7-本の紹介

【書評】『災害とソーシャルメディア』(小林啓倫)

さまざまなSNSが次々に登場し、ネット上での主導権を握ろうとしている。

一体どのサービスが覇権を握るのかは、サイトーの鷹の目を持ってしても見通すことはできないだろう。ただ、私たちの生活の中にそれが一定レベルで定着しているという状態はおそらく変わることはない。スマートフォンの拡大で、これがさらに勢いづくことも考えられる。

特にツイッターは「3.11」以降、日本で知名度を大きく上げた。テレビというマスメディアの中で、一つの「情報源」として扱われたからだ。マスメディアでその存在を知り、ツイッターのアカウントを取得された人も多いかもしれない。しかしながら、マスメディアで紹介されたソーシャルメディアの動きは全体像の中のごく一部でしかない。「情報がすばやく伝達される」という理解だけでは十分ではないのだ。

本書は、「東日本大震災」の中でソーシャルメディアがどのような役割を果たし、またどんな問題点があったのかを考察していく。

災害とソーシャルメディア ~混乱、そして再生へと導く人々の「つながり」~ (マイコミ新書)
災害とソーシャルメディア ~混乱、そして再生へと導く人々の「つながり」~ (マイコミ新書) 小林啓倫

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その考察を通り抜ける中で、ソーシャルメディアと災害との関係性の中に眠る可能性、ひいては私たち__つまり受信者であり発信者である参加者__がどのようにこの新しいメディアと接すればよいのか、についても問題提起をしていく。

概要

章立ては以下の通り。

第1章 ソーシャルメディアが可能にした災害時コミュニケーション
第2章 ソーシャルメディアを支援するもの
第3章 社会を動かすソーシャルメディア
第4章 デマの問題と対策
第5章 ソーシャルメディアの今後

震災以降、ソーシャルメディアにかぶりついて、情報をひたすら追いかけていた人間__つまり私のような人__にとっては、第1章から第3章までは復習のようなものだ。ハッシュタグが果たした役割、技術的な背景や支援体制、ソーシャルメディアが持つ性質などが紹介されている。

災害時という平時ではない状態においては、次の指摘が大変重要だ。

それは手書きの新聞といったアナログな手段だろうが、あるいはテレビやラジオといった主要メディアだろうが、携帯電話やインターネットといった最先端のメディアだろうが関係ない。そして各々の特徴を理解し、どうすれば最大限に活用できるかを考えることが求められるのである。

できるだけ速く、最適な形で、必要な人に必要な情報を届けること。この役割の前ではメディアの優劣など考慮するのも虚しいだけだ。そのメディアが持っている特性を最大限に活かし、「やるべきことをやる」。それに尽きるだろう。

そういった事態に直面すれば、各メディアの「中の人」は、自分たちに何ができるのか、何をすべきなのかを真摯に自問しなければならない。

出てくる答えに正解はないだろう。誰も赤ペンで花丸を付けたりしてはくれないかもしれない。しかし、メディアという公共性の高いものに所属している以上はその問いは避けることができないはずである。

そういう意味で、複数の「メディア」を持つことができる現代は、情報の流通におけるリスクヘッジが効いていると表現できるかもしれない。もし限られたメディア・チャンネルしかなければ、そこが「誤った」判断__ある種の情報は流さないといった__を下してしまえば、私たちへの影響は少なからず出てくる。マスメディアの中でも複数の媒体が、あるいはソーシャルメディアという存在が、複数に、並列的に存在していることの意味は大きいだろう。

「自分たちに何ができるのか、何をすべきなのか」という問いかけは、各メディアの「中の人」が行わなければならない、と書いた。ということは、ソーシャルメディアの「中の人」、つまり私たちも同じ問いかけに向き合う必要がある、ということだ。

それを考える上で、本書の第4章と第5章は一つの思考材料になり得る。

デマとの付き合い方

第4章では「デマ」の問題に取り組んでいる。あの時ツイッターを使っていた人であれば、見たことあるツイートがいくつか紹介されているだろう。こうしたデマが流れるから、ツイッターは使い物にならない、というのはいかにも早計だ。ツイッターでなければ実現されなかった情報の流通もたしかにあった。それを切り捨ててしまうことは得策とは言えない。

