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【書評】リアル30’s (毎日新聞「リアル30’s」取材班)

毎日新聞で連載されていた「リアル30’s」という連載をまとめた本。

リアル30’s
リアル30's 毎日新聞リアル30’s取材班

毎日新聞社 2012-10-31
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この連載はウェブ誌面でも掲載されており、私はそれを読んでいた。一応全ての記事はクリップしてあるが、改めて読み返す意味と、この連載の意義に一票を投じるために本書を購入してみた。

連載中もいろいろ考えは浮かんでいたのだが、とても140字(×n)で書けるようなものではなかったので、このブログで「二つの30′sリアル」という記事を書いた。それでも全てを書けた感じはしない。

改めて本書を手に取り、記事とそれに関するツイートを並べながら読み返したことで、その書けてなさ加減はより一層強まった。

リアル30’sについて

本書のタイトルは「リアル30’s」であり、そこに「”生きづらさ”を理解するために」という副題が付いている。

この30’sはどのような人たちをさすのか。本書の「はじめに」では次のように説明されている。

78(昭和53)年〜82(昭和57)年ごろに生まれ、バブル経済が崩壊した91年には小学校高学年から中学生を迎えていた。90年代後半になって大学に入るか就職などの道を選び、大学進学者は00〜04年ごろ社会に出た。ちょうど今30歳~34歳の人たちである。

私はぴたりと当てはまる。おそらくこのブログをお読みの方も当てはまる方は多いだろう。

この30’s、一見すると「アラサー」と何が違うの?という疑問が浮かんできそうになる。30歳前後の人を示すアラウンド・サーティーの略語であるアラサーと30’sは重なる部分が多い。だったらアラサーでいいじゃん、と言いたくなってくる。

しかし、あえて「30’s」という新しい言葉が設定されているのにはもちろん意図があるのだろう。これまで語られてきた「アラサー像」とは違うものがここでは示されますよ、という意志をこの言葉からは感じる。

また、わざわざ「リアル」を頭に付けている点からは、挑戦的な雰囲気すら漂う。「リアル」なんて、明らかに反発が飛んでくるのが目に見えている言葉である。それでも、それが必要と判断されたのだろう。私はその判断は大変良かったと思う。

概要

本書は、その30’sにあたる人々がどのように「生きているのか」が紹介されている。記者がインタビューし、それを記事に起こすという形式だ。

この連載は決して「正解を探そう」という試みではない。良し悪しが語られているわけでもないし、「生き方ランキング」が発表されるわけでもないし、「この生き方は偏差値65」と識者的解説が入るわけでもない。ただ、一人一人の生き方が並べられているだけだ。

困難な状況に追い込まれている人もいるし、自ら希望になろうとする人もいる。その生き方は多様だ。

共通している点と言えば、「この社会に対する違和感」を持っていることだろう。この社会は何か違うんじゃないか、何かが間違っているんじゃないだろうか。そういう思いが根っことしてあり、それに対する手段や行動は違う。そんな印象を受けた。

『働くということ』との対比

本書を読んでいて、日本経済新聞社から発売されている『働くということ』が想起された。この本でもさまざまな人の「働きかた」「仕事との関わり合いについて」「人生と仕事について」が紹介されている。形式は似ていると言ってよいだろう。

が、いくつかの違いもある。

その一つは年齢層だ。

『働くということ』はさまざま年齢層の生き方が紹介されていたのに対し、本書は30’sに限定されている。

年齢層が違う生き方の紹介は、「いろいろな年代で、それぞれ苦労があるのだな」という視点を持てる。これはこれで長所だろう。対して、限定された年齢層では「同じ年代でも、それぞれ苦労があるのだな」と知ることができる。これもまた長所だろう。

違いの二つ目は、より根源的な違いだ。

『働くということ』では、物が豊かになった社会&構造的不況がやって来た社会の中で、人は「働くということ」あるいは「仕事」とどのように向き合えばよいのか、が模索されていた。2004年からそういう価値観の模索が必要とされていたのだろう。

