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【書評】『スペンド・シフト』(ジョン・ガーズマ マイケル・ダントニオ)

Posted on 2011 年 7 月 28 日 by Rashita

日本語のサブタイトルは「<希望>をもたらす消費」とある。

これを見たとき、消費行動が変化しつつあるというテーマの本かと思った。例えば鈴木健介氏の『わたしたち消費』のような本だ。つまり、人々は「希望」を買うためにお金を使うようになってきている、といった話が展開されるのを予想していたわけだ。

しかし、目次をペラペラめくっていると、どうもそうではないらしい。

スペンド・シフト ― <希望>をもたらす消費 ―
スペンド・シフト ― <希望>をもたらす消費 ― ジョン・ガーズマ マイケル・ダントニオ

プレジデント社 2011-07-20
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原題のサブタイトルは「How the Post-Crisis Values Revolution Is Changing the Way We Buy, Sell, and Live」となっている。単に「買う」だけの話ではないのだ。タイトルにあるSpendを辞書で引くと、次のような意味が出ている。

spend(goo辞書)

1 〈金・財産・資源などを〉使う;〈金などを〉(物・人・事に)使う
2 〈時間を〉(…して)過ごす, 送る((in …, doing));(…に)費やす
3 ((文))〈労力・思考・言葉を〉費やす, 使う, 用いる;〈命を〉かける, 〈心血を〉注ぐ

米国では、これらが「シフト」してきている。そういうテーマだ。

時間とお金と投資

近年の米国における個人消費の位置づけは大きい。モノをたくさん買う人がいるから、モノがたくさん売れ、それを作る仕事が生まれ、雇用が維持され、そこで給料が発生し、モノをたくさん買う人が・・・と好循環をみせる。

が、アメリカの消費者は基本的にクレジットカードという「借金」で消費活動を行っていた。あるいは身の丈に合わない住宅ローンもある。そうやって将来からの借金で積み上げられた「華々しいアメリカ」も、サブプライムローン問題の後には、幻想あるいはハリボテだったことが見えだしている。傍から見ている人間ですらそう感じるのだから、渦中にいる人々はそれを痛感しているだろう。

ただ、その社会の内側にいる人々全てが絶望に寄り添っているいるわけではない、と本書では説く。不況の中でも、いや不況の中だからこそ、お金の使い方を考え直そうという動きが起きているというのだ。

アメリカの消費者は、経済力の低下にもかかわらず、市場では以前よりむしろ大きなパワーを発揮している。思慮深い支出をとおして需要を抑制することにより、品質を向上させてより責任ある行動をとるよう、企業に迫っている。

不況の時に、倹約する風潮が見られるのは珍しいことではない。しかし、スペンド・シフトの環境下にある消費者はこう言うのだ。

「あなたたちの企業理念や行動価値観が、私たちのものと合致しているなら、購入してもいいですよ」と。

お金をより多く消費することがステータスシンボルのような時代では、このような消費者の声は小さすぎて、企業の耳には届かなかっただろう。

不況であるからこそ、こういった声に力が出てきたというわけだ。さらに企業と個人、あるいは個人と個人をつなぐソーシャルメディアの存在もそれに拍車をかける。企業が個人の声を拾い上げ、フィードバックを行う。あるいは、発言力のある個人が、自身の価値観とそれにマッチする商品をブログで紹介する。

今までの「マーケティング」や「押し売り」の概念では考えられない手法だが、この変化に鈍感な企業は徐々に市場での印象を薄めていってしまうだろう。

アメリカ社会のそのような変化を、具体的な事例を多数交えて紹介しているのが本書である。

日本でも有名になっている「ザッポス」も出てきているが、私はそういった企業のお話よりも、個人あるいは小さいグループが、どのように希望を見出し、人生をスペンドしているかの方が興味深かった。「キックボードでピクルスを売り歩く」とは、なんとも心躍る「サクセスストーリー」ではないか。

他にも、苦境に陥る地元「デトロイド」__モーターシティーと呼ばれた街__にあえて残り、そこで地元に根付いた商売を行う人々の話も面白かった。先行きが見えないリスクはあるものの、「どん底」に陥ったデトロイドの生活コストは低い。商売を始めるにはうってつけな環境なのだ。

つまり、地元で稼いだお金を地元で使い、多くの人々にこの町を捨てさせた不安に立ち向かおうというのだ。これは戦術というより生き様であり、希望の表明である。

私自身も、大阪や東京といった場所ではなく、地元で稼ぎ、地元でお金を使っている。都市部にいけば、仕事のチャンスは増えるのかもしれないが、何かが失われる感触がある。「希望の表明」というほど大それたものではないかもしれないが、こうして田舎でカタカタと物書きしているのは、私なりの価値観の表明と言えるかもしれない。

