0-知的生産の技術

読書好きが、書店の本棚を眺めて憂鬱になるとき

最後に本屋の棚でドキドキしたのはいつだろうか。

駅前の書店を歩き回りながら、そんなことを考えた。つまり、その書店の棚にほとんど何も魅力を感じなかったのだ。

昔は違った、などと長老めいたことを言いたいわけではない。昔の書店だってあまり代わり映えはなかったのだろうと思う。ただ、私自身の読書経験が浅かったので、単に本が並んでいるだけで魅力的に見えたのに違いない。

私も年を重ね、時代は変化した。

しかし、書店はどうなのだろうか。

一部の書店を除いて、新刊コーナーに平積みされている本はほとんど同じだ。こっちいっても、あっちいっても、同じ。書店を回るのが好きな人間としたら、無限のラビリンスに閉じ込められたような気分になる。もし、コモディティーというのを直接目で確認したければ、新刊コーナーにいけばいい。

では、新刊コーナー以外はどうだろうか。

これはもう、「本を置いてあるだけ」だ。

かなり厳しい言い方だとは思う。あるいは、これを厳しい言い方だと感じない人もいるかもしれない。簡単に言えば、「本を売りたい」という気持ちがみじんも伝わってこないのだ。当然、物欲が刺激されることもない。

昔は、そういうやり方で書店というビジネスが成り立っていたのかもしれない。本を置いておけば、売れる。それは読者と本との接点が書店しか無かったからだ。しかし、それはとっくに過ぎ去った昔の風景である。

Welcome to Kindle Store!

「電子書籍元年」がいつなのか私は知らないし、定義するつもりもない。

でも、あなたが気になる本の名前を知って(あるいは誰かのブログで読んで)、Googleさんにお伺いを立てるとする。かなりの確率でAmazonのページが上位に表示されるだろう。

そのページで概要とレビューを確認し、ボタンをワンクリックすれば自分の端末にダウンロードされる時代がやってこようとしているのだ。kindleなんて持ってないし、買うつもりもない?あなたの手にあるそのスマートフォンが「自分の端末」なのだ。

本の情報を知って、物欲がホットゲージに入っているその時に、本がすぐに手に入ってしまう環境が整いつつあるのだ。

私のように読書好きの人間が、書店の棚を見て物欲を刺激されないとしたら、普通の人ははたして本を買いたくなるだろうか。考え始めると気分が憂鬱になる。

もちろん、事情はわかる。新刊は山のように入ってくるし、人の数も足りないのだろう。スペースはいつだって不足気味だ。しかし、本が好きで書店に勤めている人間の割合はいったいどのぐらいなのだろうかとふと気になることがある。もちろん、現場をせめても仕方ない部分はある。でも、現場が動くことで変わるものもあるかもしれない。なんといっても、私は理想主義者なのだ。

たった1枚のPOP。それが本読みの心を動かすことがある。たった数冊の配置。それが未知の本とのキューピットになることもある。もし、そんな体験をしたら、私はその書店にもう一度足を運ぶだろう。なんといっても、私は理想主義者なのだ。

もし、あなたがビジネス書の担当で、『ワンクリック』という本を売る場合、どのように展開するだろうか。一体どんな本を一緒に陳列するだろうか。私は、こういうことを考えるとわりにワクワクする。

『スティーブ・ジョブズ』『MAKERS』『ザッポス伝説』『楽天の研究』『メソッド革命』『ビジョナリーカンパニー2』『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』・・・

この売り場で、「売られているもの」は一体なんだろうか。直接的には本を売っている。それは間違いない。メソッドという会社が、洗剤を売っているというのと同じ意味でまったく正しい。

でも、実際はそうじゃない。

ただひたすらに「本が置かれた」だけの棚をみると、私はいつもリリース情報しか流さない企業のTwitterアカウントを思い出す。そんなものは、別に見たくないのだ。

私たちが、つまり本を買う人々が「わざわざ書店に足を運ぶ意味」をきちんと考えないと、書店という形態はどんどん、どうしようもない方向に流れていくと思う。

でもそれは、現代におけるしがない物書きにも言えることなんだろう、きっと。

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