おっちゃんの不毛なメッセージ

「いまからどこいくねん。まだそんな時間ちゃうやろ」

と、駅のホームで声をかけられた。あと二、三分で大阪行きの電車が来るはずの地元の駅のホームでだ。

たぶん、その言葉は私にかけられたものだと思う。なにせ、ホームには私とそのおっちゃんしかいない。あきらかにそのおっちゃんは、お酒が少しばかり入っておられる状態だった。口調がかなり荒いし、言葉にとげとげしい感情が乗っかっている。

私は時計を見た。午後三時を少しばかり過ぎたところ。遅くもなく、早くもない平日の時間帯。チノパンにTシャツというラフな格好をしている私は、一体そのおっちゃんの目には何をしている人に見えたのだろうか。

ニート?ありうる。

まあ、しゃーないな、と私は素直に思った。私の住んでいる地域__田舎__では平日の昼間にスーツ姿でもない成人男性を見かけるのは本当に稀なのだ。ぶらぶらしながら仕事もせず遊んでいるヤツと勘違いされても仕方がない。それにその日は午前中に仕事を終わらせて、ビアガーデンに向かう予定だったのだ。ある側面ではおっちゃんの指摘は正しいと言える。

少し、本当に少しだけ「そういうおまえは何をしてるんだよ」と関西人的ツッコミが心の底に湧き上がってきたが、60歳オーバーであろうおっちゃんにそんなことを問うても意味がない。

というか、そもそもこちらの話を聞いてくれる様子はまったくなさそうだ。

なぜ私が、最初の言葉を私に向けられたものとはっきり断じられなかったかというと、そのおっちゃんがまったく私に向かって言葉を投げかけていなかったからだ。

立って電車を待っている私の後ろを通りながら、明らかに私の耳に入る以上のボリュームで上の言葉を発した。その後も、歩き続けながら__つまり私から遠ざかりながら__「だいたい、さいきんのうんちゃらかんちゃらは・・・」といったことを大声でまくし立てておられた。日本は平和だ。

私はマクドナルドのLサイズコーラの容器よりも深い心を持っているので、そんなことを言われてもまったく気にしない。それで世界の「すっきり感」が多少なりとも上昇するなら、別に悪いこととも思わない。

ただ、遠ざかりつつ叫び続けるおっちゃんを見ながら、これは何かに似ているな、と感じた。なんだろう。そう、あれだ、いわゆる・・・まあやめておこう。

もしおっちゃんが、私に向かって直接「マジメに働けよ」とありがたい説教をくだされば、「一応、これこれこういう仕事はやってるんですよ」と言い返すことはできる。仮にそうしても「そんなものまっとうな仕事じゃない」とさらなる説教が返ってくもしれないし、逆に「そうか、それなりに苦労してるんだな」と理解してもらえるかもしれない。

どういう結果になるかはわからないが、お互いのことが少しは理解できるだろう。もしかしたら、私も「もうちょとマジメな仕事に就こう」と目をキラキラさせて思うかもしれない(10秒後に太陽が爆発する程度にはありそうな話だ)。

そこには作用があり、反作用がある。あるいはその可能性がある。

でも、遠ざかっていくおっちゃんが上げる声にはそれがない。彼の何かが満たされただけだ。もしかしたら、おっちゃんの意図の中に、私に不快感を与えるというものがあったのかもしれないが、残念ながらその意図は達成されなかった。

それにおっちゃんは最後までこちらに顔を向けなかったので、実際私がどういう影響を受けたなんてまったく気にしていなかったんだろうと思う。何を変えるつもりもない、ただ言葉の姿を借りただけのメッセージ。

善悪や、良し悪しの平面はどうでもいいとして、とりあえず不毛だよね、とは思った。ネットの世界を見渡しても・・・・まあやめておこう。

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