となると、いかにこの「デマ」に対応するかという問題が浮上してくる。が、これは簡単な話ではない。ルールやシステムで縛りすぎると、ソーシャルメディアが持つ特性を殺しかねない。かといって、まったく共通のルールが無くてもよいというわけでもないだろう。

情報とどう付き合えばよいのか

キーワードの一つは、本書でもあげられている「自浄能力」だ。これをいかに高められるか、というのが一つの課題になってくるだろう。その課題に挑戦するのは、システム提供者ではなく、そのメディアを構成する私たちだ。

例えば、情報の拡散に公式RTを使うことや、誤情報に関する情報も積極的に拡散していくというのが、それにあたるだろう。あるいは明らかに誤りな情報を見かけたら、自分でもしっかりと発言していくことが求められる。

こういったことはテレビを眺めているときには、あまり意識する必要はなかった。しかし本来は、流れてくる情報に対して「これって本当なのかな」「別の視点もあり得るのではないか」「とりあえず<速報>だね」という認識を持つ必要があったはずだ。

ただ、一般の人がテレビから流れてくる情報を「真に受けたり」「曲解」していたとしても、他の人に大きな影響を与えることがなかったから、特に問題視されてこなかっただけであろう。受信者=発信者であるソーシャルメディアではそれが如実に見えてくる。そして、それが実際になんらかの影響を及ぼしかねないという自覚は持っておかなければならないだろう。

ものすごく簡単な言葉を使えば、これは「情報リテラシー」の有無ということになる。しかしこの言葉でくくってしまうと、中身が分からないままになんだか分かったような気がしてしまうから不思議なものだ。

なんにせよ、デマの問題__流れてくる情報とどのように接するのか__は一度考えておく必要があるだろう。

さらなる可能性の広がり

第五章では、一歩引いた視点からソーシャルメディアと災害の関係性に触れられている。紹介されている事例は多彩である。

一番印象に残ったのは、「動画」のお話だ。ページをめくった際に、思わず吹いてしまったのだが「グレートありがとうウサギ」が「癒やし」の提供という項目内で取り上げられている。

正確な情報を流すというのがメディアの役割であるとしても、それ以外の情報が全く流れないというのは奇妙な事態である。あの無駄にクオリティが高い(もちろん褒めている)動画を見て、多くの人が笑ったとしたら__「笑い」は身体的にメリットが多い__、それも一つの役割であろう。

私たちの人間の身体が、異なった役割を持つ複数の細胞の塊で出来ているように、ソーシャルメディアでも、それぞれの人が自分なりの関わり方でその全体像を形成していく。今後参加する人が増えていくことで、今までのメディアや情報流通では想像もしなかったようなものが生まれてくる可能性は高まっていくだろう。

さいごに

自分の三冊目の本にも書いたが、ソーシャルメディアというのは参加者が、受信者でもあり発信者でもある。どんな人をフォローするのかはまったくの自由だし、いつでも変更できる。発信の形も140字という制限以外は特にない。「こうしなさい」というルールがない、定型がないというのがソーシャルメディアなのだ。

そのためには他のユーザーとの関係を結び、自分の好みに合ったネットワークを構築した上で、時には情報の発信・編集・集約といった役割も演じなくてはならないのである。その意味で、ソーシャルメディアは常に未完成のメディアであると言うことができるだろう。

著者が指摘しているように、ソーシャルメディアというのは常に未完成のメディアである。裏返せばいくらでも変化が可能なメディアということだ。

先ほど人間の身体で例えたが、私たちの身体も常に「未完成」だ。ある年齢までは身体が成長していき、その後も新陳代謝を繰り返しながら、不定の定型を維持している。これは、最初フォローする人を増やしていき、やがて一定数でストップ。その後はフォローとリムーブで自分のタイムラインを調整するというのに似ているかもしれない。

もちろん、フォローする人をどんどん増やしていき、リストで分ける方法もあるだろうし、まったくフォローする人を増やさないという使い方だってある。間違いが無いかわりに、正解もない。

だからこそ自分で考えて、試行錯誤の中で見つけていくしかない。これは社会全体において、ソーシャルメディアの使い方が試行錯誤の中にあるというのとフラクタルな構造をしているのかもしれない。

何はともあれ、ある種の人々に取ってソーシャルメディアはすでに「現実」の一部である。その他の「現実」と同じように、それが持つ力を知ると共に、現状抱える問題点についても知っておくのは決して無駄なことではないはずである。


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