7-本の紹介

【書評】『「うつ」とよりそう仕事術』(酒井一太)

ジワジワくる本である。

「うつ」とよりそう仕事術
「うつ」とよりそう仕事術 酒井一太

ナナ・コーポレート・コミュニケーション 2011-12-20
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※出版社さまより献本いただきました。ありがとうございます。

本書は、Blog「Find the meaning of my life.」の主催者である@kazumoto氏の処女作である。当ブログをお読みの方ならば、ご存じの方も多いだろう。
※気になる方は氏のブログの「About me」を参照のこと。

まず最初に書いておくと、@kazumoto氏とは仲良しである。ブログやツイッターを含めた交流期間も長い。@beck1240と私と@kazumotoの三人で古き良きGoogleWaveで夜な夜な盛り上がっていたこともある。その三人の中で、一番文章を書くのが上手いと思っていたので、本を出版されるという話を聞いて「とうとう本命が来たか」と感じたことも確かだ。

だからポジショントークとは言わないまでも、私の喜びがこの文章に溶け込んでいる可能性は否定できない。私はコンピューターでもないし、テンプレで書評を書いているわけでもないので、完全に第三者視点で本そのものを評価することはできない。

という点だけ踏まえてもらって、書評を始めてみよう。

概要

タイトルにあるとおり本書は、「うつ」と付き合いながら仕事を成し遂げていくための仕事術がテーマだ。

仕事術という言葉が使われているが、「スケジュール管理」や「タスク管理」といったテーマが掘り下げられているわけではない。もちろん大がかりなシステムを提供するものでもない。42の本当に小さな、そして身近な工夫が4つのステップに分けて紹介されている。

  • ステップ1 生活編 復職までにしておくこと
  • ステップ2 基本編 仕事に対する考え方を改める
  • ステップ3 応用編 職場でできる小さな工夫
  • ステップ4 改善編 うつとつきあう小さな工夫

それぞれのステップがどういう意味合いを持つのかは本書に譲ろう。

こういった目次を表面的に眺めれば、うつ病という診断を受けた人のための本という印象があるかもしれない。しかし、じっくり読み込めばそうではないことがわかる。

それについて書いてみることにする。

ストレスとのつきあい方

著者は「はじめに」の中で次のように書いている。

この工夫を試していただいてもうつ病が治るわけではありません。
しかし、自信を失い、落ち込み、凹み、傷つくことが多い、ストレス過多の社会において、「うつ病」を患っていない健康な方にも、うつ病へ続く坂道のストッパーとして、生活、仕事にご活用いただけると思います。

私たちは、デジタルのスイッチがゼロからイチに切り替わるように、突然うつ病になるわけではない。無理な労働、理不尽な環境、うまくいかない人間関係などによって、日常的に降りかかってくるストレスが少しずつ積み重なり、ある点でオーバーフローしてしまう。そこは「途中経過」が必ず存在している。

だから、日常的なストレスとのつきあい方や、リラックスの方法、気分が落ち込んだときの対処法などを知っておき、折に触れて実行しておくのはうつ病対策(という表現が適切かどうかはわからないが)に意味があるだろう。

いろいろな「自分」とのつきあい方

人は誰しも100%常に万全の体制というわけにはいかない。気合いや根性で乗り切れる場面もあるが、そもそもそんなものがひとかけらも湧いてこない時もある。人間というのは、置かれている環境、バイオリズム、自己認識によって規定される存在だ。

著者は本書の中で、「気分が落ち込んだ自分」を折り込んだ仕事の進め方をいくつも紹介している。

この「自分」を切り分ける考え方はとても大切だ。

うつ病を患っていない人でも、やる気があるときとそうでない時があるだろう。それぞれの自分が同じスペックを持っていると考えるのはあまりに滑稽だ。しかし、やる気のある自分をベースにして「長期計画」を立てがちな傾向が多くの人にある。

これとは逆に今の自分がすごくやる気がないのに、明日の自分がまるで生まれたて同然のやる気に満ちあふれた人間であると想像して、その明日の自分に簡単に「先送り」してしまうこともある。明日の自分には明日の自分なりの事情があるということがまったく想定されていない。

この問題に対処するための手段が、「記録」である。記録を残していけば、「自分」が一筋縄ではいかない存在であることがよぉ〜くわかる。それがわかってはじめてまともな対策を考えることができる。それがスタートラインだ。

他者の視点を得る

巻末コラムには「うつ病患者が考える「うつ病の人との接し方」」が紹介されている。

本書全体を通しても、著者がどういうことに悩みを感じ、何を課題にしてきたのかが紹介されている。

普段生活していると、そういう視点に立つことは非常に難しい。私たちは自分が当たり前にできることを、なぜか他人も当たり前にできると考えてしまう。

もちろん、コミュニケーションという点で考えれば、うつ病の人が積極的に「こういう問題に困っています」「こういう課題があります」「こういうのをやめていただきたい」とはっきり主張してくれればありがたいのだが、そういうことを苦もなくできるならば、そもそも問題はそんなに大きくなっていないだろう。

本書で紹介されていることはうつ病の人全般に当てはまるものではないだろうが、それでも一つの視点を得るきっかけにはなる。「当たり前」の位相がずれているという感覚は、コミュニケーションにおいてとても大切である。

本書は一応「仕事術」を紹介するという体裁ではあるが、うつ病の人が何を思い、何を感じ、どのように仕事や人生に向き合っているのかを私たちに伝えてくれるエッセイという風にも読める。

さいごに

本書は「うつ」というテーマが扱われている。時にそれは重く、苦しい話に流れがちだ。しかし、本書には暖かいメッセージが確かに込められている。

うつ病を理由に、「うつ病だから」と夢を諦めたり、目標を下げたり、可能性を閉じたりする必要はまったくありません。自ら首を締めるようなことだけは絶対に止めましょう。

これはうつ病だけに限定されることではないだろう。

本書の内容に関しては、著者のブログの「『うつ病患者の仕事術』」という連載が元になっている。だから単にテクニックだけを拾いたい方はBlog記事を参照すればよい。

しかし一冊の本を読み通すことで触れられる著者の価値観、視点に興味がある方はぜひ一読されるとよいだろう。きっと自分の内側にジワジワとしみこんでくる何かが得られるはずである。

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