本の紹介

【書評】『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(デイヴィッド・ミーアマン・スコット+ブライアン・ハリガン)

ちょっと想像して欲しい。頭をアフロにし、スーツでびしっと決めて、真剣なまなざしでパソコンに向かい合う社員。アンバランスだが、ビジュアル的なインパクトは恐ろしく強い。

これは以前書評エントリーで紹介した『だから、僕らはこの働き方を選んだ』の中に出てくる個性的な社員さん(というか何というか)のスタイルだ。

「グレイトフル・デッドとマーケティング」。これも負けず劣らず、アンバランスな気がする。そして、「そこにどんな関係があるんだ?」と気になってしまうインパクトがある。

グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ
グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ デイヴィッド・ミーアマン・スコット ブライアン・ハリガン 糸井重里

日経BP社 2011-12-08
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一風変わった、マーケティングの教科書

本書は、アメリカのバンド「グレイトフル・デッド」が行った数々の活動から、現代の「マーケティング手法」を学ぼう、という本である。つまり、彼らの活動が時代を先取りしていた、ということになる。

原題は「Marketing Lessons from GRATEFUL DEAD」。ほぼ直訳だ。古き良きビジネス書ならば「マーケティングにおいて大切なことは、全てグレイトフル・デッドから学んだ」とかになっているだろう。もちろん、本書を読めばそういうチープなネーミングは避けた方が良いことがわかる。

そう、この本はマーケティング手法の教科書である。糸井重里は序文の中で

この本は、「もしドラ」に負けないぐらいの「実用書」です。

と書いている。実際にその通りだ。ジョジョの奇妙な冒険を連想させる一風変わったフォントやデザインが表紙カバーを飾っているが、本書は徹頭徹尾実用書である。

ソーシャルメディアが浸透している社会の中で、マーケティングやビジネスのスタイルがどうあれば「世界の頂点に座れるのか」(※1)がわかりやすく紹介されている。
※ 1「Sitting on Top of the World」という曲名にかけている。

本書の構成

構成としては、19の章立ての中に、それぞれ「LESSON」「CASE」「ACTION」の3つが入っている。

LESSONはグレイトフル・デッドが実際に行ったことを紹介し、それが持つ意味づけを解説する。CASEではその類例が紹介されていく。現代のビジネスシーンでの実例が紹介されているので、見知った話もあるかもしれない。最後のACTIONでは、実際に何から取りかかればよいのかの指針が紹介されている。

例えば、第1章では「ユニークなビジネスモデルをつくろう」と題されて、グレイトフル・デッドがアルバムの販売ではなく、ライブ・ツアーをビジネスの中心に据えていたことが紹介されている。

本の著者でいえば、出版ではなくセミナーをビジネスの中心にする、といった感じになるだろうか。まあ、それは「ユニーク」とはもはや呼べないかもしれないが、業界が「当たり前」にしているビジネスモデルを前提にしないというマインドセットに学べることは多い。

第1章の「CASE」ではル・ラ・ラという高級ブランドのオンラインショップが類例として紹介されている。「ACTION」は「自分が戦いやすい土俵を作る」となっている。ここで提示されている内容はドラッカーがその著作の中で指摘していることと重なる。

「自社がライバルより3倍も優れているのは何か?」
「自社がライバルより3倍劣っているのは何か?」
どちらの答えも「何もない」であったら、ライバルを引き離すだけのユニークさはない。つまり、すべての側面で勝つことはできないというわけだ。だから、自分だけにある特別なものについて考え直す必要がある。

このような感じで、それぞれの章が「考え方」→「類例」→「最初の一歩」と進んでいく。非常にわかりやすい形の教科書である。

分厚い印象がある本だが、一つ一つの章は短めに構成されているので「読むのが困難」ということはないだろう。

おもしろく&食えている

と、書いてきたわけだが私は「グレイトフル・デッド」というバンドの存在を、本書を読むまでは知らなかった。
※WikipediaとYoutubeにお世話になりました。

