7-本の紹介

【書評】『サラダ好きのライオン 村上ラジオ3』(村上春樹)

春樹さんのエッセイ集。雑誌「anan」で連載されていたものをまとめた一冊。

タイトルに「村上ラジオ3」とあるように、シリーズ的に三冊目の本です。一冊目、二冊目と同じように心がほこほこするエッセイがたくさん収められています。

サラダ好きのライオン 村上ラヂオ3
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しかし、「サラダ好きのライオン」というタイトルは、実に気になる表現ですね。これはエッセイの中で使われている春樹流比喩的表現の一つなんですが、一体何の比喩なのかは、直接本書をご覧になってください。

今回は、文章書きとして面白かった部分を紹介してみましょう。

共通点の不在と開き直り

「はじめに」の中に、こんな文章があります。なぜ「おっさん」(著者の表現をそのまま借りた)が女性向け雑誌「anan」でエッセイを書くのか。その書き手と読み手の関係性には共通点など存在しなだろうに。そういう疑問に対する一つの「解」です。

しかし「共通する話題なんてない」といったん腹をくくってしまえば、逆に気楽に好きなことが書けるんだということに、僕はある時点で気づきました。相手が何を思うのかなんてとくに考えずに、自分の書きたいことを、自分が面白いと感じることを、好きなように楽しくすらすら書いていれば、それでいいじゃないかと。というか、そうする以外に僕にできることなんてないじゃないかと。そういう潔い開き直りの精神がそこに生まれます。

「潔い開き直りの精神」。

簡単に言ってしまえば、このR-styleというブログにもそういう精神が根付いています。だって、それしか私にはできないし、そうすることでしか、これを続けることもできません。

それがどういう形の物であれ、潔く開き直ってしまえば、物事は随分とシンプルになります。シンプルになれば、やるべきこととやらなくていいことがはっきりしてきます。あとは、ぐいっと自分の力を込めるだけ。簡単です。

その逆にややこしいことを考えれば考えるほど、事態はややこしくなってきます。それは個人的には避けたいところです。

著者は、さらにこう続けます。

その一方で、もし僕みたいなおっさんが、おっさん雑誌向けに連載エッセイを書いていたら、ついその「おっさん同類性」を意識したものを書いてしまうかもしれないし、それはあまり面白くない結果を生み出すかもしれません。

その「あまり面白くない結果」をどのようにイメージするかは、それぞれの人次第ですが、「同類性」を意識しすぎてしまったものが、内側に閉じてしまっている風景はよく見かけます。身内には受けるけど・・・、というやつ。

まあ、それでもいーじゃんと言い切れる人は、あまり気にすることはないのでしょうが、私はちょっと気をつけたいなと思います。

楽観的な性格がもたらすもの

もう一つ、「楽観的な性格」について。

著者は基本的に「まあいいじゃん、何とかなるさ」という世界観のもとで生きている、と書いています。

かくいう私も(あまり自慢にはならないだろうけど)、「まあいいじゃん、何とかなるさ」的ライフスタイルで30年以上生きてきました。たまに自分で自分のことを「あまりにも楽観的すぎないか」と心配になることがあります。
※もちろん、五秒後には「まあいいじゃん(ry」となるわけですが。

小説家にとって、また創作家一般にとって、基本が楽観的であるというのは大事なことじゃないかと、常々思っている。たとえば長編小説に取りかかるときは、「よし、これは絶対に完成できる」という確信を持つ必要がある。「私の能力ではこれを書き終えることはできないかも」みたいなことを考え出したら、まとまった仕事なんてできなくなってしまう。

とてもよくわかるお話です。

書き始める前は、「これはこうで、あれはああで、うんうん、いける」みたいな感覚があります。着手し始めればとんとん拍子に完成する、そういう中学生の初恋のように淡い期待です。

が、現実は非情で・過酷で、ナイフのようにリアルです。悪戦苦闘としか呼びようのないものが待っています。汗をかいて、手を動かし、時には自分ならざるものの力を借りて(たまに出てくる)、原稿を完成にまで持っていきます。かけた時間と苦労と精神的疲労の合計で、得られる対価を割ってしまうと、あまり芳しい数字にはならいかもしれません。

だから、最初に冷静にそれが判断できてしまうと、「まあ、やめとこう」とスルーしてしまう、ということもあるでしょう。

この辺はダン・アリエリーの『不合理だからすべてがうまくいく』にも出てくる話ですが、それがたとえ不合理なものであっても、楽観があるからこそ生まれ出るものもある、ということです。

さいごに

というわけで、__何がというわけなのかはさておいて__春樹さんのエッセイ好きな方は買いで間違いないと思います。

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