5-創作文

リンシャンカイホウ

「それは、リンシャンもついてるぞ」
「えっ、トイトイだけじゃないんですか」
指を折り、翻数を数えていた後輩が視線をこちらに向けてくる。
「そうだ。カンしてツモった牌で和了ると1翻つくんだ。それがリンシャンカイホウという役になる」
「へぇ〜」
しきりに関心している様子。
「じゃあ、カンできるならガンガンやっちゃった方がいいってことですね」
「いや、そう簡単な話じゃないんだ」
テンションが上がりつつある後輩に静かに水をかける。話はそう簡単ではない。
「確かに、カンをすれば一度ツモが増えるし、しかもそれで上がれば1翻アップだ。しかし、和了れなければそれを捨てなければならない。そうだろう」
えぇ、そうですね。スルメを噛みしめるかのような後輩の顔。
「もしかしたら、それでロンと言われるかもしれない。しかも、それがアタリ牌の最後の一枚かもしれない」
「なるほど。リスクがあるんですね」
当然だ。リターンを求める行為の裏側には必ずリスクが含まれている。常識というよりも、この世の真理みたいなものだ。
「その通り。眠れる獅子を起こしてしまうこともあるってことだ。それに、カンをすればドラがもう一枚開く。自分が上がれば得点アップの可能性にもつながるが、同じことが他のやつにも言えるんだ。言うまでもないが麻雀では3人が対戦相手だろ。すると自分が得する確率よりも、自分以外の誰かが得する確率の方が高いんだ」
「だったら、どうすればいいんですか」
うむ。と僕は頷く。
「とりあえずは、カンに潜むメリットとデメリットをきっちりと把握しろ。どうもメリットばかりを目にして、好き勝手にカンするやつがいるが、初心者以外のなにものでもない。中級者はカンのデメリットを把握した上で、きちんと使いこなしている」
「なるほど。で、具体的にはどうすれば?」
「まず、シャンテンを意識しろ。テンパイが遠い段階でのカンは、自分で自分の首を絞めているようなものだ。こっちが3シャンテンでカンをして、かりに2シャンテンになったとしても、他の誰かがテンパイしていたら、まずカン裏を期待してリーチと来るだろう。これは愚策中の愚策だ。自分が十分戦える段階になるまではカンは自重しておくこと」
「はい」
「当然、周りの煮詰まり具合をチェックしておくことも大切だ。鳴いているやつが多ければ、テンパイは近いかもしれないが、カン裏の心配をする必要は無くなる。逆に全員面前ならば、次にどういう展開になるのか読み切れない。あと、捨て牌からトイツ系の臭いがするときも警戒しておいた方がいいな。一回乗ったらハネマン、バイマンなんてざらだ」
「そんなことまで考えるんですね」
「まあ、これは中級者以上の話だ。まずは、自分が戦える形になるまでカンは控えておくことを意識しておけばいいだろう。あと、ミンカンはしないこと。特にカン裏があるルールでのミンカンはどう見繕ってもデメリットの方が大きすぎる」
僕は確認するように、後輩に視線を投げる。
「自分だけ、カン裏使えないわけですもんね」
「そう、完全に敵に塩を送る形になる。しかもその敵は三人だ。バカバカしい事この上ない」
ふむふむ、と頷きつづける後輩に、僕は追い打ちをかける。
「この二つを意識するだけでも不必要な失点をかなり防ぐことができる。長期的にこれがジワジワ効いてくるんだ。長い間麻雀をうっているやつは、それがいかに大切かを知っている。だいたいおまえ、麻雀をでかい役を上がった方が勝ちなゲームと考えてるんじゃないだろうな」
「えっ、違うんですか」
「それはパーフェクト初心者の考え方だ。たいていの勝負はうまくやった方が勝つんじゃなくて、ミスが少なかった方が勝つんだ。それぐらい人は多くミスをする。これが分かっていないやつはまず勝ち残れない」
「ミス、ですか」
あまり腑に落ちていないようだ。それはまあ仕方ないだろう。
「そうミスだ。ターツ処理の際に、イーピンとリャンピンのどちらを先に切るか。そんな判断で勝負が決まってしまうこともあるんだ。それぐらいシビアな世界を知っているやつは、手牌の戦略をしっかり立て、周りの情報に目を配り、変化を見逃さず、できるだけミスを減らそうとする。その積み重ねが結果を作るんだ」
はあ、そうですか。後輩は気のない返事をしてくる。
「まあ、そんな話は今はいい。とりあえず、和了れる見込みのないカンははっきりとわかりやすいミスの一つだ。まずはそれを止めること。わかったか」
「わかりました」

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