7-本の紹介

【書評】脳には妙なクセがある(池谷裕二)

なんだかんだ言って池谷さんの本は結構買っている。

糸井重里さんとの対談をまとめた『海馬』から入って『記憶力を強くする』『進化しすぎた脳』『単純な脳、複雑な「私」』を本棚に増やしてきた。どの本でも共通して言えるのが、「たいへん、わかりやすい」という点だ。

もちろん、本書も同じである。

脳には妙なクセがある
脳には妙なクセがある 池谷 裕二

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脳科学の実験結果やその解釈などをできるだけ身近な話題に引きつけて紹介してくれている。また、ここまでは言える、これ以上は著者の意見、という線がきちんと引かれているのもよい。とりあえず断定しておけば説得力出るだろ、みたいな投げやりな本を読んでいるときに感じるイライラ感はまったくない。

構成としては、「脳は妙に○○○」というタイトルが付いた26のエッセイ的文章が並んでいる。たとえば「脳は妙に自分が好き」「脳は妙に酒が好き」「脳は妙に不自由に心地がよい」といった感じだ。

内容としては、なるほどなぁ〜と頷けるものから、ちょっと自分の生活に取り入れてみようと思える知見、それに人によっては受け入れがたい主張もあるかもしれない。

なるほどなぁ〜

「脳は妙に自分が好き」では脳は自己評価が高い、という話が紹介されている。

全体の80%が「自分は平均以上だと思う」と答えるアンケート結果が典型例だろう。面白いのは、それを「人間ってバカな存在ですね」という話に持っていくのではなく、「なぜそんな機能が(淘汰されずに)残っているのか」と新しい問いに持っていくところだ。

著者はその答えとして、エジンバラ大学のジョンソン博士が行った実験を紹介している。

彼は電算シミュレーションを行い、自己の能力を誤って高く評価する人は、競合においてしばしば有利に働き、結果として集団のなかで優位になっていくことを証明しました。戦わずして勝利はない。向こう見ずであることは最初の一歩を踏み出すことに一役買うのでしょう。

なるほどなぁ〜、という感じはしないだろうか。世の中には「なんであんな人が社長をやっているんだろうか」と思いたくなるような人もいるが、「あんな人だからこそ社長になれた」という側面があるということだろう。どうも、物騒な話題になりそうなので、穏便にジョブズの言葉__Stay hungry,Stay foolish__を引いてお茶を濁そう。

とりあえず、こうした現実世界の出来事が「納得」できるような知見がたくさん見つかる本である。

取り入れたい

単に納得するだけでなく、「これは自分でもやってみよう」と思うような話もある。

たとえば、「本番で実力を発揮するには?」という話題だ。緊張感や不安に押しつぶされて、普段の力が十全に発揮できなかった。こんな場面は誰にでもあるだろう。私も生まれたての子リスのようにチキンハートなのでその場面は容易に想像できる。

ではどうすればいいか。答えはこうだ。「心の中にある不安を書き出すこと」。ライフハック系の話題が脳に詰まっている人にとっては「当たり前」カテゴリーに入れられてしまう話だろうが、こういう「当たり前」なことはたいてい強力だ。それにシンプルでもある(あまりに複雑な事柄は「当たり前」と認知されにくい)。

日頃からいろいろ書き出す(吐き出す)習慣を持っている人とそうでない人の差は、思っている以上に大きいのではないかと思う。

これ以外にも「脳は妙にフェロモンに惹かれる」や「脳は妙に勉強法にこだわる」で出てくる話は、実生活に役立つだろう。

受け入れられる?

「自由意志は本人の錯覚にすぎない」

と聞いたらどんな感じを受けるだろうか。この手の話題に初めて触れたという方ならば、違和感がチョコレートパフェの生クリームようにたっぷり乗っかってくるかもしれない。しかし、脳の動きを観察していると、どうもそうとしか言えないような風景が広がっているようだ。

著者はいくつかの実験を紹介した上で、次のように書いている。

こうした実験からわかるのは、自由意志とは本人の錯覚にすぎず、実際の行動の大部分は環境や刺激によって、あるいは普段の習慣によって決まっているということです。

だからこそ、自分が身を置く環境や刺激を受けるソースには注意する必要がある。それに「習慣」が人生に与える影響も大きいと言える。

さいごに

最後の「自由意志は錯覚」という主張を受け入れると、「じゃあ、なぜそんなものが生まれたのか」という疑問が湧いてくる。たまたま?まあ、そういう答えもアリだろう。

本書の後半で紹介されているミネソタ大学のヴォース博士の実験が妙に私の頭に残っている。

その実験はモニター上で計算問題を解いてもらうものなのだが、ときおり答えがモニターに一瞬見えてしまうプログラムが仕込まれている。被験者が自由意志があると信じている間は、答えが見えてしまっても「見なかったこと」にして解答する傾向があったのに対して、「心に自由意志はない」という決定論の考え方を教えてからは、見た答えをカンニングして答える傾向が強まったそうだ。

上の実験の結果から何を大胆に断言することは難しいかもしれないが、「自由意志」という概念、あるいはそれを持っている感覚は、何かを変えているのだろうということは推測できる。意識は傍観者かもしれないが、完全なる観測者、というわけではないのだろう。

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