あなたが、演劇の舞台に立つとする。その時、三つのシチュエーションを選べるとしよう。
- 進行からセリフにいたるまで全てアドリブ
- ちゃんとした台本があって、その通りに進行していく
- 登場人物が使いそうなセリフが集められた冊子があり、それを見ながら自分でセリフを選ぶ
さて、どれを選択するだろうか。
アドリブでやれば自由に進められる反面、何を言うべきかを瞬間瞬間で考えなければいけない。うまく成功したときの達成感はとてつもなく大きなものになるだろうが、反面実行中にかかってくる重圧も重い。なにせ芝居時間の中でそれなりに意味のあるストーリーにまとめ上げなければならないのだ。うまくいくかどうかははっきりとしない。
台本がある場合は、ごく普通の演劇の通りに進行していく。うまく進行するように台本が書かれているからだ。リハーサル次第では、進行に調整が入ることもあるだろう。そのようにして台本は常に機能するように維持されている。時と場合によってはちょっとしたアドリブが入ることもあるだろうが、全体の帳尻が大きく狂うこともない。きっと、どのように演技するのかに集中できるだろう。流れが見えているので、力を入れる部分、力を抜く部分も判断しやすい。
最後は少々やっかいだ。手元に冊子がある分、アドリブよりは安心を感じられるかもしれない。でも、実際の所、タイミングごとに「自分がどのセリフを言うべきか」を判断しなければいけない。結局、やっていることはアドリブとほとんど変わりない。ようするにこの冊子は「名ばかり台本」ということだ。
本書を読んでいて感じるのは、そういう「名ばかり台本」ではなく「台本」を持ちましょうという提案だ。
クラウド時代のタスク管理の技術―驚くほど仕事が片付いてしまう! |
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佐々木 正悟
東洋経済新報社 2011-11-25 |
※著者さまより献本いただきました。ありがとうございます。
概要
最初に書いておくと、本書はかなりマニアックな内容である。
テーマは「タスク管理」に関してであり、Toodledo、OmniFocus、Chatworkなどのツール紹介・使用実例がこまかく紹介されている。「タスク管理」について書かれた本はいくつかあるが、ツールの使い方を含めてここまで具体的に踏み込んだ本はあまりない。
さらに言えば、本書の根底を流れているテーマ:「機能する一日分のタスクリストの作り方」をこれほど掘り下げた本はまったくないと言って良いかもしれない。
章立ては以下の通り。
第一章 タスクに関することは頭の中で何もやらない
第二章 タスク管理システムの作り方
第三章 プロジェクトを管理する
第四章 タスクのルーチン管理
第五章 共同作業をどう管理するか
第六章 タスク管理システム運用の実例
第七章 タスク管理システムを支えるサブシステム
仕事場の環境は人それぞれなので、本書が提案しているツール群をそのまま適用できるのかどうかは私には判断できない。
しかし、基本となる考え方とツール群を「システム思考」でまとめるというアプローチは有効だろう。
そこはリストの置き場所ではありません!
帯にはこうある。
「次に何をやるか」はスマホとPCがすべて教えてくれる!
素晴らしい響きだ。でも、実際の所これは逆の話だ。スマホとPCが「次に何をやるのか」を全て教えてくれるように、(そしてそれを自分が信頼できるような)環境を整えましょう、という提案が本書の内容である。
「はじめに」にはこう書かれている。
時間がないというのに、タスク管理のツールや方法にも懐疑的だという人には、ぜひともお伝えしたいことがあります。自分のやるべきことは絶対に頭で思い出す必要がない状態を達成してください。自分がやるべきことを知るにはリストを見ればいい。それを可能とする技術が、すでに誰にでも手の届くところにあります。
「自分のやるべきことは絶対に頭で思い出す必要がない状態を達成する」。これが目標地点だ。
どうすればそのような状態になるのか、その視点を持って自分の環境を改善していくことが出発点になる。
本書では著者の実例がたんまりと紹介されているし、それを実現すればどのようなメリットがあるのかも具体的に語られている。この目的にはツールにどういう機能が付いているのが良いかも解説されているので、新しいツールを選択する際の基準も得られるはずだ。
一つ言えるのは、頭の中からタスクリストを外に放り出すことで得られる変化は確かにある、ということだ。これ実体験からも言える。
さいごに
突き詰めると、「タスク管理」において重要なのは、「タスクの実行」である。これは普遍的な事実と言って良いだろう。
逆に言えば、実行を補助しないリスト__見ただけでやる気が落ちるもの__は「タスク管理」において何の意味も持たない。
アドリブではつらすぎる、かといって形ばかりのリストでは役に立たない。
では、どのように「機能するタスクリスト」を作っていくのか。その佐々木流の答えが本書には詰まっている。
最後にとある哲学者の言葉をひいておこう。
「人間は根源的に時間的存在である」
なかなか含蓄深い言葉である。
▼こんな一冊も:
マニャーナの法則 明日できることを今日やるな |
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マーク・フォースター 青木 高夫
ディスカヴァー・トゥエンティワン 2007-04-05 |
残業ゼロの「1日1箱」仕事術 |
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佐々木 正悟
中経出版 2009-05-30 |
クラウド時代のハイブリッド手帳術 |
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倉下忠憲
シーアンドアール研究所 2011-09-23 |
前々から「タスクリストの作り方」をテーマにした本を書いてみたいなと思っていましたが、まさにその内容の一冊でした。でもまあ、また別の切り口から書いてみたいものです。
4 thoughts on “【書評】『クラウド時代のタスク管理の技術』(佐々木正悟)”