7-本の紹介

【書評】『「超」入門 失敗の本質』(鈴木博毅)

現代の日本企業が陥っている状況と、戦中の日本軍の状況を重ね合わせて分析する話は多くある。何しろ似ているのだ。

時代を越えて、同じような失敗が生み出されているのを見ると、問題の根っこはかなり深い部分にあって、そうそう簡単に解決できないんじゃないかと思わされる。それはマイケル・ギルモアの『心臓を貫かれて』に描かれている血の呪いに似た何かではないのか、と。

しかし、「日本」という国が、いつの時代でもまったく同じような失敗を生み出してきたわけではない。それは環境の問題であり、制度の問題であり、システムの問題であり、仕組みの問題なのだろう。つまりは、変えられるということだ。少なくとも、変えられる可能性は秘められている、ということだ。

本書は、その変化の手がかりになる一冊かもしれない。

「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ
「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ 鈴木 博毅

ダイヤモンド社 2012-04-06
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※出版社さまより献本いただきました。ありがとうございます。

概要

太平洋戦争(本書では大東亜戦争)において日本軍がどのような「失敗」をしてしまったのか、についてはすでに多くの研究がある。本書の土台とも言える『失敗の本質』もその一冊だ。

この『失敗の本質』は「日本軍の組織論的研究」という副題が示すように組織論の話である。そしてその組織分析は、現代の日本の「組織」__企業__についても通じる部分が多い。本書は、その『失敗の本質』のエッセンスを取り出し、日本企業が置かれている状況に当てはめることで、解説を試みている。

ちなみに『失敗の本質』は三章だての構成になっており、第一章が6つの作戦の事例研究にあてられている。軍事系の話が苦手な人は、おそらくこの章で躓くのではないだろうか。1939年のノモンハン事件から始まり、ミッドウェー作戦、ガダルカナル作戦、インバール作戦、レイテ海戦、沖縄戦と戦史をたどって分析が重ねられていく。率直な感想を言うと、やや重い。ちょっとした壁だ。

本書では、それぞれの作戦の分析は必要に応じて紹介されているにとどまっている。章立ては以下の通り。

第1章 なぜ「戦略」が曖昧なのか?
第2章 なぜ、「日本的思考」は変化に対応できないのか?
第3章 なぜ、「イノベーション」が生まれないのか?
第4章 なぜ「型の伝承」を優先してしまうのか?
第5章 なぜ、「現場」を上手に活用できないのか?
第6章 なぜ「真のリーダーシップ」が存在しないのか?
第7章 なぜ「集団の空気」に支配されるのか?

ご覧の通り、それぞれの章は「なぜ?」という問いかけになっており、それに対する答えが23の「失敗の本質」という形で提示されている。逆に言えば、上にあげた要素が日本企業が抱える問題でもあるわけだ。

日本企業の問題と個人

少し前に山本一郎さんが書かれた『リーダーの値打ち』という本でも、日本軍と現在の日本の組織が抱える問題の共通点が指摘されている。その5つを簡単に紹介すると、

  • 「取り組もうとしている戦略の目的が不明確でわかりにくい場合が多くある」
  • 「部門ごとに縦割りで運営されており、それらをまとめる仕組みもなく、全体のパフォーマンスに影響が出るような対立も起きる」
  • 「現場の状況を知らない・知ろうともせず、机上の__たいてい無謀な__作戦を立ててしまう」
  • 「既存の戦術が通用しなくなっている状況に遭遇したにもかかわらず、そこから学ぶことができない」
  • 「計画の中に「うまくいかなかった場合の計画」が無い」
  • となる。

    上で紹介したものと重なる部分が多くあるだろう。きっと企業に勤めている人ならば、うなずくポイントも多いのではないだろうか。日本企業に「ありがち」な要素と言えそうだ。

    が、少し立ち止まって考えたい。それは企業だけの問題なのだろうか。個人__あなた、あるいは私__の中に似たような問題は潜んでいないだろうか。

    たとえば「机上の作戦」。

    自分の行動目標を「机上」のものに設定してしまうことはないだろうか。現実世界で生きている自分__現場__を無視して、駆り立てられたかのように壮大な「目標」を設定してしまう。しかし、どう考えても実行できるはずはない。24時間に36時間分の予定を詰め込むことはできないのだから。

    机上の目標の結果、生まれるのは「目標」に対する不信感か、あるいは自分に対する無力感だけ。こういうことはないだろうか。

    本書は組織論として書かれているが、視点を変えれば個人の生き方として読める部分も多い。私は現在どこかの組織に所属しているわけではないので、より強くその視点で本書を読んだ。

    目標を変えるダブル・ループ学習

    本書で紹介されているポイントで重要な点はいくつもあるが、

    「同じ指標ばかり追いかけると敗北する」

    という部分は是非押さえておきたい。何かを継続的に続けていく場合には、必須の要素だと言えるだろう。

    拙著三冊目では「二重ループ学習」を紹介した。本書では「ダブル・ループ学習」として紹介されている。ある種の目標を設定して、それを達成するための行動を続けるだけでなく、時にその目標や前提そのものを検証する方法論だ。

    「ダブル・ループ学習」を行うためにはフィードバックが機能していないといけない。そして、個人でそれを実現する場合に、一番役立つのが「記録」である。記録を残すことと、それを振り返り、新しい目標を立てることは、指標を変化させるもっとも簡単な方法である。

    さいごに

    日本企業が抱える問題を把握しても、それを実際に変えられる立場にいる人は限られている。「だから、組織論なんて自分には関係ない」という考え方は、シングル・ループ学習の中にいると言ってもよい。

    一歩引いてみれば、「現代の日本企業が抱える問題」はさまざまな所に顔を出しているのが見えるだろう。それは日常という身近なレベルから、日本政府といった大きなレベルまで多様な現れ方をしている。本書の「あとがき」でも触れられているように、組織論は「日本人論」的な要素がある。組織を作るのは人であるのだから、当然と言えば当然だろう。

    これから個人と組織の付き合い方はどんどん変化していくだろう。そういう時代にあって、日本人論と寄り添う「組織論」について知っておくことは、なかなか有効なことのように私には思える。

    ▼こんな一冊も:

    失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)
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