『まぐれ』『ブラック・スワン』のタレブの新著です。この著者は個人的「買わずにはいられない」リストに入っているので、即購入しました。
ブラック・スワンの箴言 |
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ナシーム・ニコラス・タレブ 著 望月衛 訳
ダイヤモンド社 2011-09-09 |
原題は「The Bed of Procrustes」:プロクルーステースのベッド。
ギリシア神話のちょっとしたエピソードが風刺的に用いられています。人の大きさにベッドを合わせるのではなく、ベッドのサイズに人そのものを合わせてしまう__足を切ったり、無理矢理伸ばしたり__恐ろしいエピソードです。
これから書く箴言はどれも、ある意味プロクルーステースのベッドにかかわるものだ。知識の限界、つまり自分には観察できないもの、見えないものや知らないものに直面すると、私たち人間は人生や世界を、わかりやすくてありふれた考え、目立つところにだけ焦点を当てた紋切り型、特定の用語、出来合の講釈に押し込もうとする。
行動経済学に関する書籍に目を通せば、タレブが言っていることがどれだけ「ありふれている」かに呆然とするかもしれません。しかも、たちの悪いことに私たちはそのことにあまり気づかないのです。
間違った場所にものを入れたあげく、自分が間違っていることすらも認識せず、その「もの」が悪いんだ、という評価を下してしまいがちです。「経済学のモデルに合わない。これは異常な現象だ」__現象とモデル、どちらが「異常」なんでしょうか。
3つのターゲット
本書はタレブの「箴言」が392個詰め込まれています。どれも強烈に皮肉的でありながら、なるほどな、と考えさせられるものが多数あります。
数々の箴言の中でタレブが何度も非難(あるいは攻撃)しているのは、
- バカ(あるいはカモ)
- 学者(特に経済学者)
- 会社員
の3つ。その物言いは恐ろしく辛辣です。
例えば、会社員については以下のような「お言葉」があります。
サラリーマンとは制度化された奴隷のことだとわからない人は、目が見えないか、さもなければサラリーマンかのどちらかだ。
読みの鋭いカール・マルクスは、自分は会社員だと思い込ませたほうが奴隷はずっと飼いやすいのに気がついた。
中毒になったら一番ひどいことになるもの三つ。ヘロイン、炭水化物、そして月給。
いくらなんでも、これはちょっと皮肉がきつすぎると思われるかもしれません。でも「箴言」なんてだいたいこんなものです。
上の3つ以外にもネットやSNSについてもタレブは警告をならしています。
このようなピリリと香辛料の効いた(あるいは効き過ぎた)言葉がお好きならば、本書は好みの一冊になるでしょう。そうでなければ、あまり近づかない方が良い一冊です。
さいごに
最後に一つ、気に入った「箴言」を。
あなたが生きている割合は、あなたが書いたものに現れる決まり文句の密度に反比例する。
さて、どのくらい私は生きているのでしょうか。ちょっと自問してみることにします。
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