「タスク」の研究

「ムーブメント信号」の失敗

以前「タスク管理」を「渋滞」にたとえて思考を進めてみました。
仕事の渋滞に対する二つのアプローチ(1)など

ちょっと、面白いニュースがあったのでそれを紹介してみます。昨年11月の記事です。

新信号で渋滞緩和のはずが… 滋賀県警、運用休止へ(朝日新聞)

 滋賀県内の国道交差点で今年2月、渋滞緩和を目指して新しい信号システムを始めたところ、逆に渋滞が増えた――。県警は16日、来月4日から一部の運用を休止すると発表した。

渋滞緩和を目指して新しいシステムを導入したのに、逆に渋滞が増えた。皮肉な結果ですね。一体何が起きたのでしょうか。まず、その「新しい信号システム」とは何だったのか。

 新システムは、車両感知器を使い、混雑した車線の点灯時間を長くする「ムーブメント信号」。昨年度の警察庁のモデル事業に応募し、交通量の多い名神高速栗東インターチェンジ近くの国道1、8号の4交差点(栗東、野洲市)に約1億4千万円かけて導入した。

「車両感知器」を使って、「混雑した車線の点灯時間を長くする」。こういったシステムが「ムーブメント信号」と呼ばれているそうです。非常にシンプルな考え方ですね。車が多くなってきた道路→青信号の時間を長くする→Happy driving! ってな感じです。

2011年3月、つまりこの「ムーブメント信号」が導入されたときの記事では次のように書かれています。

ムーブメント信号導入 栗東IC周辺の4交差点(京都新聞)

 一般的に青信号の点灯時間は、対向する2車線で交通量に差があっても多い車線に合わせて同じ。しかし、ムーブメント信号は、車線ごとに青の点灯時間を変える。青表示も矢印3種(直進、左折、右折)で行い、混雑するレーンの矢印が長く点灯する。「刻々と変わる状況を警察官が見て手信号でコントロールするイメージ」(県警交通規制課)という。

 例えば、交通量が多い車線の信号は青のままで、少ない対向車線の信号は早めに赤になる。混雑する車線の右折車はより多く通行でき、対向車線の直進車との事故も防げる。

いかにも「ユートピア」な雰囲気がします。しかし、1億4千万円と投入したこの「信号」は渋滞を緩和させられないどころか、かえって渋滞を悪化させてしまうという結果を導いてしまいました。

朝日新聞からの引用を続けます。

 ところが、信号の表示を直進、右折、左折の矢印のみとし、直進を優先したため、これまで青信号の間でも右折できていた車が、直進の矢印の間に右折車線に停滞。右折の矢印の時間はほとんど変わらなかったため、車が後方の走行車線にまで並ぶ事態が続出した。

ちょっとわかりにくいかもしれません。

もともとこの「ムーブメント信号」は<交通量を観測し、混雑しているレーンの信号を長く点灯させる>という機能を持っていたはずなのに、それが働いていない状況が起きているということです。

詳しい状況観察が以下のサイトからチェックできます。

<滋賀県> 特殊な信号サイクル

少し引用してみると、

渋滞悪化の原因は、ムーブメント信号制御の導入により、右折車分離式となったため、右折車の通行時間が短くなり、右折待ち車両が右折車線からあふれ、その渋滞を感知器では右折車によるものと判断できなかったためのようです。

とあります。

朝日新聞の「直進を優先したため」というのが、要するに右折車だけの通行時間が短くなった、ということなのでしょう。その短縮が右折車(右折したい車)の数を増加させ、しかも、それが右折レーンからはみ出ているにもかかわらず、車両感知器は「右折車の渋滞」と認識できなかった、ということでしょう。

だって、車そのものは通行車線__つまり直進レーン__で渋滞しているわけです。ということは、その車両感知器はきっと「直進レーンに車があふれかえっている渋滞している。こりゃ大変だ。直進レーンの信号を長くしないと!」と判断したのかもしれません。だから右折車線の信号は一定以上長くなったりしません。

なんというか、典型的な「失敗」の構図がここにあります。別に「ムーブメント信号」を構成している機械が故障していたわけではありません。システム設計者が「現実」を観察していないだけです。

また、単純なシステムに比べて、新しい(そして複雑な)システムが機能しないというわけでもありません。京都新聞で使われている表現を使えば、「刻々と変わる状況を警察官が見て手信号でコントロールするイメージ」は単純な信号に比べると複雑なシステムと言えます。しかし、それは(警察官の体力が続いているうちは)きちんと機能するでしょう。

この新しいシステムは、そういう手信号の動きをトレースできていなかった、というだけです。

あと、先ほどのマニアックな信号情報が載せてあるページには、面白いことが書いてあります。

右折車分離、歩車分離にムーブメント信号制御も加わり、信号サイクルは予測しづらいです(と言うか、右折矢印信号の出るタイミングは予測できません)。常に自分の前方の信号を注視する必要があります。私が調査している間に、思い込みやイライラによる信号無視など次のような問題が見られました。

この<予測しづらさ>による「イライラ」は結構心理的な負担が大きいと思います。これが、システムとしての信頼感を損ない、これまでに無かった「危険」を生んでいるのは、ぜひとも注目したいところです。

さいごに

別にこのエントリーは<1億4千万円の無駄遣い>を糾弾するものではありません。むしろ、この「結果」は道路人間工学(なんてものがあれば)に大きく寄与しているのではないかと思います。

が、それはそれとしてこの「失敗」を見て、人の「タスク管理」についていろいろと考えさせられました。

今回の記事はそれについて踏み込むものではありませんが、「タスク管理」について考えている方ならば、ちょっと足を止めて考える価値がある要素が含まれているのではないかと思います。

このあたりはまた、連載エントリーの形でいろいろ書いてみます。


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