元厚生事務次官宅襲撃事件の犯人と推測される人物が逮捕されてメディアは一応の落ち着きを見せている。事件が起こった当初は、これは容易な事では文章には出来ないだろう、という思いもあり今まで静観を決め込んでニュース記事をチェックするにとどめていた。小泉容疑者が自首し、そして犯行を認め、その動機に当たる部分の自供がメディアで露出するにあたってどうにも不可解なとも呼べる疑問が私の中に立ち上がってきた。元厚生次官宅・連続襲撃:出頭の男が供述 殺人容疑で再逮捕へ 事件当日、車借りる(毎日新聞) 捜査本部によると、小泉容疑者は、取り調べに対し、「以前飼っていたペットを保健所に殺され腹が立った」「大学に行き、高級官僚が悪だと分かった」などと話しているという。 小泉容疑者が小学生のころ、親が犬を保健所に連れていってもらったなどの情報があるが、30年以上前の小学校や大学時代の出来事が、元次官襲撃に発展する経緯は不可解なため、さらに、詳しい動機を追及する。小泉容疑者が語る動機とその犯行までのギャップがあまりにも大きすぎる。保健所に恨みを保つならば、保健所の所員などにその犯行の意志が向けられてもよさそうなものだが、実際そうはなっていない。確かにこの社会で起こる問題の大きな部分は上の構造に影響されているわけだから、末端に対応しても意味がない、ということは理屈としては正しいのだが、犬の仇討ちとしてわざわざ、元事務次官の住所まで調べて犯行を行うというのはあまりにも飛躍しすぎではないだろうか。そういう頭の性質の人であった、というくくり方をすればそれまでなのだがどうにもそういう解釈は腑に落ちにくい。年金に深く関わった元事務次官が狙われたということで、政治テロが動機ではないかということが強く囁かれていたが小泉容疑者がそれを否定している以上、表面的には年金に対する不満として政治テロという見方を取る余地は著しく狭くなってしまった。元次官宅襲撃:舛添厚労相「理解に苦しむ」(毎日新聞)舛添要一厚生労働相は25日の閣議後会見で、元厚生事務次官宅の連続襲撃を認めている小泉毅容疑者について「犬の件でなぜ短絡的に元年金担当者を襲撃したのか理解に苦しむ。テロ行為撲滅の声を社会全体で上げないといけない」と述べた。元次官宅襲撃:麻生首相「暴力には断固屈しない」(毎日新聞)麻生太郎首相は23日夜(日本時間24日朝)の記者会見で、元厚生事務次官宅連続襲撃事件について「意見の違いを殺人で解決しようという行為は断じて許すことができない。真相の究明を急がせるとともに、暴力には断固屈しないことを改めて表明する」と述べた。舛添大臣も何か反応に困っている部分があるし、麻生総理の力強い表明もどうもかみ合っていない感じがしてしまう。暴力には断固屈しないことを改めて表明しても宛先のない手紙の様な場当たりの悪い感じすらしてくる。確かに行政に対しての文句が動機であれば政治テロと言えなくもないが、国民の関心を強く引きつける者でない以上、はやりむなしさは漂ってくる。が、本当にこの事件は本質的に議論する必要のない、ちょっと頭の中身が偏った人の事件であると断定してしまって良いのだろうか。元次官宅襲撃:標的元官僚は5人…借金数百万円(毎日新聞)また、小泉容疑者の資産状況を調べていた捜査本部は、小泉容疑者が数百万円に上る借金を抱えていたことを確認した。出頭時、財布に約8万8000円を所持していたが、ローンに使えるカードを多数持っていた。動機にかかわる部分がないか、借入先などの確認を進めている。もちろん自己破産すれば対処できる程度の金額であるが、それでも頭にとどめておく必要があるだろう。小泉容疑者の収入源は「謎」、経済紙読み株取引か(読売新聞) 元厚生次官宅襲撃事件で、銃刀法違反容疑で逮捕された小泉毅容疑者(46)(さいたま市北区)はこの数年、住民税がゼロの年もあり、国民年金保険料も未納だったことが捜査関係者の話でわかった。 しかし、アパートの家賃は10年間滞納がなく、新聞を購読するなど生活費に窮していた様子はうかがえない。生活実態の不可解さがいっそう浮き彫りになっている。単に借金だけで生活していたのだろうか。しかし担保が無ければ借りられるお金にも限度がある。このあたりも引っかかってくる。元次官宅襲撃:小泉容疑者、父への手紙も「犬の仇討ち」(毎日新聞)元厚生事務次官宅連続襲撃事件で、小泉毅容疑者が出頭前、山口県柳井市の実家に送った手紙に「74年4月5日、飼い犬のチロを保健所に殺された。その仇(あだ)をとった」などと書いていたことが、警視庁野方署捜査本部関係者の話で分かった。小泉容疑者の父(77)によると、小泉容疑者が小学生のころ、野良犬を餌付けしてかわいがっていたが、人にほえるので父が保健所に依頼して引き取ってもらったことがあったという。ここでもあくまで犬の仇討ちがアピールされている。少し異常なくらいだ。それは以上だからそういった行為をしているというよりは、何か作為的なものを感じぜずにはいられない。だいたい犬を本当に大切にしていたならば、まず保健所に連れて行った父親に憎しみを向けるのではないだろうか。それとも自分がこうやって逮捕されること自体がその復讐の一部ということなのだろうか。元次官宅襲撃:凶器は柳刃包丁、1カ月前に購入(毎日新聞)犯行に関する準備は周到に行いながら、その動機は突飛な感じというのが一番の違和感と言えるだろう。これ以降はトンデモ話である。とりあえず、単純な単独犯ではないのでは、という気がしてくる。もちろん犯行を直接手伝うような共犯者がいる、ということではなく、動機の突飛な飛躍に一躍買っている人間がいるのではないだろうか。それとも後ろにある動機を隠して、表面的な動機を考えついた人間がいるのでは、という気もする。小泉容疑者もそうとは知らないうちに論理の飛躍が行われ、官僚経験者が悪い、彼らを殺せ、というような隠れてたメッセージが小泉容疑者の中に入り込んでいたのかも知れない。そういう状況でない限り、事件とその動機とがあまりにもかけ離れすぎていてどうにも落ち着かない気分になってしまう。今後もし同じような事件が起こるとしたら、やはりその背後に何かある、と考えるのが妥当だろうと思う。単純に模倣犯ということもあり得るが、そう考えるには状況はあまりにもいびつな形をしていると思う。