私は読書好きではあるが、速読で数を捌いていくよりも一冊一冊を丁寧に読んでいくのを好んでいる。それが正しいのかどうかはわからないが、そのスタイルが私の性に合っている事は間違いない。単に一冊ずつ読み進めていくだけではなく、同じ本を読み返すことも多い。
再読というのは実に不思議なものだ。何度か読むことで、ようやくその本の「エキス」を引き出せる事もあるし、その本のまったく別の側面を見つけることもできる。それが読書の楽しみの一つであることは間違いない。ある意味では、本から本へと巡る読書の旅は、何度読み返しても楽しめるようなそんな本との出会いを求めていると言ってもいいかもしれない。
さて、本は本棚にある限りいつでも再読することができる。では、「あなたの人生」はどうだろうか。あなたの人生は「再読」することができるだろうか。
人生は1冊のノートにまとめなさい―体験を自分化する「100円ノート」ライフログ |
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奥野 宣之
ダイヤモンド社 2010-11-27 |
ライフログノートの作り方
本書は、自分の人生を再読するための「ライフログノート」の作り方について書かれた本だ。私などは「ライフログ」=「Evernote」という発想がすぐに出てくる。つまりはデジタルによる一元化だ。
しかし、本書はあくまでもアナログのノートにこだわっている。その点で言えばデジタルデータ化に対して距離を置いている人、日常的にアナログノートを使っている人にとっては非常に取っつきがよいだろう。実際、アナログノートとペンだけあればとりあえず始められる「ライフログ」というのは始めやすいと思う。
そしてやってみれば分かるが、それは案外楽しい。少なくとも習慣化するためには多少の工夫は必要だろうが、続けていけばそれが楽しく感じられるようになると思う。むしろ、いかに楽しめるかを考える事が続けるためのコツと言えるかもしれない。
そういう記録を1年後、2年後、3年後、・・・とたった後に読み返してみれば、「人生を再読する」という事の意味が分かると思う。その体験はここで言葉にしても十分なものにはならないだろう。唯一、良書の再読がそれに近いと私は思う。
自分のお気に入りのフレーズを読んでワクワクし直したり、気づかなかった伏線を発見したり、行間の意味合いを発見したり・・・。そういう楽しみが「ライフログノート」を読みかす行為の中にも眠っていると思う。
実際のライフログノートの作り方や、注意点などは本書に丁寧に解説されてあるので興味がある方は一読すればよいと思う。
章立ては以下。
序章 ライフログノートで体験を「資産」にする
第1章 ただ行動を記録することの意外な効果
第2章 ノートを自分の分身にする
第3章 どうやってノートに残すか
第4章 何をノートに残すか
第5章 どう継続し、読み返し、活用するか
付録 ライフログノートを補助するツール23
ライフログノートの始め方としては第4章が詳しい。ここを読めばとっかかりが見つかることだろう。
過去を確保する
ノウハウの紹介の部分は置いておくとして、印象に残った文章を引用しておく。
僕は、こういった「いい過去」をきちんと持っておくことが、人間が生きていく上で、意外と大切なことだと思っています。
あなたは「いい過去」を持っているだろうか。私はほぼ日手帳をパラパラと見返せば、わずかながらでも「いい過去」を発見することができる。それは小確幸かもしれないし、とてもうれしいことかもしれない。しかし11ヶ月もすごせば、楽しいことの一つや二つはまず見つかる。それが私がほぼ日手帳を使っている理由なのかもしれない。
「楽しい」という感情を再体験すること。過去の体験を相対化して新しい価値を見いだすこと。それが「人生を再読する」という事の持つ意味だ。これは感情や体験を記録して残しておかないと実行することはできない。人間の脳は単純に記憶を保存しておけるほど優秀ではない。だから何らかの手段を使う必要がある。
それが100円ノートだろうと、モレスキンだろうと、ほぼ日手帳だろうと、何でも良いと思う。Evernoteだって選択肢の一つだろう。
人間は悪い状況になれば、悪い事しか目に入らなくなる。そういう時でも「いい過去」に触れる事ができれば、自分自身を相対化することができる。「いい過去」「悪い過去」が並んでいるのをみれば、「まあ人生なんてそんなことの繰り返しだよな」と思うことができる。
そういう意味で、「ライフログノート」を書き残していくことは「人生の航海日誌」を作る事であるとともに、次の進路に向けたチャート作りへの土台にもなっていると思う。過去を現在につなげ、そこから未来を想像する。そういう道順を辿るためには「過去」を記録に残していくしかない。
さいごに
私は「誰でもライフログをつけるべきだ」とは提唱しない。もし自分の人生にいっぺんたりとも愛情を感じていない人がライフログをつけても特に意味はないだろう。あるいは憎悪が膨らむことになるかもしれない。しかし、自分や自分の周りにあるもの、いる人、それらを含めた環境に対してわずかでも「好感」を感じているならば、こうした記録を残しておくことは有益だと思う。
例え良書に巡り会う確率が1%でも1000冊の本を読めば10冊は「とても良い本」と遭遇できる。50冊ぐらいは「良い本」かもしれない。100冊ぐらいは「普通の本」だろう。もし、それらの本と出会えるならば、9840冊の読書体験は決して無駄ではない。であれば、日常の些細な記録だって同じ事が言えると思う。
手始めに「やたら文字ばかりの読みにくいブログを読んだ」という事からでも記録を取っておけばきっと面白いと思う。それを一年後見返したときに「あのころから全然かわってないブログだな」ぐらいの発見はきっとできるだろう。
▼こんな一冊も:
ほぼ日手帳 公式ガイドブック 2011 いっしょにいて、たのしい手帳と。 |
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ほぼ日刊イトイ新聞
マガジンハウス 2010-08-19 |
読書は1冊のノートにまとめなさい 100円ノートで確実に頭に落とすインストール・リーディング |
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奥野宣之
ナナ・コーポレート・コミュニケーション 2008-12-05 |
情報は1冊のノートにまとめなさい 100円でつくる万能「情報整理ノート」 (Nanaブックス) |
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奥野 宣之
ナナ・コーポレート・コミュニケーション 2008-03-12 |
モレスキン 「伝説のノート」活用術~記録・発想・個性を刺激する75の使い方 |
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堀 正岳 中牟田 洋子
ダイヤモンド社 2010-09-10 |
EVERNOTE「超」仕事術 |
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倉下忠憲
シーアンドアール研究所 2010-08-18 |
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