4-僕らの生存戦略

アリ社会とほぼ日とビジョカン

昨日紹介した『働かないアリに意義がある』という本では、アリの社会構造が詳しく紹介されています。日本企業の構造に比べると、その社会は非常にフラットな形をしてるようです。

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日本企業の多くは、ピラミッド型の構造で、中部には「中間管理層」が詰め込まれています。下の情報を上にあげ、上からの指示を下に伝える、そんなパイプ役的存在です。

アリの社会にはこういった「中間管理層」という概念がないようです。いわゆる「女王アリ」も、私たちがイメージする「女王様」というよりは、単なる「生む機械」的な存在で、独裁者という感じではありません。

昆虫の社会には、人の組織にあるような階層的管理理システムがありません。システムがない以上、1匹1匹のワーカーたちがコロニー全体の情報を把握して指令を出すなどということもあり得ません。

しかしながら、アリの社会は今日も私たちの足下で整然と維持されています。では、どのようにして必要な個体数を必要な場所に配置しているのでしょうか。

それを説明するのが「反応閾値モデル」です。

反応閾値モデルについて

上記の本では「反応閾値」=「仕事に対する腰の軽さの個体差」と説明されています

例えば、部屋がちらかっていたとしましょう。

その散らかり具合を仮に10(MAX100)としておきます。そうすると、その散らかり具合に反応するアリが片付けに動き出します。全てのアリではなく、10の散らかり具合が「気になる」アリです。

決算が近く、片付けをしばらく放置して散らかり具合が40になったとします。すると、先ほどのアリに加えて、「そろそろ片付けなきゃな」というアリたちも清掃要員に加わります。

これが「反応閾値モデル」です。ある集合の中に「散らかり具合への気になりやすさ」が異なった個体が含まれていれば、ほどほどの時は少数、大きな事象の時は、多数のアリが行動に移るという形で、擬似的な「仕事の振り分け」が行われるわけです。

つまり、腰が軽いものから重いものまでまんべんなくおり、しかもさぼろうと思っているものはいない、という状態になっていれば、司令塔なきコロニーでも必要な労働力を必要な場所に配置できるし、いくつもの仕事が同時に発生してもそれに対処できるのです。

ほぼ日の組織論

直接中を拝見したわけではありませんが、「ほぼ日」の組織もフラットな構造になっているそうです。

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上記の日経アソシエでは、

部署や階層がなく、1人でいくつものプロジェクトチームをかけ持ちします

と紹介されています。

また、「ほぼ日」の「コンテンツの進め方」には水路のモデルというものがあるそうです。アソシエにも紹介されていますし、「Unusual(変わってる)」という連載の中でも「クリエイティビティの3つの輪」として紹介されています。

3つの輪は、1.動機、2.実行、3.集合と名付けられ、それらが直結し、さらに社会にむかって開かれているというのがこのモデルの特徴です。

この中で基点になるのが1.動機、だそうです。

まず起点になるのが、「動機」です。
自分がおもしろいと思う、
心が動く、あるいは、違和感をもつ。
そういうものを発見するところから
すべてのコンテンツはスタートします。

強い動機は、まずその人のエネルギーを上げるでしょう。さらに、それに共感する人々も参加し、コンテンツを進めていきます。しかし、弱い動機ではコンテンツは前には進みません。

プロジェクトの規模や、予算や利益率ではなく、あくまで「強い動機」が基点になる。これをじーっと見つめていると、「反応閾値モデル」に見えてきます。もちろん、まったく同じというわけではありませんが、仕事をどう「分担」するか、という仕組みの部分だけに注目すると、ほぼ日の組織論は既存の日本企業よりは、アリ社会の形に似ていると言えるでしょう。

誰でもいいってわけじゃない

では、中間管理層を取っ払えばよいのかというと、そう単純な話ではありません。アリの社会でも「さぼろうと思っているものはいない」という前提があります。

「ほぼ日」でも、ここが「大企業」だから就職したという人は(たぶん)いないはずです。皆さんが「ほぼ日」の価値観に共感し、何かしらをやりたいという気持ちが強いはずです。

『ビジョナリー・カンパニー』という本でも「カルトのような文化」というテーマで、企業の中に一つの価値観を創り出すことが紹介されています。その価値観にうなずける人を雇い、裁量を与える。そこに強い動機付けが生まれる。こういう構造が無い状況では、中間管理層がなくては仕事を前に進めることはできません。

『ビジョナリー・カンパニー』で紹介されているノードストロームの社員の言葉が印象的です。

ノードストロームに入ってはじめて、特別なチームの一員になれたと感じた。確かに仕事はきついが、猛烈に働くのは好きだ。これをやれ、あれをやれと命令されることはないし、好きなだけ働ける。起業家になったように感じている。

アリの社会でも、自分の遺伝子を後に残すという使命が各個体で共通しています。だから、「自己犠牲」的な行動が見られても、それは一歩引いて見ればその個体にとっての最適な生存戦略にすぎないそうです。アリは基本的に「自分がやりたいことをやっている」だけだ、ということです。

人間社会において、「さぼろうと思っているものはいない」の状態を作ろうと思えば、組織の価値観と合致する人を雇い入れ、その人のモチベーションが高い状態を維持しておく必要があるでしょう。

さいごに

これらは別に「アリの社会を真似しなさい」という事ではありません。

組織の作り方(あるいは在り方)を考慮すれば、中間管理層が存在しなくても、仕事を前に進めていくことは十分可能ということです。逆に言えば、単に中間管理層を取っ払ったら、それで「風通しの良い組織」になるわけではないでしょう。もっと根本的な組織の在り方から変えていく必要があります。

その点を考えずに、単なる「中抜き」を実行してしまえば、不具合が生じます。例えば、「反応閾値モデル」を機能させるには、バラエティーに富んだ人を揃えておく必要があります。型で切り抜いたような人材しかいない組織では、反応閾値もほとんど同じでしょう。これでは、「誰も何もしない」か「皆ががむしゃらに取りかかる」の二つのパターンしか生み出せません。

どのような組織の形が「理想か」という話は置いておくとして、中間管理層なしで組織を作る場合、以上のような要素はとても大切なものだと思います。

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