「タスク」の研究

仕事の渋滞に対する二つのアプローチ(4)

(1)(2)(3)の続きです。

話が拡散方向に向かっているので一度整理しておこう。

仕事が渋滞しているとき、つまり仕事量が多すぎてにっちもさっちもいかない(ような気分がする)時にどうすればいいのか、というのが一つの大きなテーマだ。

それを考えるために、物理的な渋滞問題を解決しているランプメータリングとファストパスという手法を紹介した。
※詳しい話は前回以前を参照のこと

まずは、一般的に考えられる方法から整理してみよう。

よくある方法論

とりあえず「道路」のアナロジーをもとに話を進めていく。登場人物は道路、車、運転手、到着時間、交通量、といったところか。

まず、道路が渋滞しているという状況からスタートする。日本人の方ならば、それがどういう状況かを描写する必要はないだろう。信号も存在しない高速道路の上に、まるで死骸のようにならぶ車の列。車は静止画像を見ているかのように、ごくゆっくりとしか進まない。そういう状況だ。

こういう状況が起きているとして、じゃあどうしようかという問題解決を考えると

・道路の幅を増やす
・車の数を減らす

という二つの方法が真っ先に浮かぶ。

前者は1車線を2車線に、2車線を3車線に、というわけだ。これがもっともシンプルな解決方法だ。逆に言うと力技でもある。仕事の状況に立ち戻れば、「仕事が多い?じゃあ労働時間を増やしましょう」という思考と等価になる。

ただし、このシンプルな力技はかなり高価である。日本の道路を増やすのもそうなのだが、労働時間を増やすことは企業コストで見た場合でも、自分の人生の時間の使い方を見た場合でも、それほど「安くはない」買い物になる。

方法の限界

さらに、現実では使用可能な交通量が増えることで、需要そのものが増えて時間が経てば結局似たような渋滞問題に悩まされるということもある。これは、仕事の状況に立ち戻っても同じ事が言えるのではないか。結局の所、時間を増やしてもその増やした時間に仕事が入り込んできて、渋滞している感覚は抜けない、そういうことはないだろうか。

もちろん、原理的にいって一車線の道よりは、二車線の道の方が良い。一車線だと事故が起これば一発で交通量がゼロになる。それが二車線だと多少フォローがきく。車線が多いにこしたことはないが、多いからと言って問題が全て解決するわけではない、という点は考えておく必要がある。
※もちろん、100車線ほど作れば、需要を上回る容量を提供できるが、コスト的に無理筋というものだろう。検討する必要は無い。

需要を抑制する

で次が、車の数を減らす、だ。極端なことを言えば「断る力」になる。

これもまたシンプルな力技と言えるかもしれない。道路で言えば、高速道路の料金を値上げする、あるいは年収が1000万円以上の人しか高速道路を使えない、はたまた商業車以外の使用を禁じる、といった施策の実施によって、利用者を制限してしまう。

こうして需要を押し下げれば、渋滞の問題は起こらない。相対的に道路のキャパを増やしたのと同じことになるからだ。

が、これも現実的な限界量というのは存在する。だいたい、「断る力」を発揮するにはある程度のレベルが必要だ。仕事量そのものを自分でコントロールできない環境も考えられる。

この方法論は、「こうできれば良いよね」という方法だ。使えれば絶対的な効果は出てくるが、万人が使えるというわけでもない。

別のアプローチ

上の二つの方法は、道路のキャパ(供給)と需要に直接的にアプローチする方法と言える。仕事する時間を増やすか、あるいは入ってくる仕事の絶対量を減らすという考え方だ。もちろん、この二つは当然引き出しとして知っておくことには越したことがない。BizArtsの一種ではある。

ただ、別の考え方もある、というのが前回以前の連載で紹介してきたことだ。

ランプメータリングは、道路のキャパもそれを使いたい人も変えることなく、車が多すぎて詰まってしまう、という自体を回避している。

ランプメータリングが示唆するのは、結局の所抱え込んでいる仕事の量ではなく、その流し方が重要だという点だ。

日本でも渋滞学という面白い「学問」があるが、例えば車間距離が詰まりすぎると渋滞の原因になる、という話がそういったところか出てきている。これは仕事においても同様だ。

バッファーを設定しない計画は、トータルで余計に時間がかかることがある。とある本にも書かれている通り、スケジュールとは確率なのだ。きちきちすぎる計画は、多少の誤差で全体に大きな影響が出てくる。

あるいは、ポモドーロテクニックでは「休憩」を取ることがその仕組みの中に組み込まれている。「だらだらとは仕事をしない」と決めて、集中と休憩を分けることで、全体の最適化を行う。やったことがある人は理解できるだろうが、ポモテクをやると確かにその25分間は仕事が進む。道路がまったく渋滞無くスイスイ進んでいる感じがする。もし、25分という区切りとその後の休憩がなければこうはいかない。

この辺りもランプメータリングの仕組みと同様の構造を持っていると言える。

ファストパス

ファストパスも同様に、容量と需要には手を加えない。ただ、一つの仕組みを加えることによって、利用者の「待ち時間」を減らす。正確に表現すると「待ち時間」を別のものに置き換える。

極端なことを言えば、ファストパスは利用者に「戦略」のバリエーションを与えることと言えるだろう。その時思い付く「乗りたいアトラクション」の行列を目にする度に並ぶのではなく、その時間を「予約」することで、待っている時間を別のことに使えるようにする。

言い換えれば、主体的に時間を使えるようにする。こういう状況であれば「またされている」というあのイライラ感はほとんど無いだろう。ある種「どういう順番で回るのか」という別の楽しみ方も発生するかもしれない。つまり、それも全体構造の中に位置するアトラクションの一つだと捉えることができる。

このファストパスをどのように利用するかは、ユーザーの判断次第だ。ただ、それを使うということは、自主的にその中で過ごす時間を(多かれ少なかれ)自分でコントロールするということだ。

ランプメータリングでは、利用者はコントロール権を持っていない。仕組みによって到着時間のおおよそ目安はかなり正確なものになる。また信号一回につき、一台ということが理解できていれば、あと何回信号が変われば道路に入れるかも予想することができる。しかし、待たされている感覚そのものは消えない。その点がランプメータリングの利用者には不満だったようだ。

ファストパスは、利用者に時間の使い方のコントロールを手渡す。実際にアトラクションに乗りたくなってから実際に乗れるようになるまでの、現実的な「待ち時間」はまったく変わっていないが、それを「予約」する仕組みを組み入れることで、時間の使い方に主体性(の感覚)が生まれる。

こうすれば待ち時間は「待ち時間」とは感じなくなる。

さいごに

さて、以上のようなことから何が言えるだろうか。

まず、手持ちの仕事量そのものは変わっていなくても、その流し方でこなせる仕事量が変わるというのがある、という点だ。ある程度ならば断る力を発揮しなくても、対応できることがある。

もう一つは、感覚の問題だ。極端なことを言えば、主体性のあるなし、というだけでも時間の感じ方は変わってくる。

ということで、次回は「じゃあ、どういう流し方をするのか」という点に踏み込んでみたいと思う。

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