ドーナツが好きである。ミスタードーナツのオールドファッション的なリング状のドーナツ。
まったく同じ材料を使っているとしても、リング状になっていないドーナツにはそれほど愛情が湧かない。不思議なものだ。
あのドーナツの穴が、ドーナツという存在に鮮やかな印象を与えている。
しかし、実際の所「ドーナツの穴」なるものは実在しない。それは何もない、ただの空間である。その空間の周りにあるドーナツが「ドーナツの穴」なる概念を生み出している。
ドーナツと空間の相互作用。
愛しいドーナツをほおばり、ミルクだけを入れたコーヒーをすすりながら、たぶん「自分」というものも「ドーナツの穴」みたいなものなんだろうな、と思う。だから、「本当の自分」を発見しようと目をこらしても、何も見つかるはずはない。それはただの空虚な隙間でしかないから。
自己は自己のみでは決して定義できない。環境と自分の相互作用によってはじめて生まれるものだ。
という益体もないことを考えながら、コーヒーのおかわりを注いでもらう。至福だ。