スペンド・シフトは、「賢くお金を使いましょう」ということではない。それ以上の質的な変化だ。「何にお金を使うのか」「どのように時間を過ごすのか」「何に意味を見出すのか」という事柄__つまり「どう生きるのか」__が、大きく変わりつつある現象を示している。

スペンド・シフトの5つの価値観

スペンド・シフトした人々の価値観は、次の5つに分類されている。

  • 不屈の精神
  • 発明・工夫
  • しなやかな生き方
  • 協力型消費
  • モノ重視から実質重視へ

これが、苦境の中で生きて行くためにアメリカの人々が選んだ(あるいは選ぼうとしている)最適化なのだろう。生存戦略だ。

この価値観を良し悪しで判断しても意味がない。一過性のブームなのかもしれないし、本質的な変化なのかもしれない。それは後の経済学者に判断を委ねればよいだろう。

苦境の中で前向きに生きていこうと思えば「希望」が必要になる。その希望となり得るのが、これらの価値観なのだ。こんな状況でもなんとかやっていける、将来をよりよくしていける、そう思えるからこそ、人は行動的になれる。ハゲタカ風に言えば「資本主義の焼け野原」を目の前にして、自らを奮い立たせることができるのが、上のような価値観というわけだ。

こういった価値観に適合できない企業は、今後苦境に立たされるかもしれない。逆に、人々のこうした価値観を支持し、サポートできる企業はたとえ小さなものであっても、歓迎されるようになるだろう。人々の生き方の選択の変化が、企業の在り方も変えてしまう可能性を秘めていることになる。

日本でのスペンド・シフト

本書を読み終えて、真っ先に感じたのは「日本はどうだろうか」という疑問だ。

掲載されているデータによれば、2009年時点でアメリカ人におけるスペンドシフトの対応状況は、実践者が54.5%。初期フォロアーと呼ばれている上記の価値観に一致する姿勢を持つ人が26.6%だ。これに対して、日本では実践者が26%、初期フォロアーが40%。ちなみに、実践者のパーセンテージでは、21%の中国の上で、34%のチェコの下に位置している。

本書で述べられる消費の変化は、日本でも確かに見られる。ただ、これが「スペンド・シフト」になり得るのかは難しいところだと思う。前述したように、「スペンド・シフト」は単なる倹約とは違う。消費のスタイル、時間の使い方、何を大切にするのかという価値観、そういったもののシフトだ。そのムーブメントが起こるのかどうか、私の視野では見えてこない。

企業に勤めている人は、労働時間の短縮で、時間の使い方が変わったかもしれない。電力問題で、電気の使い方や時間の使い方が変わったかもしれない。そういう意味で、変化の芽は確かに生まれているとは思う。その芽が育ち、個人の生き方に変化を与えるところまで行くのかどうか__ティッピング・ポイントを超えるかどうか__がポイントになるだろう。

例えば、次のような記述は日本に置き換えてもうなずける部分が多い。

他方、世の中が一様に苦しい状況に陥ったため、かえって連帯感が生まれ、新鮮なアイデア、特に数字に裏付けされた情報にもとづく見解を聞こうという意欲を強めた人が多かった。

では、この記述はどうだろうか。

これはおそらく、「世の中のほぼ全員が大混乱に荷担したため、自分も一定の責任を負う覚悟ができている」という気づきが共有されていたからだろう。

あるいは、2000年代に成人を迎えた「新世紀世代」についての記述はどうだろうか。

技術習得に熱心で、自分たちの手で満足いく生活を実現する責任を引き受け、困難やプロジェクトに独力で立ち向かう。彼らは不況でもお金やモノをほとんど失っていないという意識で人生と向き合っているため、リスクを恐れずにすむ。

もし、これに「うんうん、そうだ」と頷く人が多いのであれば、日本もアメリカと同じようなスペンド・シフトに向かっていくのだろう。そうでないならば、日本はスペンド・シフトできない___ということではない。ただ、何かしらの価値観を自ら立ち上げていく必要はあるだろう。

アメリカの新しい価値観が、実は原点回帰であるように、生み出される価値観とその国の社会制度や歴史は強く結びついている。こればかりはコピペチックにモノマネできるものではない。

さいごに

今の日本、そしてこれからの日本というものを思い描いたときに、どのような価値観が希望を生み出すのか。そして自分は「どう生きるのか」。

テレビのスイッチを切って、それについてじっくり考えてみる必要があるのかもしれない。

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