『武器としての決断思考』の続編に位置する一冊。内容的には、著者が京都大学で教えている「交渉の授業」をまとめたものとされている。
新書なのにかなり分厚いので、一瞬購入を躊躇してしまった。最近こういう分厚いめの新書をよくみかけるようになったのだが、新書2.0的な何かなのだろうか。
武器としての交渉思考 (星海社新書) |
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瀧本 哲史
講談社 2012-06-26 |
交渉の必要性
さて、『僕は君たちに武器を配りたい』と同じ著者であるからして、この武器は20代の若者に配られるものなのだろう。それは京都大学の講義として扱われていることからもわかる。
では、なぜ「交渉思考」が私たち(30代も加えてください)若者に必要なのか。
それは「既存のルール」が機能不全を起こしているからだ。著者の表現を借りれば「頭の良い偉い人が作った仕組みやルール」がもはや通用しなくなっているから、ということになる。生き方のロールモデル一つとってみても、50代が理想にする生き方は、もはや今の20代には何の意味も持たない状況になっている。
だからこそいま、若い世代の人間は、自分たちの頭で考え、自分たち自身の手で、合意に基づく「新しい仕組みやルール」を作っていかなければならない。
その「合意」を生み出すための手段が「交渉」というわけだ。
「合意」とは、自分と相手が互いに納得している状況を指す。これが大変重要かつ難しい。
「〜〜を○○せよ!」と主張するのはそれほど難しいことではない。何冊かの本を読んだり、ネットサーフィンしたりして情報を蓄え、あとはほんのちょっとだけの勇気を持って発言するだけで事足りる。
が、それで事態が大きく動くことはあまりない。相手が「あぁ、うるさい、うるさい」と耳をふさいでしまう、あるいはブラウザを閉じてしまえば、それでおしまいだ。事態が前に進むことはない。
「〜〜を○○してください」と提案して、「よし、〜〜を○○しようじゃないか」と相手方に納得してもらい、現実的に事態を前に進めること。これがなければ単なる唯言家だ。もちろん、唯言家になりたいのならば、それで構わないが、そうでないのならば、相手から合意を取り付ける術(すべ)を身につけなければらない。
※唯言家(造語)・・・言っているだけの人
その術が「交渉思考」であると述べ、著者は本書を通して、その具体的なアプローチを紹介していく。
概要
章立ては以下の通り。
ガイダンス なぜ、いま「交渉」について学ぶ必要があるのか?
1時間目 大切なのは「ロマン」と「ソロバン」
2時間目 自分の立場ではなく、相手の「利害」に焦点を当てる
3時間目 「バトナ」は最強の武器
4時間目 「アンカリング」と「譲歩」を使いこなせ
5時間目 「非合理的な人間」とどう向き合うか?
6時間目 自分自身の「宿題」をやろう
300オーバーの本書にはいろいろなものが詰まっているが、たった一つだけ要点を抜き出すとすれば、次の部分になるだろう。
交渉というのは結局、情報を集める「だけ」の勝負なのです。
情報というのは、相手に関する情報ということだ。どれだけ相手のことを知ることができるか、これに尽きると思う。それさえきっちりと押さえておけば、後は想像力でカバーできる。
※むしろその想像力こそがボトルネックかもしれない。
本書にはバトナやゾーパといった専門用語(だと思う)が出てくるが、これらを暗記する必要はまったくないだろう。
自分が「正しいこと」を主張していればその通りに実現する、なんてあり得ないという事実に気がついた人ならば、相手がどういう状況に置かれているのか、どういう性格なのか、何に価値をおいているのか、どういう反応をする人なのかを考えることの必要性にも気がつくだろう。
もしそれに気がついていないのならば、本書を通してそれを知ることができるかもしれない。
さいごに
一点だけ気になったのが、ビジネスの現場で使われる「交渉」と、自分の仲間を増やす「交渉」を同一平面に置いてよいのだろうか、という疑問だ。
たとえば自分が何かグループを持っていて、そこに参加者を引き込む場合であれば交渉が活躍するだろう。こういう場合「同盟」という言葉はしっくりくる。しかし、それを「仲間」と呼べるのかどうか、その辺が微妙に気になる。
何が言いたいかというと、人とつながるための方法は「交渉」以外にもあるだろう、ということだ。
これは決して交渉の有用性を否定しているわけではなく、交渉の枠組みには収まりきらない関係性__それは合意を必要としないものになるだろう__も存在するのではないか、というちょっとした疑問である。
▼こんな一冊も:
武器としての決断思考 (星海社新書) |
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瀧本 哲史
講談社 2011-09-22 |
僕は君たちに武器を配りたい |
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瀧本 哲史
講談社 2011-09-22 |
常識からはみ出す生き方 ノマドワーカーが贈る「仕事と人生のルール」 |
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クリス・ギレボー 中西 真雄美
講談社 2012-07-11 |
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