7-本の紹介

【書評】『複雑で単純な世界』(ニール・ジョンソン)

「見えざる手が、もし見えたとしたら」

自分で(株式)市場に入ったことがある人ならば、そう考えたことがあるかもしれません。これから相場がどう動いていくのかを知ることができれば、言葉通り連戦連勝、天下無双の相場師になれます。

副題の「不確実なできごとを複雑系で予測する」は、実に興味を惹かれるところ。はてさて、本書を読めば、株式相場の王になることができるのでしょうか。

複雑で単純な世界: 不確実なできごとを複雑系で予測する
複雑で単純な世界: 不確実なできごとを複雑系で予測する ニール・ジョンソン 阪本 芳久

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概要

本書は「複雑性理論」に関する本です。複雑性理論とは一体なんなのか、どのような特徴を持っているのかを解説し、私たちの生活の中に潜む「複雑性」に注目していく、という内容になっています。

ちなみに本書において複雑性科学とは、

「相互作用をしている多数の要素の集合で生じる現象の研究」

と定義されています。わかりやすいのは「渋滞」のイメージでしょうか。

個々のドライバーは独立して存在し、自己の意識に基づいて(あるいは奥さんの命令に従って)車を運転しているけれども、時に信じられないぐらいの渋滞を引き起こします。あるいは株式相場の暴落も同様です。渋滞にせよ相場の暴落にせよ、同じ資源を巡って、独立して存在し、影響を与えあうプレイヤーが存在することで起きてしまう、「ゲームの結果」の一つです。

著者は戦争やテロでさえも、「異なる勢力動詞の暴力的な集団行動であり、同じ資源(たとえば、土地や領土や政治的権力)の支配をめぐって競争が繰り広げられていると見なせる」と書いています。

複雑性について理解できれば、渋滞も金融市場も戦争も同じ文脈で理解できる、というわけです。

章立て・構成

章立ては以下。

Part1 「複雑性、その可能性の核心」
第1章 単純な要素、複雑な減少
第2章 秩序ポケットの出現
第3章 カオスとフラクタルをどうとらえるか
第4章 群衆の行動を予測する
第5章 複雑性とネットワーク

Part2 「不確実な世界を読み解く」
第6章 金融市場の動向を予測する
第7章 渋滞・情報伝達と最適ネットワーク
第8章 理想のパートナーと出会う
第9章 戦争やテロの法則
第10章 感染症、癌をいかに抑えるか
第11章 自然と量子ゲーム
第12章 生態学としての複雑系へ

創発現象と意識

Part1では複雑性の性質や特徴について解説が中心的なテーマです。Part2では、一般的な分野を複雑性の視座から眺めていきます。金融市場は予測しにくい分野の最も有名な例ですが、渋滞や異性との出会い、戦争やテロ、感染症など、私たちの身近な生活に存在する分野についても言及されています。

個人的に、興味深く読めたのはPart1の方。本書のタイトルにあるように、単純な要素からかくも複雑な現象がうまれるのか__創発現象__は非常に興味深いテーマです。

アイデアを生み出すというのは、一種の創発現象です。単純な要素(一つ一つの情報)が組み合わさることで複雑な現象(イノベーション)が生まれます。複雑性について理解すれば、なぜ、そんな現象が起こるのか、あるいはどうすればそれを起こしやすくできるのか、を考える手助けになるのではないかと思います。

もう一つ考えたいのは、私たちという<意識>の存在です。単純な細胞の集まりが、「私」という複雑きわまりない現象を生み出しています。これもじっくり考えてみると、実に不思議なことです。

第3章の次の文章が気になります。

系に何らかの一貫性や記憶のようなものがあることが、系の進化の予測が可能かどうか、すなわちカオス的になるかどうかを決定する重要な鍵になる。

複雑系には「フィードバック」が必要であり、そのためには「記憶」的なものが必要と紹介されています。

もしも、一瞬たりとも記憶を持てない人間がいるとして、そこに自我(あるいは自分という意識)が存在し得るのだろうか。あるいは、記憶はあるが、それを元に自分の行動を修正できない人間がいるとして、そこに自我が存在し得るのか。そういう思考実験は楽しそうです。

完璧なシミュレーターは存在しうるか?

さてさて、複雑性について理解できれば株式市場で連戦連勝できるか。答えはそれほど心躍るものではなさそうです。

金融市場についての第六章では、次のように書かれています。

(前略)。彼が見いだしたこの結果は、金融市場はつねに予測可能なわけでもなければ、つねに予測不可能というわけでもなく、予測が可能になる(つまり、ランダムではなくなる)期間と予測不可能になる(ランダムになる)期間が現れることを示している。

これが、実際にどのような意味を持つのかは本書を直接参照してもらうとして、投資家にとっては「これは、すごい!」と呼べるような結論ではありません。

結局のところ、連戦連勝は難しい、と書いてあるのと同じことです。ただ、逆に言えば、「100%完璧な投資方法」や「未来を完璧に予測する投資シミュレーター」の存在にはしっかりと眉につばを当てた方がよい、ということでしょう。そういう予測が通用する期間もあれば、そうでない期間もあるわけです。

「予測可能になる」期間だけの結果にフォーカスを当てて宣伝されていたとしても(おそらくはそうなっているでしょう)、長期的に意味のあるものとは言えない、ということです。

さいごに

あまり難しい専門用語も出てきませんし、文章も読みやすい形になっています。若干、話がくどい感じもありますが、「高校生でも読めるレベル」を想定してあるようなので、それは仕方ないかもしれません。

Part2で紹介されている、現実世界での「複雑性」の応用が今後どれぐらい現実的なものになっていくのかは私にはわかりませんが、実現したら面白いだろうな〜と思うようなものはいくつもありました。今後の展開に期待です。

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