7-本の紹介

【書評】『「新しい働き方」ができる人の時代』(セス・ゴーディン)

表紙右上には「Work3.0」とある。「〜3.0」は若干使い古された感のある「新しさ」の表現だが、今までとは違う「Work」が求められているという本書の要諦をうまく言い表しているだろう。

「新しい働き方」ができる人の時代
「新しい働き方」ができる人の時代 セス・ゴーディン 神田 昌典

三笠書房 2011-07-01
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原題は「LINCHPIN」。辞書で引くと、

  1. (荷車などの)輪止めくさび[ピン].
  2. 物事の)結合に欠かせないもの,要 〔of〕.

とある。この二番目の意味、つまり「欠かせない存在」「要(かなめ)になる存在」として働くことが求められる、というのが本書のテーマだ。

概要

章立ては以下の通り。

第一章 これが大きな成果を約束する「働き方」の新常識
第二章 誰でも「100倍の価値を生み出す人」になれるチャンスがある!
第三章 人の心に「感動を呼ぶ」仕事が最大の評価を得る
第四章 ”夢を形にできる人”は頭をこう使う!
第五章 「何かを与えられる人」だけが生き残る時代
第六章 「頭ひとつ抜ける人」へ今こそ成長するときが来た!

ぱっと見ると、あまりまとまりは感じられない。あと章題がやや煽り気味の感もある。

その煽り気味感は、本書の中でもちらほら見かけられる。もちろん、著者としては自分が感じている危機感を伝えたい思いがあるのだろうが、まるでイソップ童話の「北風さん的手法」のように感じられる。

特にP.126で展開される「爬虫類脳」の話なんかはとってつけたような感すらある。「安心欲求」という平坦な言葉や「象と象使い」のイメージに比べれば、「爬虫類脳」はいささか色味が強すぎる言葉である。
※ちなみに「爬虫類脳」はポール・マクリーンの脳の三層構造説からであろう。

という風に、本書の書き方に対する違和感はあるものの、書いてある内容に関しては共感できる要素が多い。

Work3.0とは?

きちんと定義されているわけではないが、本書が示す「働き方の変化」は

  • Work1.0 → 狩り・農耕
  • Work2.0 → 工場労働者(給与所得者)

となるのだろう。そして「新しい働き方」は

  • Work3.0 → アーティスト

となる。正確には「アーティストのように、才能を全開にして働くこと」と著者は述べている。この部分をもう少し詳しく引用しておく。

「アーティスト」と聞くと、単に絵を描いたり、音楽を作ったり、デザインをしたりして、自由気ままに暮らしている芸術家のことを思い浮かべる人も多いでしょう。
しかし、この本でいう「アーティスト」とは、「豊かな発想をもち、既存の枠にとらわれず、自由に、新しい価値を生み出していける人」すべてを指しています。

本書では、なぜそういう働き方が必要になってくるのか、またそういう働き方をする上で必要な心構えは何なのか、実際に何をしていけばよいのか、についてのアドバイスが詰め込まれている。

時代の変化、生き方の変化

アーティストのような働き方が成立するようになったのは、やはり時代の変化による影響が大きいだろう。

『ユダヤ人大富豪の教え』には、こんな式が紹介されている。

君が提供したサービスの量と質=君が受け取る報酬の額

どのような質のサービスをどの程度の量提供できたかが、受け取る報酬の額を決めるという式だ。この場合の「報酬」は金銭的価値を含まない場合もあるだろう。

私はこれをかけ算として捉えている。つまり、

提供したサービスの量×その質=報酬の額

というわけだ。つまり、質がゼロであればどれだけ大量に配っても報酬にはつながらないし、逆にものすごく高い質があっても、誰の手にも渡らなければそれもまた報酬はゼロになる。

今までは、サービスを配ることそのものに大きなコストがかかっていた。だから、質が低いものが流通に乗ることはなかった。ペイできる見込みが低いからだ。

が、今は違う。インターネット、あるいはソーシャルメディアの登場で、サービスを配るコストそのものが下がっている。さらに高機能低価格のクラウドツールの登場で、個人でもそれほど制作コストをかけずにサービスを作成・運用することができる。

このような環境でこそ、上の式が本当に意味を持つことになる。

低い質でも大量に配れば価値が出るし、逆に高い質のものをある程度の人に配っても良い。選択肢は多様だ。こうして、個人でも価値あるサービスを生み出していくことができるようになってきている。

その環境の変化は、会社にも変化を引き起こす。

IT化、海外労働者、そして価値あるサービスを提供する個人の登場、そういった環境の変化の中で、「言われたことをただこなしているだけの人」の価値は相対的に下がらざるを得ない。それはもう、どうしようもない事実だ。全ての会社を「株式会社日の丸」の傘下に加えない限り、そういった人の価値を守り続けることはできない。

もし財務上の必要性からリストラが行われる場合、「この仕事にはこの人がいないとなぁ〜」という要の人間が残されるだろう。仮にそういう人間を残さない企業は時間と共に消滅していくに違いない。結局の所、個人でも仕事ができるような人が企業の中でも仕事し続けていられるようになる、ということだ。

ただ、この変化が日本でどの程度の速度で起こりうるのかについてはまだ分からない。

以前、村上龍は日本社会を「じわじわと死んでいくのではないか」と書いていたが、社会全体が変化に対応できないまま、対処療法を繰り返し、タイタニック号の中で憂い続けるのかもしれない。ただし、その間は同じように働いて行ける。それが5年なのか10年なのか、じつはもう無理なのかは私にはわからない。

さいごに

具体的なアドバイスについては、全て本書を直接当たってもらうとしよう。それが本書の要の内容だ。書かれていることに共感した部分は多くある。

本書にもあるが、独立して仕事をすることだけが「アーティスト」に至る道ではない。企業の中にいても、あるいはアルバイトだって「アーティスト」的に働くことはできる。つまり「アーティスト」というのは職業ではなく、生き方の呼称なのだ。

最後に一つだけ、本書が提示する「今、社会が必要としている人」の特徴を引いておこう。

  • ユニークな発想ができる人
  • 問題意識をもてる人
  • 会社を引っ張っていく人
  • 積極的に人とのつながりをつくっていく人
  • 逆風を恐れず必要な指摘をして、変化をもたらしていける人

こういう人にあこれがれを感じるならば、本書は背中を押す役割をしてくれるだろう。

ただ、上記のような要素には共感できないが「そうしなければ生き残れないから」といった恐怖感で取り組もうとするのは止めた方がよい。

結局の所、必要なものは自分の人生を自分で背負い込むということなのだから。

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2件のコメント

  1. ちょうど同じ書籍を昨日読んだのでコメントさせていただきます。
    僕は古い価値観(本書で表現するならば働き方1,0)の福祉業界で働いています。じわじわ日本が衰退していくと同時に福祉業界も衰退してしまう・・・と感じています。
    まずは一人が立ち上がって行動しなきゃいけないと感じます。

  2. >岡本大輔さん
    コメントありがとうございます。
    そうですね。まず誰かが立ち上がらないことには始まらないと思います。ただし、道は険しいと思いますので、じっくりと進んでいってくださいませ。

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