今年の12月から開始が予定されている「Evernote Business」。このサービスをみて、ぽこぽことキーワードが浮かんできた。
- 共有ノートの価値
- ポジティブデビアント
- 価値の相転移
- 形式化されにくい経験知
- 無意識の外部化
まとまった話はメルマガに譲るとして、今回は昔のエピソードを交えて感じたことをつらつらと書いておこう。
コンビニ店長時代のお話
コンビニ店長時代に、わりと意識していたのがスタッフとの接触だ。直接会って雑談したり、作業する姿を眺めたりする。
言うまでもなくコンビニは24時間営業だ。店長もいちおう人間なので、24時間ずっと勤務に入っているわけにはいかない。必然的に顔を合わせるスタッフとそうでないスタッフが出てくる。
一応情報伝達のために「スタッフノート」があり、店長→店員、店員→店長、店員→店員、の情報流通に使われている。
じゃあノートを使えば、スタッフと直接会話する必要ないじゃないか、というわけにはいかない。スタッフノートには「かしこまった」情報しか載ってこないのだ。これが時々、ダメージになったり、あるいはチャンスを逃したりする。
たまに「厳しめ」のお客さんに出くわす。クレーマーというわけではないが、障子の隅をすすーっと指でなぞる姑さんのような姿勢のお客さんだ。店員の一人が、そのお客さんに「軽く」注意を受ける。すいません、以後気をつけます。といってその場は収まる。そう、収まってしまう。だからノートには書かない。
で、同じミスを別の時間帯の誰かがやってしまう。今度は「軽く」というわけにはいかない。「以後気をつけます」と言ってしまっているのだから。
これはあまりよろしくない。
あるいは、ある店員は「声かけ販売」の実績が他の店員よりもよかったりする。なぜだろうと思い、よくよく観察していると、どうも「誰に声をかけるのか」と「声のかけ方」をお客さんに合わせているようだ。こういう発想はマニュアル思考のスタッフからはあまりでてこない。でも、その店員にとっては「普通のこと」なので、ノートには書かない。
これはもったいない。
別の例もある。「夕方頃、中学生たちが雑貨コーナーに長時間たむろしてて、掃除がなかなか進みませんでしたよ〜」「まあ、しゃーないな」「「はっはっは」」なんて会話があるとする。たまたま次の日棚卸しで、在庫をチェックしてみると化粧品と文房具がいやになるくらい合わない。で、前の日の会話を思い出し、その時間帯の防犯カメラを確認してみると・・・。
こういうこともある。
データベースの限界
組織にとって、知識の共有は重要な問題だ。しかし、ナレッジマネジメントの難しさについて指摘した書籍は多い。一筋縄ではいかない問題なのだ。言葉にしづらい経験もあるし、言葉にしても伝わないものもある。それにわざわざ言葉にしようとしないものもある。
逆に扱いやすい形(たとえばデータベース)にしてしまうと、そこに入らない情報は全て切り落とされてしまう。雑多なメモなんてその代表例だろう。
アイデアの再発見
アイデアというのはとても面白い。過去のアイデアメモを見返したことがあるならば、昔の自分と今の自分で感じ方が随分違うことに気がつくだろう。アイデアの面白さを「再発見」することがあるのだ。
じゃあ、組織の中ではどうだろうか。自分にとっての「ちょっとしたアイデア」が他に人には「アンビリーバボ」なことはないだろうか。あるいは自分にとっての「失敗経験」が他の誰かにとっての「有効なアドバイス」になることは。私がAという意図で考えたアイデアが、ものすごく誤解を受けてBという風に解釈され、しかもそれが新しかったりすることは。
アイデアというのはとても面白い。その有用性は、個人の想像力を遙かにこえている。
コンビニ店長未来像
あなたは秋のビールの棚の展開を考えていたとしよう。過去の売上げの数字はデータベースをみれば簡単に参照できる。Evernoteに保存してあるPDFを見ればOKだ。後は本部の方向性を確認して…
その時、ふと「関連するノート」として、店員の雑記メモ「夕方のお客さんで、焼き鳥を大量に買って帰ったお客さんがビールの6缶パックを欲しがっていた」が浮かび上がってきたとする。あるいは別の店員がスクラップした「これが人気!秋の新作ビール特集」というウェブページもだ。はたまた前任の店長がビール売り場を作ったときのプロジェクトノート「500ml缶をゴールデンラインに置いて、客単価アップにチャレンジ」も浮かんでくる。
後は、アイデアをまとめ、売り場を作るだけだ。
さいごに
Evernoteは、誰にでも簡単に使える。そして自由に、好き勝手に放り込むことができる。細かいことは後から考えよう。とりあえずは記録しておく。そういうスタイルだ。
きっと、今までのシステムでは網の目を抜け落ちてしまったような事柄が、Evernoteという受け皿では記録されやすくなる。
あとは、検索や関連するノートの表示がばっちり決まれば、これまでとは違った形のナレッジマネジメントのスタイルが生まれるかもしれない。いや、そうなって欲しいと私は願っている。
▼こんな一冊も:
Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術 (デジタル仕事術) |
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倉下 忠憲
技術評論社 2012-06-30 |
EVERNOTE「超」知的生産術 |
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倉下忠憲
シーアンドアール研究所 2011-02-26 |
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