4-僕らの生存戦略 7-本の紹介

【書評】『だから、僕らはこの働き方を選んだ』(馬場正尊 林厚見 吉里裕也)

前回の書評エントリーで紹介した『メディア化する企業はなぜ強いのか?』で「メディア化戦略」の実例として名前が挙げられているのが、東京R不動産。

東京で物件を探した経験がないので初耳だったのだが、検索してみると面白そうなサイトである。

東京R不動産

サイトから少し引用してみよう。

私たちは日々、そんな物件を膨大な不動産市場の中から丹念に探し出して、サイト上で皆さんにご紹介していきます。
普通の不動産紹介では拾いきれないような、物件の隠れた魅力を掘りおこします。

このサイトは不動産のセレクトショップであり、同時にまったく新しいタイプの不動産メディアなのです。

「不動産のセレクトショップ」とはなかなか心地よい響きである。興味が湧いてくる。それに「不動産メディア」というフレーズ。ここでもメディアという言葉が使われている。

この東京R不動産は実に独特なスタイルで「運用」されているようだ。それについて書かれているのが以下の本である。

だから、僕らはこの働き方を選んだ 東京R不動産のフリーエージェント・スタイル
だから、僕らはこの働き方を選んだ 東京R不動産のフリーエージェント・スタイル 馬場正尊 林厚見 吉里裕也

ダイヤモンド社 2011-12-09
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※出版社さまより献本いただきました。ありがとうございます。

概要

先に章立てを紹介しておこう。

序章  僕らの新しい働き方
第1章 東京R不動産の仕事
第2章 会社員とフリーランスの間
第3章 良いとこ取りの組織論
第4章 ビジネスとおもしろさのマネジメント
第5章 やりたい仕事をして生きる

「東京R不動産」がどのように生まれ、今現在どのように運営され、どんな世界を夢見ているのか、が語られている。

タイトルにもあるようにフリーエージェント・スタイルという新しい「働き方」__本書によれば働き方3.0__の紹介なのだが、読んでいくとそんなに単純な話でないことがわかる。その「働き方」は東京R不動産の「哲学」と分かちがたく結びついてるようだ。

正直な感想を書いておくと、とても面白い。

  • まず、東京R不動産というサイトの運営方針に共感が持てる。
  • それに、新しい働き方の必要性は私も常々感じている所である。
  • さらには、常に「変化」を追い求めている「哲学」が素晴らしい。

「会社員」という働き方に疑問を持っている人、将来「自分の力」で仕事をしたいと考えている人、「やりたいこと」が仕事になったらいいなと思っている人は、何かしらの示唆を得られることだろう。

そして、自分のことを「マジメな変人」と評されて、「まぁ、そうだよな」と納得する人であれば大いに楽しめる一冊である。

東京R不動産とほぼ日

東京R不動産については、「はじめに」の以下の部分でほとんど表現されていると思う。

この仕事は最初、「やりたいこと」をちょっとマニアックにやてみることから始まって、一緒にワクワクできる仲間が集まって、それをちゃんと「仕事」にしていくために工夫して、気づいたらユニークな仕事のスタイルや組織ができていた。

この部分を読んで、頭をよぎったのが「ほぼ日」だ。「ほぼ日刊イトイ新聞」も独自の「組織論」で運営されているのは有名である。非常にフラットな構造で部門や部署という縦割りが存在していない。
※詳しくは「アリ社会とほぼ日とビジョカン」などを

その組織の出発点が何だったかというと、糸井さんの「やりたいこと」であった。以下は『ほぼ日刊イトイ新聞の本』よりの引用だ。

ぼくは「アイデアこそが、人間の英知だ」と思って生きてきた。
それなのに、そのアイデアを活かしてクリエイティブ仕事をして生きていくには、ぼくぐらいの歳になってくると、引退するか、威張るかの道しか残されていないのか。
周りの先輩を見ても、本当に道がなかった。このままでは、ぼくもいずれ同じ道をたどることになる。
ぼくはそこに理不尽さに対する怒りを感じた。
「あいつはまだ死んでいない」
と思われているうちに、本当に自らのイニシアティブでやりたいことができる場をつくること。
そして、やりたいことで食べていけるようにすること。
このふたつのことを心の底から実現したいと思った。

「ほぼ日刊イトイ新聞」と「東京R不動産」には共通点が多い。

  • ネットメディアが基盤になっている点
  • マニアックな(あるいなニッチな)物販をしている点
  • 「やりたいこと」を仕事にしている点
  • チームが小さいところから始まっている点
  • 単なる規模の拡大を目指していない点
  • 組織の「枠組み」が柔らかい点
  • 個人の裁量がかなり認められている点
  • 会議が楽しそうな点

そもそも名前からしてそうである。

先ほど引用した本の中で糸井さんが「新しいことをはじめるときは、入り口の間口をわかりやすいように広く取る」と書かれている。だからネットメディアでありながら「新聞」という名前が付けられている。東京R不動産も新しい不動産メディアを目指しながらも、ごく普通の不動産屋さんをイメージする名前が付いている。

この辺りの類似性は非常に面白い。おそらく「新しいもの」を生み出すために必要な共通の要素が存在しているのだろう。

フリーエージェント・スタイルとは?

