7-本の紹介

書評 「ダニエル・カーネマン 心理と経済を語る」(監訳 友野典男)

「ダニエル・カーネマン」と聞くと、行動経済学あるいは、プロスペクト理論がすぐに出てくる人にとって、本書はあまり効用が高い本ではないかもしれない。2002年にノーベル経済学賞したカーネマンの実績、あるいは人となりについて知りたい人ならば、well-beingな一冊だろう。

ダニエル・カーネマン心理と経済を語る
ダニエル・カーネマン心理と経済を語る ダニエル カーネマン Daniel Kahneman

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行動経済学に関しては、特徴ある本がすでにいくつも出版されているわけだが、この学問がどのような成り立ちをしてきたのか、そしてその中心的な存在であった学者が何を思っていたのか、という点が含まれているのが本書の特徴になる。

論文がメインの構成になっているので、実践的応用という部分についてはあまり期待しない方が良い。あくまで理論の基本的な理解というのが、目的になるだろう。

「実践的」という部分に興味があるならば、リチャード・セイラーの「実践行動経済学」やダン・アリエリーの「不合理だからすべてがうまくいく」あたりが面白く読めるので、そちらをおすすめする。

概要

おおまかな構成は次の通り。

第1章 ノーベル賞記念講演 限定合理性の地図
第2章 自伝
第3章 効用最大化と経験効用
第4章 主観的な満足の測定に関する進展

第1章はノーベル賞記念講演の内容である。ここを読めば「プロスペクト理論」の概要は掴まえられるだろう。第2章ではカーネマンがどのような経緯で成果を積み重ねてきたのかが分かる。この二つの章はずいぶんと読みやすい。

それに対して第三章と第四章は論文になっていて、読み慣れていないととっつきにくい印象を受けるかもしれない。しかし、難しい語句が多様されていたり、数式が飛び交うようなものではないので、じっくり読めば問題はないだろう。

第3章の「人は経験効用を最大化することによく失敗する」という指摘、第4章で提案されているU指数(経済不快指数)は、面白いだけではなく、現実の私たちの生活を考える上でも重要な要素になってくるはずだ。

プロスペクト理論と直感

第一章の表題に出てくる「限定合理性」、これが行動経済学のキーワードの一つといってよいだろう。

旧来の純「経済学」が想定する経済人__情報をくまなく収集し、経済合理性をひたすら追求する__はあくまで仮説的な存在であって、人間は「合理的」な存在ではない。だからといって「非合理的」な存在でもない、というのが「限定合理性」という言葉が持つ意味である。

人は合理性を働かせようとするわけだが、それが限定的なものでしかない、という認識が一つの出発点になっている。

そして意思決定の中で重量な役割を担うのが、「直感」である。これがあまりにも強力すぎるので、人はやすやすと直感に身を委ねてしまう。しかし、それは万能兵器ではない。ネコ型ロボットに近いかもしれない。

直感の功罪については、マルコム・グラッドウェルの本が面白く読めるが、ようはこういうことだ。

直感はこんなふうにたいへん高度なことをするのですが、にもかかわらず直感はまた系統だったバイアスやエラーを犯してしまう傾向があります。

直感は強力、でも限界はある。でもって、直感は「系統だった」バイアスやエラーを犯す。つまり、無秩序ではないのだ。

起きそうなバイアスはあらかじめ予想しうるということだ。これが「行動経済学」の学問たるゆえんである。その中核を成す「プロスペクト理論」はすでに、行動経済学の名前を超えて、さまざまな分野で見いだされている。そのあたりは「プライスレス」という本に詳しい。

プロスペクト理論を簡単にまとめれば

つまり、効用の担い手は変化であり得失であって、富の絶対量ではない、というのがプロスペクト理論

ということになる。ここに「損失回避性」や「確実性効果」などが加わると、人の心の動きを誘導することも不可能なことではなくなる。特に直感だけで意思決定をするような場合は、特にだ。

さいごに

あまり実用的なアドバイスが詰め込まれた本ではないが、「監訳者解説」の中に、カーネマンのインタビューの答えが紹介されている。そのインタビューの質問は「人生の満足を高めるためにはどうしたらよいか」というものだ。

カーネマンは次のように答えている。

  1. 時間の使い方を変えなさい。時間は究極の稀少資源だから、そうであるように使うべき。
  2. 人生を悪くするようなことではなく、人生を豊かにするようなことがらに注意を向けるべき。
  3. 注意を払い続けるような活動に時間を投資すべき。新車を買って運転しても、車には注意を払わなくなる。しかし友人と社交しているときには、その活動に注意を払っている。そのような活動に従事すべきだ。

行動経済学の専門家が述べるアドバイスが、いかにも自己啓発書に出てきそうなものと一致している点が興味深い。「その科学が成功を決める」ではないが、古典として語り継がれているような事柄には、それを裏付けるような理由があるということなのだろう。

ちなみに、この解説の中でwell-beingとhappinessの違いに触れられていたのが興味深かった。

happinessは「幸福」の訳で問題無いが、well-beingにはぴたりと来る言葉が見つからない__とりあえず本書内では「満足」となっている__らしい。

言葉がないというのは、その言語を使う文化に相当する概念が存在しないとするならば、今までの日本はひたすらhappinessばかりを追求して、well-beingをどこかに置き忘れてきたのかもしれない。そんなことをちょっと考えてしまう。

▼こんな一冊も:

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