7-本の紹介

【書評】ビジネス寓話50選(博報堂ブランドデザイン 編)

ある大学でこんな授業があったという。
「クイズの時間だ」教授はそう言って、大きな壺を取り出し教壇に置いた。

といって始まるお話をご存じだろうか。

Twitterやタンブラーを利用されている方ならば、一度は目にしたことがあるかもしれない。気になる方は「大きな岩 壺」あたりでググってもらうといくらでもコピペが見つかるだろう。

教授が壺に大きな岩を詰め、砂利を詰め、砂を詰め、最後に水を満たす。そして、大きな岩を最初に入れることの重要性を説く。簡単にいうと、こんなお話だ。結構好きな方は多いのではないだろうか。いろいろな示唆に富む話だし、非常にイメージしやすい。

それが寓話の力だ。

ビジネス寓話50選 物語で読み解く、企業と仕事のこれから (アスキー新書)
ビジネス寓話50選 物語で読み解く、企業と仕事のこれから (アスキー新書) 博報堂ブランドデザイン

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そんなビジネスに関する寓話を50集めたのが、本書である。

概要

大辞林によると、寓話とは

【寓話】ぐうわ 教訓や処世訓・風刺などを,動物や他の事柄に託して語る物語。「イソップ物語」など。

という意味らしい。本書では、もう少し広い意味合いで

「創造的な読み解きができ、かつ、頭の中に粘りつく強力なエピソードたち」

と定義されている。そういう話を50選りすぐり、編者による解説を付けてある。

出典は幅広い。インターネットや童話、ビジネス書、小説といった分野のお話が混在している。それらを「はたらく」「売る」「つくる」「動かす」「つながる」という5つのジャンルでまとめてある。

このまとめ方に首をかしげる人も多いかもしれない。付いてある解説に疑問を投げかける人もいるだろう。でも、それが寓話の寓話たるゆえんだ。その話から何をくみ取るのかはその人次第。しかし、くみ取れるだけの何かがそのエピソードにはある、それが寓話の力である。

寓話の力

最近のビジネス書では、よく「フレームワーク」という単語を見かける。便利で使い勝手のよい道具だ。y = x +1 ぐらいにシンプルである。

なぜ、わざわざ寓話という回りくどいものを持ち出すのか。フレームワークで十分じゃないか。そういう風に考える向きもあるだろう。が、話はそう簡単ではないのだ。

第一に、フレームワークは現象をモデル化したもので、コンテキストが存在しない。しかし、全ての現場にはコンテキストがある。この乖離に想像力が及ぶ人は良いのだが、そうでない人にとってはフレームワークは水中の加湿器ぐらいの意味合いしかない。

第二に、寓話は多義的だ。大きな岩の話を読んで、「自分にとっての大きな岩とはなんだろうか」と考える人もいれば、「入れる順番って大切だよな」と思う人もいるだろう。「なんとかして壺を大きくしたい」とSF的な発想をする人もいるかもしれない。どの解釈も間違いではない。寓話はアイデアを刺激するのだ。

最後の一つ、おそらくこれが一番重要なのだろうが、寓話は粘るのだ。記憶に。

チップ・ハース、ダン・ハースの共著『アイデアのちから』には人の記憶に焼きつく要素として、SUCCESの6要素が上げられている。

  • Simple 単純明快である
  • Unexpected 意外性がある
  • Concrete 具体的である
  • Credible 信頼性がある
  • Emotional 感情に訴える
  • Story 物語性

この6つ。ストーリー仕立ての寓話は、この要素をかなり多く満たしている。あえて「覚えよう!」と思わなくても、なぜかしら記憶に残ってしまうのだ。何かメッセージを発信する場合、これがどのくらい強い意味を持つのかは考えるまでもないだろう。

さいごに

私は、本書でも紹介されているドラッカーの「石切り工」の話がいつまでも頭の隅っこで粘っている。あまりにも粘っているので菌が繁殖しているのではないかと心配するぐらいだ。「かもすぞ〜!」とオリゼーの声が響き渡る。

私は物書きなので、石切り工が石を切るように毎日文章を書いている。でも、文章を書くことを通して、いったい何をしているのかを常に__あるいは定期的に__意識しておくことは必要だろう。その必要性を「石切り工」の話は思い出させてくれる。

本書は、こういう寓話を読むのが大好きな人はまず楽しめる一冊だ。また、ビジネス理論に浸かりっきりで、フレームワークで溢れかえってしまっている人が、「物語」の力を確認する上でも有用だろう。

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