7-本の紹介

【書評】「物語論」(木村俊介)

物語論 (講談社現代新書)
物語論 (講談社現代新書) 木村 俊介

講談社 2011-11-18
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「物語論」とタイトルにはあるが、著者が「物語」を論じているわけではない。さまざまなコンテンツ・クリエーターへのインタビュー集である。なぜそれが「物語論」なのか。著者はその意図を次のように書いている。

簡単に言えば、文芸誌、漫画誌、美術誌、映画誌、音楽誌など普段は各ジャンルの専門誌に掲載されているような作者に対するインタビューを対等に並べることで、より広い意味での物語論を提供できるのではないか、と考えたのである。

この試みが成功しているのかどうかは判然とはしない。読了後に、何か新しい物語観が立ち上がったのかというとやや微妙な所ではある。ただ、「プロフェッショナル 仕事の流儀」的な面白さは確かにあった。

概要

インタビューのリストに名前が挙がっているのは、次のようなクリエーターだ。

村上春樹、橋本治、島田雅彦、重松清、桜庭一樹、是枝裕和、杉本博司、諏訪内晶子、根岸孝旨、中村勇吾、渋谷陽一、荒木飛呂彦、かわぐちかいじ、弘兼憲史、うえやまとち、平野啓一郎、伊坂幸太郎。

見知った名前、初めての名前、いろいろあるだろう。それぞれのインタビューはボリュームが大きく違う。好みの作家分が思ったよりも薄くてちょっと残念ということもあるかもしれない。逆に、まったく知らなかったコンテンツ・クリエーターに興味が出てくるかもしれない。

私が興味深く読んだのは漫画家のスタイルについてだ。小説家のスタイルについては文章で表現されているのをよく見かけるのだが、漫画家のそれについてはあまり読んだ記憶がない。「荒木飛呂彦・かわぐちかいじ・弘兼憲史」などは、作品もよく見知っているし、それがどのようなバックグラウンドから生まれてきているのかを垣間見れるのは、なかなか楽しいものである。

三人のインタビューより抜粋

たとえば、次は荒木飛呂彦氏のインタビューより。

僕にとって、漫画を描くということは日記を書くみたいなものなんです。『ジョジョ』って、すごく構築した作品だとよく思われているんですけど、自分の中ではその時その場で考えたことをアドリブで描くジャズみたいなもので、ちょっと間違えてもその現場の一回きりの録音ならではの味が出ていておもしろいんじゃないの、という考え方でやっているんです。

確かに週刊連載だと、そういうインプロビゼーション的なノリが必要になってくるのかもしれない。ちなみに私のブログに対するスタンスも似たようなものだ。振り返れば、くだらないエントリーも多いし、明らかに失敗しているエントリーもあるが、それらも通して読んでいけばR-styleの味みたいなものになる(あるいは、なったらいいな)と考えている。

あるいは、かわぐちかいじ氏の言葉から彼の仕事のスタンスを感じることもできる。

苦しみに負けて漫画家がラクな道を選んでしまえば、読者はすぐにそれを感じ取るはずです。そもそも、どういう描線を描くのかという「選択」で漫画はできていて、読者はそういう作者の「選択」を信頼して漫画を読みはじめるわけで、その線描における感覚の交流を楽しみにしているわけです。

これは緻密な描写をすればよい、を意味しているわけではないことはすぐに分わかる。この描線の選択は、情報発信で言えばキュレーションに相当するだろう。何を選択したか__「何を言って、何を言わないのか」__、それが信頼を生み、価値に繋がる。そういう話だ。

弘兼憲史氏のインタビューからは二つほど紹介してみよう。

広さを感じさせるのは大ゴマではなくて、ひとつのコマの中に小さい人物をいれることなんですね。つまり、アップではなくロングなんです。

この部分を読んで、ハッとした。文章の書き方にも通じる部分がありそうだ。

漫画って、映画とは違ってたくさんの動きは見せられない。BGMを効果的に津悪こともできない。小説ほど多くの言葉だって使えない。制約だらけです。ただ、漫画には、たとえば電車の中でいつでもどこでもスッと開いたらすぐにその世界に入り込める「圧倒的な敷居の低さ」という他にない武器があるんです。その「わかりやすさ」のためには、セリフは削りに削って骨子だけに留める、ムダなセリフは捨てる、というのを心がけています。

抱え込んでいる制約に文句をぶつぶついうのではなく、その制約がもたらすメリットに注目し、それを最大化するように努力をする。本には本の、ブログにはブログの、電子書籍には電子書籍の良さがある。それぞれの軸で別の軸の評価をしても意味はあまりない。

その媒体の特性を理解して、読者効果を意識すること。クリエーターにとって必要な思考ではないだろうか。

さいごに

全てのインタビューが面白いかどうかはわからないが、複数の表現媒体によって、クリエーターが気をつけている点が違っているのが面白いところである。

まったく同じ媒体でも異なったこだわりがあったり、逆に違った媒体でも目の付け所が似ているところがあったりもする。

本書は「物語とは一体何なのか?」に対する答えは提出していないが、物語を生み出している人は一体何を考えているのかを知る手がかりは得られるだろう。

まあ、自分でクリエーターになりたいと考えている人は、他のクリエーターの頭の中なんかにはあんまり興味ないかもしれないが。

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