見当違いな褒め方について

「人を損なうものは何か?」

いろいろな答えが考えられると思う。

たとえば失敗の体験。たとえば悪意の発露に晒される。たとえば満たされない承認欲求。・・・。・・・・・・。

一つに絞るのは難しい。

村上春樹さんは、エッセイ集『村上ラジオ』の中で次のように書いている。

かなりの確信を持って思うんだけど、世の中で何がいちばん人を深く損なうかというと、それは見当違いな褒め方をされることだ。そういう褒め方をされて駄目になっていった人をたくさん見てきた。人間って他人に褒められると、それにこたえようとして無理をするものだから、そこで本来の自分を見失ってしまうケースが少なくない。

うん、そうだよな、と私も同意する。

褒められるというのは、ある種のフィードバックになり得るものだ。

誰だって褒められるのはうれしい。だから、より褒められるように行動を強化していく。魔法でも何でもないシンプルな人間的傾向だ。ここまでは問題ない。

問題があるとすれば、何をどのように褒められるのかは、こちらの意図や意思や価値観とはほとんど無縁である、という点だ。

だから、フィードバックに導かれるままにずんずん進んでいった先は荒野の風景が広がっていた、なんてことも十分にあり得る。

小売店の進む道

小売店について書いてみよう。

商売において、お客さんから「ありがとう」と言われるのは最高の体験の一つだ。もちろん小売店でも同じである。

精一杯の接客をして、「ありがとう。このお店は良いお店ね」と言われたとする。その経験が次の接客に結び付き、よりよいお店が出来上がる。素晴らしい循環だ。

ではもし、ほんの気まぐれに、ちょっと余っていた商品を無料で配布したとしたらどうだろうか。その際「ありがとう。この店は本当に良いお店ね」と褒められたとしたら、そのお店はどんな方向に向かって進んでいくだろうか。そして、その道は歩みたかった道と方向を同じくしているだろうか。

フォードはかく語りき

ヘンリー・フォードはこう言った。

もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、
彼らは「もっと速い馬が欲しい」と答えていただろう。

最初に少しだけ速い馬を作った人は、きっと品種改良に躍起になっていただろう。そうすることが自分の天命だとすら感じていたかもしれない。もちろん、それはそれで一つの道だ。充実感を感じられるならばそれで問題ない。

でも、速い馬を求めていた人々は、T型フォードが登場したら即刻そっぽを向くかもしれない。そういう可能性はいつでもある。

先生という呼称

私は「先生」と呼ばれるのが苦手だ。だって、その呼称に見合うような実力を持っていないから。

それに、周りの人から「先生、先生」と呼ばれるうちに、「えへん!」みたいな態度をとってしまうことが怖い。

もちろん、今の私はそんな威張りくさる態度を心のどこにも持ち合わせてはいない。でも、人は環境に染められるものだ。そこでは「自分」なんていう言葉は容易に変容してしまう。

だから、環境には常に気を配っていたい。

受け取ること、スルーすること

誤字脱字、あるいは表現のおかしさについて指摘してくれる人の存在はいつでもありがたい。

もちろん、批判や指摘を受けてまったくのノーダメージというわけにはいかないかもしれないが、それは成長するために必要なもの__紙やすりのザラザラ__だ。

それに、見当違いだと感じる批判については華麗にスルーすればいい。

それと同じように、見当違いだと感じる「褒め方」もまたスルーしたいところだ。

が、なかなかそういうわけにはいかない。褒められるというのは大変魅力的な報酬なのだ。そして、それがあるからこそ、前に進むエネルギーを持てることも確かである。うまくバランスをとるしかない。

さいごに

「見当違いの褒め方」から逃れるのは難しい。

そもそも何が見当外れなのか、という問題が門番のように立ちふさがっている。たえず、自分の立ち位置を確認しておくしかないだろう。

それに見当違いの褒め方に導かれてみたら、桃源郷にたどり着いちゃいました、みたいなことも可能性としてはゼロではない。だから話はますますややこしくなる。

あまり結論めいた言葉は出てこないが、自分が身を置く環境には気を使った方がよいし、自分に入ってくる(広義の)情報の取り扱いにも注意が必要だ、というぐらいは言えそうだ。

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Rashita
物書きをやっております。実用書から小説までなんでもござれのハイブリッド物書きです。 ライフハックや仕事術、知的生産などに興味があります。

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