7-本の紹介

【書評】『100の思考実験』(ジュリアン・バジーニ)

ズルい。だいたいタイトルからしてズルい。思考実験好きの人間が、『100の思考実験』なんてシンプルなタイトルを見て手に取らない筈がない。

表紙には、<あなたはどこまで考えらえるか>
帯には、<これは「読む」本ではありません。「考える」本です。>

などと宣伝文句が並ぶ。いったい中身を確認する手を止められようか。

目次にならぶ100の思考実験を眺めれば、レジはもう目の前だ。

100の思考実験: あなたはどこまで考えられるか
100の思考実験: あなたはどこまで考えられるか ジュリアン バジーニ 河井美咲

紀伊國屋書店 2012-03-01
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読了して一つ言えることがある。

もしこのR-styleを__たいして実益に結びつかない記事の割合が多いブログを、あるいは思考実験をよく用いるブログを__ちょくちょく(あるいは好んで)読んでいる人ならば、間違いなく楽しめる一冊である。

ただ、そんな人はもしかしたら私の思考実験の中にしか存在しないかもしれないが。

概要

本書はタイトルが示すように100の思考実験が、一章につき一つの形で提示されている。扱われているのは、さまざまな哲学の分野の問題。それぞれの章は独立していて、ちょっとした時間に少しずつ読み進めるのに向いている。

トイレの中、電車での移動中など、頭の中を空想の世界に飛ばしても問題ないような__あるいは積極的にそうしたいような__シチュエーションに向いた一冊と言えるだろう。

では、そもそも「思考実験」とはなんだろうか。本書によれば「想像力を駆使したたとえ話」である。

その目的は

そうした「思考実験」の目的は、実生活を複雑にしているさまざまな要因を取り除き、問題の本質をはっきり見定めることにある。

と書かれている。複雑な要因を取り除き、できるだけ本質的な事柄に迫るアプローチと言えるだろう。

たとえ話とは、一種の類推だ。類推は思考を進める上で大きな力を持っている。
※【参照】:Blogと音楽の対比 〜類推的発想法〜

思考実験を行うことは、まさしく「考える」ことである。これが楽しくないわけがない。もちろん、一部の人にとって、という条件を付ける必要はあるだろうが。

とある哲学の思考実験

「動物を食べるのは可哀想だ」

という意見を耳にはさんだとしよう。同意できる気もするが、何かが引っかかる気もする。

「動物を食べるのは可哀想だ。ましてや人間に近い知性を持っている動物なんてもってのほかだ」

ならばどうだろうか。違和感は弱まる?それとも強まる?

ちょっとこういう話を考えてみよう。たとえ話だ。

遺伝子工学がバンバンに進んで、ビビるくらい賢い豚が登場したとしよう。もちろん、名前だってちゃんと付けられている(ここではPちゃんとしておこう)。もし、丸々と太ったPちゃんがあなたに

「僕は、人に食べられることをずっとずっと夢見てきたんです」

と、いかに自分が食べられたいかを語り出したとしよう。

さて、Pちゃんをおいしくいただくことは、可哀想なのだろうか。それともそうではないのだろうか。

これが「思考実験」だ。本書では第五章「わたしを食べてとブタに言われたら」で紹介されている。
※英語の原題にも用いられている。

もちろん、こうした「思考実験」に正確な答えはない。思考実験は「何か」を明らかにするだけだ。あるいは明らかではない何かを明らかにするだけだ。それはつまり、「考え」を進めるということでもある。

さいごに

「もし、今日一日で人生が終わるとすれば何をするだろうか」

というのも一種の思考実験だ。実際にその日で人生が終わる確率は(ゼロではないにせよ)それほど高くはない。でも、そのシチュエーションに身を置くことで自分の優先事項が見えてくる。あるいは何をすれば後悔が少なくなるのかがイメージしやすくなる。

ただし本書を読み終えても、何かがスッキリすることはまずないだろう。哲学的問題とはだいたいそんなものである。モヤモヤがいつでも付いてまわる。そして、知性を維持するためには、そういうモヤモヤ感を内側に抱え込んでおく必要があるのではないかと思う。

▼こんな一冊も:

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