7-本の紹介

【書評】『「当事者」の時代』(佐々木俊尚)

想像していた内容とはちょっと違っていた。

「当事者」の時代 (光文社新書)
「当事者」の時代 (光文社新書) 佐々木 俊尚

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基本的にタイトルだけ、あるいは著者名一本釣りで本を買うことが多く、読んでみると「ん?」とズレを感じることがある。本書はそういうタイプの本であった。

著者の佐々木俊尚氏は『仕事するのにオフィスはいらない』『キュレーションの時代』などの、現状を踏まえ少し先の未来を描く、という本が多かったように思う。そういった先入観から、この本も「これからは当事者の時代がやってくるよ」という”当事者の未来と可能性”が描かれていると勝手に考えていた。

しかし、実際は__誤解を恐れずに書けば__過去についての本だ。472ページの書き下ろしの大半は過去の分析に当てられている。そして、その分析は「日本の言論」に向けられている。

なんかちょっと違うマスコミ

テレビや新聞のニュースを見て「なんか、ちょっと違うんだよな〜」と感じている人は多いだろう。”マスに向けてのメディア”であるはずなのに、私たちの多くが求めている情報がちっとも提供されていない。そんな不思議な感覚だ。情報の需要と供給の乖離といってもよい。

このようなマスメディアの在り方に嫌悪感を感じている人もいれば、徐々に無関心が膨らんでいる人もいるだろう。もちろん、今まで通りマスメディアと接している人も多くいるだろうが、なんとなく違うんだよなと感じて別の情報源を求める人も増えてきているように思う。
※これは個人ジャーナリストの有料メルマガの人気からもほのかにうかがい知れる。

さらには、必要な情報がないから自分で発信してやるぜ、と勇猛果敢な人もいるかもしれない。頼もしい限りだ。かくいう私も・・・という話はさておいて、こうした変化が起きているのは、日本型社会システムの金属疲労、ソーシャルメディアの普及、マスメディアの機能不全の3つが大きな理由であろう。

本書では、「マスメディアの機能不全」に重点的に視点が置かれている。実際は裾野がかなり広く、「マスメディア」というよりも「日本のメディア」「日本の言論」と表現したほうがよいかもしれない。

概要

章立ては以下の通り。

プロローグ 三つの物語
第一章 夜回りと記者会見──二重の共同体
第二章 幻想の「市民」はどこからやってきたのか
第三章 一九七〇年夏のパラダイムシフト
第四章 異邦人に憑依する
第五章 「穢れ」からの待避
第六章 総中流社会を「憑依」が支えた
終章 当事者の時代に

メディアや言論に興味がない人にとっては、あまり関心を引くものではないだろう。そういう人にこの分厚い新書をちょっと読みましょうなどとドSな発言はできない。

ただ、第一章「夜回りと記者会見」は著者の実際の体験がベースになっていて、新聞の舞台裏が垣間見えたりもする。この部分だけでもちらっと読んでみると楽しめるかもしれない。

あるいは、終章だけでも立ち読みしてみてもよいだろう。何かアンテナに引っかかるかもしれない。

自分なりの方法

個人的に期待していたのは、終章「当事者の時代に」をプロローグとするような本であった。「いまなぜ当事者なのか」、つまり今の社会をスタート地点にして当事者の時代を描くような内容を求めていた。が、それはもちろん中身を確かめずに買った私の問題であって本書の問題ではない。

それに、本書の内容からも得ることはいくつもあった。特に<マイノリティ憑依>は頭に置いておかなければならないと思う。意識していなくても、ついついそっちの方向に流れてしまう、ということは十分に考えられる。

勧善懲悪ほど描くのが楽なストーリーはない。そして多くの人がそれを楽しむこともよくわかっている。が、それが本当にこの世界の有り様を描写しているのかどうかはわからない。

被害者が加害者であり、加害者が被害者でもある物語。
救済者が困難者であり、困難者が救済者でもある物語。

実際の世界は、非常に複雑で微妙なバランスの上に成り立っているのではないだろうか。量子の重ね合わせのように、どちらの可能性も含んだ状態。どちらにもなり得る状態。

明確に線引きされた二元論の世界は人の頭の中にしか存在しない。しかしながら、つい私たちは「楽」な物の見方を選んでしまう。

何かに対して発言するときに、「もしかしたら、自分はそっち側にいるんじゃないのか」あるいは「可能性として、そっち側に属していた可能性があるのではないか」と自問することはとても大切なことのように思える。

そうした自問が、私なりのギリギリの「当事者」意識の持ち方である。

▼こんな一冊も:

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