本書で紹介されているフリーエージェント・スタイルは

それは「会社員」でもなく「独立したフリーランス」でもない、その中間のあり方であり、両方の「良いとこ取り」をしたスタイルだ。

とある。つまりハイブリッドなスタイルというわけだ。
※詳しい仕組みについては本書を参照のこと

ドラッカーはその著書で、知識労働者にとって「組織」は必要不可欠な存在であると説いている。彼らの成果は人とつながる事で初めて意味を持つからだ。

しかし、これまでの組織は、知識労働者向けではなく、工場労働者に最適化された運用をされていたように思う。だから、会社から離れて独立するフリーランスや、プロジェクト単位で契約するノマドスタイルの数が増えてきているのだろう。

が、それはおそらく過渡期的なものに違いない。知識労働者はだいたい特化した存在だ。だから一人で仕事をするとどうしても限界が出てくる。人が集まり、人とつながり、人と共に何かを生み出す。こうしたことでまったく新しい価値を生み出すことができる。

スケールメリット、お互いのスキルの補完、そして自分の「居場所」を持つ感覚、など組織が個人に与えるメリットはさまざま存在している。決して「安定的な生活」を提供することだけが組織の役割ではない。

そういう意味で、これから「小さな組織」がより注目されていくようになるだろう。それが具体的にどのような形になるのかは未定だ。ほぼ日と東京R不動産の運用スタイルにも違いがあるように、小さな組織一つ一つに違いが生まれてくるだろう。むしろ、そういう違いが生まれることこそ小さな組織の強みとも言える。

新しい仕事、新しいメディア、新しい働き方、これらは独立した要素ではなく、それぞれが互いに影響して形を生み出していく。

何を実現したいのか、そのためには人にどのような「貢献」を求めるのか、その「貢献」を引き出すにはどんな環境がよいのか。こうしたことを問い続けることが必要だ。そして状況が変われば、組織のルールもまた変化させる柔軟性も必要になってくる。

フリーエージェントたるために

もう一度『ほぼ日刊イトイ新聞の本』から引用してみよう。

古い職人的な考え方なのかもしれないけれど、「思いっきり、仕事がしたい」という欲望は、実力のある人ほど強く持っている。

これにうなずけるならば、あなたはフリーエージェント適正があると言えるだろう。

僕らのチームのフリーエージェント・スタイルは、それぞれの「フリーランス」がプロジェクト単位で短期的に集まるようなものではなく、プロ野球やサッカー選手のモードに近く、フリーランスとチームの要素を組み合わせたものだ。

ということは、「プロ意識」の無い人間にはつとまらないことになる。もちろんスキルも必要になってくる。会社におんぶにだっこ、というのに憧れを抱いている人は近づかない方が賢明だろう。要求されるものは多いが、その分裁量も多い。それがフリーエージェント・スタイルだ。

会社に束縛されて生きたくない、型にはめられたくない、歯車になりたくない、そう考えているならば、自分なりのポジションを見つけ、そのスキルを磨き、セルフマネジメントできるようにならなければいけない。

そうでないと、他の誰でもができる仕事を、それを失うことに怯えながら、誰かの指示通りに動くしかなくなってしまう。

「どちらが正しい生き方だ」を議論する必要は無い。自分が本当にしたいことはなんなのか、そんな当たり前のことを真摯に考えてみればよいだけだ。

さいごに

少々大げさな言い方かもしれないが、本書と『仕事は楽しいかね?』は、これから就職活動を行う大学生にぜひ読んでもらいたいと思う。

「会社」や「仕事」あるいは「働くこと」についてきっと何かしら考えることがうまれてくると思う。人生のどこかの時点で、それについてじっくりと考えてみると得るものが多いはずだ。

「仕事人生」は決して一直線なものではない。「仕事」や「働き方」もさまざまな形が存在している。

就職活動に違和感を感じるようならば、「新しい働き方」を自分で模索してみるのも面白いかもしれない。

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こちらも面白い。

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少し方向性は違いますが、「小さいチーム」からの仕事の始め方についての本です。

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これについては次回。

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