カイザー・ファングという格闘ゲームに出てきそうな名前の統計学者が書いた『ヤバい統計学』に、渋滞に対する二つのアプローチが紹介されている。
ヤバい統計学 |
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カイザー・ファング 矢羽野 薫
阪急コミュニケーションズ 2011-02-19 |
一つは高速道路の渋滞に対する「ランプメータリング」。もう一つがテーマパークの行列に対する「ファストパス」。どちらも非常に面白いシステムだ。
両方ともシステムとしてうまく出来ているにも関わらず、人間の心理が__あの「不合理」なやつが__もたらす影響で利用者の評価が異なっている。その点もなかなか興味深い。
この二つの渋滞にするアプローチを用いて、タスクマネジメントについて考えてみたい。
ランプメータリング
どのような渋滞でも、起こる原因は「需要がキャパを超える」ことだ。高速道路の渋滞が起きるのは、道路を使いたい人が使える容量を上回った時になる。
なので、道路を増やしましょう、という施策が出てくるのだが、これには効果があまりない。道路が増えれば、それによって需要が刺激され、結局容量不足に陥る。これでは問題は循環していく。
容量不足の問題そのものを解決する方向性は一旦置いておく。理屈としては考えられても、現実的に無理だったり意味の無いことは山のように存在する。とりあず容量不足が前提だ。
容量不足を前提にすると、実際の問題はそこを走る車の数が多すぎることだ。これは当たり前のことに感じるかもしれないが、一応確認しておく。
まず、車の数が増えることで、必然的に事故の数も増える。また、車間距離が短くなることで頻繁にブレーキを踏む人が登場し、その余波が後ろの車、その後ろの車…と伝播していくことによって、道路を走る車全体の走行速度が落ち込んでしまう。
結局、私たちが実感するように「交通量アップ → 所要時間アップ」の構図が生まれることになる。つまり交通量が増えれば、到着時間がのびるという当たり前のことだ。
ランプメータリング
ランプメータリングは道路の容量を変えずに、この構図にアプローチする。
仕組み自体はものすごくシンプルだ。道路の交通量を監視し、それが一定量になって「ぼちぼちやばい」レベルになってきたら、高速道路に入る車を制限する。
※詳しい話は『ヤバい統計学』を参照されたし。
基本的なルールは「1回の青信号で車1台」。
このようにして、実際に道路を走る車の台数をコントロールする。つまり、実際に道路を使っている車と、それを使いたいと思っているけれども順番待ちの車の二つに分け、全体量を監視しながら、うまく流れるように調整するわけだ。
この調整によって、事故が起きる確率は下がり、そして道路を使う車の平均速度も上がる。結局、高速道路に進入する待ち時間を含めての所要時間が下がる。
当然道路が裁いている車の数も増えるわけだから「交通量アップ → 所要時間ダウン」という私たちの直感にそぐわない結果が生まれることになる。
みんながダラダラと進んでいるよりも、進める人をざっと進ませて、待つ人は速度ゼロで待つ、の形にした方が全体の最適化は進むことになる。
閉じてしまうこと
道路のキャパシティーは変化していない。道路を使いたいという人も変わっていない。しかし、ランプメータリングの仕組みを導入すると、実際に利用できる人が増え、その人が使う時間が減る。仕組みが持つ魔力だ。
この仕組みの重要な要素は何だろうか。それは一言で言える。高速道路の「クローズド」だ。
基本的に道路はオープンな仕組みになっている。日本の場合は有料だが、アメリカの高速道路(フリーウェイ)は基本的に無料である。走りたければ誰でも走れる。
このオープンな状態では、いろいろうまくいかないことが起きる。特に集中・過密状態は単に数が多い以上の効果をもたらしてしまう。
それに対する解答が「クローズド」だ。走れる台数を制限してしまうことで、走行中の快適さは上がり、所要時間も減る。
やることを閉じる効果
タスクマネジメントでクローズドと言えば、クローズドリストが想起される。『マニャーナの法則』で取り上げられているし、4冊目の自著でも簡単に紹介した。これも一つの仕組みだ。
リストをクローズドしようがしまいが、やりたいこと・やらなければならないこと・手持ちの時間・自分のスキルなどは一切変わらない。でも、クローズドにすると確かに何かが変化する。仕組みが持つ魔力だ。
たとえば、やりたいことが一杯ありすぎて、結局何一つ手に付かないということはないだろうか。あれもこれもと気が散っていると、人間の処理能力は落ちる。また、予定を詰め込み過ぎていて、一つの予定が狂っただけで全体の調整に大慌てになることはないだろうか。
これは人気の高速道路で起きている状況とまったく同じ構図を持っている。キャパ以上の需要があるのだ。しかし、キャパそのものを変えることには限界がある。
道路ならば、無理矢理税金を徴収してコスト度外視で作ることはできる。可能か不可能かで言えば可能だ。
でも、人間の手持ちの時間は24時間しかない。どれだけ睡眠時間を減らしてもそこは変わらない。また、どれほど鍛錬を積んでも電脳化しない限り、処理能力がめざましく向上するということも考えにくい。道路以上に容量不足を前提にする必要があるのだ。
※もちろん、(自分のことなので)そもそもの走らせる車の数を減らすという別のアプローチも存在する。が、これはまた別の話。
容量不足が前提ならば、「クローズド」の仕組みを取り入れるのは非常に効果的だ。「今日やること」と「今日はやらないこと」を区別し、リストを作るだけで(だけといっても手間はかかるが)、ランプメータリングと似たような効果が得られる。
さいごに
と、一見ランプメータリングは良いことづくしように思えるが、そういうわけでもない。その辺りはもう一つのアプローチである「ファストパス」との対比で紹介していくとする。
※本記事は連載記事であるが、(2)が明日書かれるとは限らないのであしからず。
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マニャーナの法則 明日できることを今日やるな |
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ディスカヴァー・トゥエンティワン 2007-04-05 |
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3 thoughts on “仕事の渋滞に対する二つのアプローチ(1)”