「何のために呼吸をするのか?」
そんなことを日常的に考えることはまずありません。当たり前に息を吸い、当たり前にそれを吐き出します。
しかし、その機能が崩れることがあります。過呼吸などがその代表例ですが、息は吸いすぎても吐きすぎてもいけません。両者がバランスよく成立している状況が最適です。
本書のタイトルである「情報の呼吸法」という表現には、「インプットとアウトプット」のバランスを取る、という意味が込められているのでしょう。確かにそれは大切なことです。
しかし、私はそれ以上に「呼吸」の根源的な目的も示唆されているように感じます。
情報の呼吸法 (アイデアインク) |
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津田 大介
朝日出版社 2012-01-10 |
メディア・アクティビストとは?
本書は、ツイッターをやっている人ならば、ご存じの方は大変多いであろう津田大介(@tsuda)さんの新著です。肩書きはジャーナリスト/メディア・アクティビストとなっています。まず、この肩書きが気にかかります。
ちなみにメディア・アクティビストについては
情報を使って世の中にオルタナティブな問題提起を行って、ムーブメントを起こすという意味で、「メディア・アクティビスト」も最近名乗り始めました。
と本書内で説明されています。これはどういう意味でしょうか。
世の中にはたくさんの「情報」が溢れかえっています。それらは無料で簡単に取り込むことができるので、暇さえあれば日常は情報で溢れかえることになります。というか、暇が無くてもあちらこちらから情報が押し寄せてきます。
あまりにも情報が多いので、それを選別して届けてくれたり、その情報が持つ意味を解説してくれたりする人が価値を持ち始めています。一人の人間がすべての情報を摂取することはもともと不可能なので、そういった人たちをフォローして、自分の情報収集の手間を省く行為は確かに大切です。
でも、それだけでいいのでしょうか。つまり、「情報を知ること」が終わりになっていて良いのか、という問題があります。
世の中には「これを知っておけば大丈夫」「私のいうことを聞いておけば間違いない」というタイプの情報があります。あるいはそういう形の情報との接し方があります。これは思考や変化を呼ぶ行動をストップさせる原因になりかねません。もちろん、それはそれで「楽」なんでしょうが、それで本当にいいのかな?という疑問も湧いてきます。
特に世の中に変化が必要とされている時代であれば、思考や行動はより強く求められるでしょう。
人は摂取する情報にさまざまな影響を受けます。すると、人に思考を促したり、行動を促進させるような情報を積極的に提供していけば、「何かいろいろ変わるのではないか」という風にも考えられます。
いろいろな人が情報を摂取し、自分の頭で考え、自分の価値観で判断し、自分の足で行動する。そのトータルとして「ムーブメント」が起きる。これがメディア・アクティビストの「目標」なのでしょう。ある意味で環境作り、下地作りのような仕事と言えそうです。
概要
本書のはじめには次のように書かれています。
コミュニケーション革命が起きている中、どのように情報を入手し、入手した情報を「行動するために」どう活用していけばいいのか。本書は「情報を行動に移す」ということを主眼に置き、自分が今まで経験していたことを中心に解説していきます。
単に知識量を増やすためではなく、あるいは情報を「整理」して終わりでもなく、「行動に移すため」に焦点が当てられているのが本書の特徴です。
構成は以下の通り。
第1章 情報は行動を引き起こすためにある
第2章 情報は「人」をチャンネルにして取り込む
第3章 情報は発信しなければ、得るものはない
第4章 ソーシャルキャピタルの時代がやってくる
内容は多様なテーマに触れていますが、大まかにいって、
- 津田さんについての話
- インプットの方法論
- アウトプットの考え方
- 津田さんの見ている未来
という分類ができそうです。
乱暴にまとめてしまえば、「ソーシャル時代の生き方」となりそうですが、この説明ではこの本の全体像は伝えきれません。こればかりは実際に本を手にとって、青いページをペラペラとめくってもらうしかありません。なかなか「取り扱い」が難しい本なのです。
すでに日常的にソーシャルメディアを使っている人は、ごく「当たり前」の感覚の話も出てくるでしょう。逆に言えば、ツイッターとかをこれから始めたいんだけど、という人には「心構え」を知っておいた方が良いかもしれません。
※その辺は拙著三冊目「Facebook×Twitterで実践するセルフブランディング」も参考になると思います。
共感点
読んでいて、共感したポイントがたくさんありました。
たとえば、インプットソースの多様化。これはソーシャルメディアうんぬん以前の話です。自分の興味ある情報は深掘りすると共に、できるだけ多様なソースに触れるようにしておく。
自分の好きな情報だけに触れているのは気楽ですが、どんどん狭い方向に潜り込んでしまう可能性があります。確かにスペシャリストになるのは重要ですが、現代では異なった分野の技術や情報を結び合わせられる人が高く評価される、という話もまた聞きます。アルファベットのT字型人間、という表現もありますが、広げると掘り下げるの二軸は持っておいたほうがよいでしょう。
あるいは、ツイッターのフォローの考え方。どういう人をフォローするのか、どれぐらいの人数が「ちょうどよい」感じがするのか、も私の持っている感覚とほとんど同じです。ツイッターをやり始めて結構たちますが、未だにフォローしているのは350人前後です。
※これ以上増やすならば、誰かをアンフォローしようと考えています。
まだツイッターをやっていない方や、始めたばかりの方は300人ですら多すぎるという気がするかもしれませんが、案外これぐらいのTL(タイムライン)ならばチェックできます。
※もちろん、読めなければ無理して読むことはしませんが。
あるいは「メルマガ」の位置づけなんかも、ほとんど同じです。
※WRMはほとんど「ファンクラブ」的な位置づけで運営しております。
と、こう書いていても「誰向けの本」ということを具体的に絞り込むことができません。具体的な想定読者が見えてこない本なのです。この辺がこの本の「取り扱いの難しさ」の理由なのでしょう。
※ようは「書評を書きにくい」ということです。
しかし、これはこの本の価値を減ずる要素とはまったく言えません。むしろ(いろいろな意味での)「これからの人」向けの本と言えるでしょう。
さいごに
比較する類書も見当たらず、具体的な想定読者も見えてこなかったので、今回のエントリーは「書評」とは言いにくいものかもしれません。まあ、形式はどうでもいいですね。
情報との付き合い方、あるいはその目的を考える上で本書はさまざまなきっかけを与えてくれます。
本書のタイトルには、酸素を取り入れ二酸化炭素を出す、という表面的な目的ではなく、メタ的な「生命活動を作り出す」という目的、言い換えれば「行動を生み出す土台を作る」という目的が情報発信活動においても重要だ、というメッセージが込められているように思います。
▼こんな一冊も:
Facebook×Twitterで実践するセルフブランディング |
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倉下 忠憲
ソシム 2011-05-30 |