこまでアテになるか? (マルコム・グラッドウェルTHE NEW YORKER傑作選) マルコム・グラッドウェル 勝間 和代

講談社 2010-09-10
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『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』や『天才!』の卵のようなコラムがおさめられている。これらのコラムとグラッドウェルの著書との関係は、村上春樹氏の『ねじまき鳥と火曜日の女たち』と『ねじまき鳥クロニクル』の関係に似ている。

つまり、片方読んでいても、もう片方も十分に楽しめる、と言うことだ。

本全体を通してのテーマは「直感」である。「直感」の強力さとその裏に潜む危険性がしめされている。人は多くの判断をインスピレーションで行い、後から”理由”を持ち出して理屈づける。そういう事が得意なのだ。また「なんとなく」で考えていることが、実は事実に反する事例も紹介されている。その一つが「天才」についてだ。

天才の二つのタイプ

「天才」と聞くと誰を思い浮かべるだろうか。ダヴィンチ?ピカソ?アインシュタイン?

そういった人々はまるで神様からの贈り物みたいに突拍子もない能力を生まれつき備えている。私たちが空気を吸うみたいに、作品を発表し、発明を行い、新しい理論を打ち立てる。少なくともそういう風に私たちの目には映ってしまう。

しかし、全ての「天才」が同じようにいきなり世間に認められるような能力を持ち合わせていたのだろうか。答えはNoだ。本作ではピカソに対する形でセザンヌが紹介されている。彼の「偉大な作品」は人生の後半に多く含まれている。そう、天才には二つのタイプが存在するのだ。

著者は天才を二つのタイプに分類している。一つは早熟型。つまり私たちが「天才」という言葉を聞いたときに直感的にイメージする人々の事だ。もう一つが晩成型。彼らも結果的に能力が認められれば、そこから時間をさかのぼって過去の作品が評価されることもある。しかし、たいてい初期の作品は「実験」的な意味合いしかない。

この二つの分類は、単に人間の生物学的な特徴を指し示すものだけではない。私たちがすむ資本主義社会が持つ危うい可能性も浮かび上がってくる。

天才の価値

もっともシンプルに表現すれば、「大器晩成型の天才は初期の市場価値がほぼゼロ」という事だ。彼らは適切な市場を持ち合わせていないわけではない、単に「能力が発展途上」なだけだ。そして、単純な資本主義はその価値を認めない。お金が流れる先はあきからに早熟型の天才の方だ。

早熟の天才は簡単だ。最初から才能を喧伝する。いっぽう晩成型は苦しい。忍耐とやみくもな信念が必要だ(セザンヌの高校時代にそのお粗末なデッサンを見て、会計士の道を勧める進路指導カウンセラーがいなかったことに感謝しよう)。

「忍耐とやみくもな信念」の重要性については、『究極の鍛錬』も参考になるだろう。もし、社会が単純効率的資本主義で、そこに住む人が誰しも筆を捨て会計士の道に進むことに「安定」というラベルを貼るような雰囲気が出来上がっているとすれば、晩成型の天才の居場所はない。これはあんまり「楽しそう」な社会とは言えない。

さらに、この話と第17章の「”才能”という神話」を合わせて考えてみると、恐ろしい社会が想像できてしまう。能力とはまったく関係無しに、運やタイミングやその他の要素で「成功」した人間をもてはやし、市場のお金がそこに流れる。そして、その没落のタイミングで新しい「成功者」へと市場が流れていく。

そこでは「育てる」というような感覚は一切存在しない。短期間でどれだけ儲けられるか、という事のみにシステムが特化してしまう。そして、時間をぶつ切りにして観察すれば、一瞬一瞬ではそれは「まったく間違っていない」ように見えるのだ。このあたりは、タレブの『まぐれ』を合わせて読んでみると面白いだろう。

才能への種まき

そう考えると、晩成型の天才は「資本主義社会」の中で厳しい状況に置かれている。ソフトウェアの開発や芸術家などは、才能の予測が難しい分野だ。そこでは第15章で紹介されている「クォーターバック問題」が起きてしまう。その分野では資本主義が機能的に働かない。だから、それ以外のものが必要になってくる。

あなたが創造力を持ち、構想もなしに何かをはじめ、度重なる実験によって技能を身につけるタイプであれば、長く苦しい時期を耐え抜き、あなたの作品が本物のレベルに達するまで、そばにいて支えてくれる人間が必要なのだ。

これはすこし絶望的な言葉にも見える。「支えてくれる人間がいない人はどうすればいいのか」という問いが浮かんでくるわけだ。

しかし、希望と呼べるものも私の目にはちらほらと映りだしている。資本主義社会に対するアンチテーゼとしての「ソーシャル・メディア」だ。

このミディアムなメディアが登場するまでは、「そばにいて支えてくれる人間」というのは本当に身近な__例えば家族や配偶者__人間だけだった。そうなると、身近な人間の経済的あるいは精神的余裕によって天才の命運が左右されてしまう。

だが、ソーシャル・メディアが存在する世界ではどうだろうか。そこで生み出される「つながり」は「そばにいて支えてくれる人間」を生み出したりはしないだろうか。365日一緒にいて応援する必要もない。収入の半分を捧げる必要もない。

「つながり」を持って、たまに応援し、時にコンテンツの対価として少々のお金を支払う。それが10人、100人、1000人・・・と集まることで「ソーシャル・コミュニティー」としての支援体を生み出すことになる。

これからソーシャル・メディアがより普及していくようになれば、眠っていた晩成型の天才が徐々に才覚を現すことになるだろう。もし日本が「ハードからソフトへ」という転換を実現したいならば、そこに活路を見いだすことができるかもしれない。

一種の才能に対する種まきだ。十数年後に思いもよらないコンテンツがつぎつぎと生まれてくる事もありえなくはないだろう。

まとめ

今回は「直感」ではなく、「天才」の方にフォーカスを絞って本書を紹介してみた。こんな感じでグラッドウェルの書くコラムは単に「読んで面白い」だけではなく、思考に広がりを与えるような内容になっている。

このコラムシリーズだけではなく、他のグラッドウェルも知的な刺激を与えてくれる__知的覚醒をもたらす__内容になっている。果たしてグラッドウェルは早熟型なのか、晩成型なのか。それは彼の作品を追い続けていくことで知ることができるだろう。

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