本書に興味を持ったのは、ほぼ日の「Unusual」という連載を読んだからだ。ここで紹介されているHubspotという会社の「在り方」が非常に興味深かった。
※本書の著者二人がこの連載に登場している。

その連載の第0回で、糸井さんは次のように書いている。

「経済的に自立して持続している
 『ユニークな人々』に
 ぼくの興味はあるわけです。
 『おもしろい』ということと、
 『食えてる』ということが両立してることが、
 さらに希望のある
 『おもしろい』につながるんだ」

私はソーシャルメディアの登場で「おもしろいことをしながら、食えている」という状態がようやく実現できるようになった、と感じていた。

限りある人生において「おもしろいこと」をするのはとても大切なことだが、それと共に食えている状態を維持することも大切なことなのは言うまでもない。「武士は食わねど高楊枝」はプライドある生き方なのかもしれないが、社会に価値を生んでいるかどうかという視点に立つと、首をかしげざるを得ない。

最初に紹介した『だから、僕らはこの働き方を選んだ』でも

おもしろいことを続けるために、ちゃんと稼がなきゃいけない

という言葉が書かれている。

「食えている状態」というのは、ある程度利益が出ている状態のことだ。つまり、自分が行った行為が社会的に価値あるものとして認められているという証拠でもある。自分が好きなことを追求するだけなら簡単なことだ。しかし、それを他の人の価値につなげられるかどうか、それが「食えているか」「食えていないのか」の分かれ目になってくる。

ネットやソーシャルメディアを介して、多くの人に自分が持っているものを「価値」として提供できる可能性がある現代だからこそ、「おもしろいことをしながら、食えている」状態が作れるようになった、そんな風に考えていた。

しかし、1960年代から活躍していたロックバンドがそれを実現していたというのだから驚きである。

彼らがやってきたことは「従来の業界の思い込みを見直す」「消費者をエヴァンジェリストにする」「消費者に直接販売する」「たくさんの熱心なファンを作る」といったことだ。

私がこれを見てぱっと思い付くのはEvernote社である。この会社もマーケティングの方向性はグレイトフル・デッドのそれと似ている。本書の言葉を借りれば「大衆操作的」なマーケティングではなく、むしろ大衆任せのマーケティング手法を積極的に採用している。そして彼らもまた「自分たちが面白いと感じること」でビジネスを成り立たせているように見える。

つまり、使っているツールは異なっているが「おもしろいことをしながら、食えている状態」を作るための基本的な「何か」が存在しているのだろう。それは容易に時代を超える。そして、本書ではその「何か」が紹介されている。

グレイトフル・デッドが活躍した時代と、現代との違いを考えるとすれば、ロックバンドや企業だけでなく「個人」というレイヤーにおいてもその「何か」が実行・実現できる環境が整ったという点があげられるだろう。

つまり本書は、企業のマーケティング手法としても読めるし、個人の生き方としても読める内容になっている。これはソーシャルメディアを使った発信に関する本であれば、ほぼ共通する性質と言えるだろう。ほとんど宣伝になるが、個人向けのソーシャルメディアの使い方は拙著三冊目がわかりやすいのではないかな、と個人的には思う次第である。

さいごに

ちなみに、私が本書で一番「ぐっ」ときたのが第7章の「新しいカテゴリーを作ってしまおう」という部分である。

これは私が常々意識していることでもある。このR-styleというブログも、私が書く本も、微妙にカテゴライズしにくい内容になっている。すでにあるカテゴリーの枠に収まるものは、いろいろと面倒がなくて良いのだが、私自身はそれに面白さを感じない。

むしろ、新しいカテゴリーを作ってしまうような、まだ踏み分けられていない草木に轍を刻むような、そういうものを作れたらきっと面白いに違いない。もちろん、それで「食えていく」こともまた重要である。

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2件のコメント

  1. で、最も肝心なグレイトフル・デッドの音楽をyoutubeでお聞きになった以上に掘り下げていらっしゃいますか?

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