7-本の紹介

【書評】『理系のためのクラウド知的生産術』(堀 正岳)

クラウドサービスを使ったライフハックの導入編、そんな位置づけの本である。

理系のためのクラウド知的生産術 (ブルーバックス)
理系のためのクラウド知的生産術 (ブルーバックス) 堀 正岳

講談社 2012-01-20
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日々喰われているもの

タイトルにある「理系のための」というのは、「理系研究者のための」という意味合いである。私は学術研究者でもないし、そういう場所に近づいたこともあまりないので、彼ら(彼女ら)がどういう仕事の進め方をしているのかは分からない。

ただ、毎日多くの情報を取り扱っていることだけは想像できる。メール、論文、アイデア・・・そういったものは「あ、ちょっと待ってくださいね」といっても決して止まることがない。仕事をしていればメールが送られてくるし、どこかで誰かが新しい論文を書いているし、私たちの頭の中にはさまざまなことが思い浮かぶ。

そういった情報に対応するのは、仕事に付随するある種の義務のようなものだ。依頼される仕事そのものは「断る力」で拒絶できるかもしれないが、仕事を始めてしまえば、そういう情報との付き合いは避けては通れない。そして、その情報は技術の革新と共に増え続けている。

情報量が増えれば、情報を「管理」する時間もまた増える。すると他のことに使える時間が喰われる。情報洪水による時間不足の発生だ。

この点は理系研究者だけではなく、知識や情報を扱う仕事に就いている人__つまり知識労働者__でも共通しているだろう。論文を経済ニュースやその他のメディアに置き換えれば、その他の仕事にも敷衍できる。

手軽に扱える情報はどんどん増えているにも関わらず、それを管理する手法が追いつけていない、それが現代の状況だ。

そういった状況にクラウドツールの導入と効果的な考え方で対応するというのが本書である。

概要

最初にも書いたが、本書はあくまで「導入編」的な位置づけである。著者のアウトプットを追いかけている人ならば、目新しい要素はあまりないだろう。その分、本当に必要な部分がぎゅっとまとまっている。

初心者に必要なのは圧倒されるほどの情報量ではなく、「まずこれだけ押さえておけば」という最低限のポイントだ。そうでないと、「じゃあ、実際にやってみよう」という気になかなかなれない。そういう意味で、本書は良書と言えると思う。

説明もわかりやすく、実例も多い。そして、文章も読みやすい。まったく余談になるが、私は著者の文章がとても好きである。本書を購入したのも、新しい知見を得るためではなく、どんな構成なのか、どんな文章が書かれているのか、を読みたかったからである。

たとえば次のような文章。

こうしたアイデアを保存するために「研究アイデア」などといったノートブックをつくっておくのがおすすめです。ここにはたった1行のアイデアや、印象に残った写真など、育てられることを待っているアイデアの卵が集まるようにします。

なんてことない文章だが、「育てられることを待っているアイデアの卵」という表現から、私はぷんぷんと著者の文体を感じてしまう。

っと、余談はこのくらいにしておいて、章立ては次の通り。

  • 第1章 クラウドサービスを使った仕事環境
  • 第2章 メールに振り回されない環境を作る
  • 第3章 手間をかけない論文管理法
  • 第4章 アイデアをなくさない情報整理法
  • 第5章 クラウド上で論文を書く
  • 第6章 時間も空間も超えるコラボレーション術
  • 第7章 細かい時間を稼ぐテクニック集

中心となるのは、「Googleサービス」「DropBox」「Evernote」の三つのクラウドサービス。それにいくつかのクラウドサービスがサブとして紹介されている。「メンデレイ」「リメンバー・ザ・ミルク」「スライドシェア」「マインドマイスター」などがそれだ。有名どころがきちんと押さえられている。

ツールの説明と使い方、それにちょっとしたコツも合わせて紹介されている。

本書の事例をみれば「EvernoteとDropBoxってどう違うんですか?」みたいな疑問は解消されるだろう。あと「リメンバー・ザ・ミルク」の関係でGTDについて少しだけ触れられている。このあたりも導入編、という感じ。

私自身は「メンデレイ」というサービスを初めて知った。自分の論文データベースが簡単に作れるサービスらしい。本書内では「DropBox」と「メンデレイ」の合わせ技で論文を管理する方法が紹介されている。こういうのを見ると「何か使えないか?」とついつい考えてしまう。悪い癖だ。

さいごに

「おわりに」の中で、著者は自身の体験を振り返りながら次のように書いている。

しかし最も大きな恩恵は、時間の自由がなければ私たちは自分の才能を信じて行動することができない、という感覚を肌で覚えることができたことでした。

優れたアイデアも、勇気ある決断も、それを実行する時間がなければ用を成さない。作業に追われ「時間がない」と嘆いている人ほど、時間を作り出すための効率化を意識して、一歩足を踏み出さなければいけない。

効果的な投資がお金を生み出すように、効果的な時間投資もまた可処分時間を生み出してくれる。

本書を読めば、そういうクラウドサービスに「投資」するのもなかなか悪くないと思えてくるだろう。

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