が、本書からは「価値観の模索」よりももっと切実なもの、言ってみれば「どうやってサバイブするか」という視点をより強く感じる。「よりよく生きたい」というよりも「なんとか生きのびたい」という声にならない声の方が大きい気がした。2012年というのはそういう時代なのだろう。

ここで副題の「”生きづらさ”を理解するために」が響いてくる。

「生きづらさ」

本書で使われる「生きづらさ」は一つのキーワードであるが、そこに含まれているものは多様で分解しにくい。トータル的な感覚としての「生きづらさ」、あるいは「生きづらさ」としか呼びようのないものがそう呼ばれている。

本書の「はじめに」では次のように書かれている。

(前略)社会に出る時期に就職氷河期などの厳しい現実に直面した。厳しさはもちろん現在も続き、そして彼らは仕事や恋愛、結婚、出産、育児など人生の大事な選択を迫られる年齢に達している。それは、不透明な将来を眼前にした、先行世代とは比べようもないほど難しい選択であるといえる。私たちはその難しさを「生きづらさ」というキーワードでとらえようと考えた。

この試みがはたしてうまくいったのかどうか、私にはわからない。少なくとも本書を読み終えて、何かすっきりした気持にはなれなかった。心の中にはモヤモヤが溢れかえり、こうして長い書評記事を書いている。

私たちが(あるいはあなたが)抱えている「生きづらさ」とはどのようなものだろうか。それは世代的な問題なのか、「人それぞれ」な問題なのか、それとも誰しもが抱える問題なのだろうか。少なくとも、それが本書では明確には切り分けられていないし、私も切り分けられるとは思えない。

ただ、本書に登場する人々が抱える「生きづらさ」には二つの側面があるように思える。

一つ目

一つは、「”普通”に生きることの難しさ」だ。

会社に勤め、結婚し、子どもを産んで育てる。そういうことが簡単ではなくなっている。若者の非正規雇用のデータをあげるまでもないだろう。明らかに雇用環境は厳しくなっている。それに社会を維持していくための負担も大きい。会社では一人分の仕事量は増え、残業なしでは仕事が成立しないような企業もある。でもって、給料はあがらない。

なのに、昔ながらのライフスタイルが”普通”だと言われる。自分より高い年齢層からだけではない。おそらく同世代でもそれが”普通”と思っている人は多い。普通というのは、一般的に「(多くの人が)できて当たり前のこと」というニュアンスが込められているが、まったくもって普通ではなくなっているのが現状だ。
※補足するまでもないが、上のようなライフスタイルを”普通”にできるようにしようという施策は、この国の発展において重要である。

二つ目

もう一つは、「”普通”から外れて生きていくことの難しさ」だ。

一般的に、一度フリーターや派遣になったら正社員ルートに復帰するのは難しいと言われている。絶対に無理というわけではないだろうが、簡単ではないだろう。それは別にフリーターや派遣だけに限ったことではない。今勤めている職場から離職勧告を受けてしまったら、次の仕事をなかなか見つけられない人も少なからずいるだろう。ようは新卒か即戦力以外は採用されにくい雇用環境がある、という話だ。

求人情報をみると、「実務経験2年」などが必要なものが多い。つまり、一つの業界で人材をグルグル回しているだけなのだ。だから「よそ者」が入り込む余地はとても小さい。

そして、「正社員」とそれ以外の格差は驚くほど大きい。生まれてこの方「正社員」しか経験がない人にはきっと想像もつかないだろうが、ちょっと口がふさがらないの差がそこにはある。だから、今の大学生が岩にかじりつくぐらいの気持ちで「正社員」ルートを目指す気持ちはよくわかる。

「だって、ほかにどうすりゃいいんですか。生きていくためには必要なんですよ」

こういう声が聞こえてきそうだ。

幸い日本には、雇用保険やハローワークがあるし、生活保護制度も存在している。他の国に比べればまだマシと言えるかもしれない。それでも雇用保険が適用されない労働者もたくさんいるし、最近では生活保護への風当たりも冷たい。

それに周囲の理解や、自分の内側にある価値観の問題もある。”普通”から外れてしまうことが、何かいけないことのような気がしてくるのかもしれない。

本書では次のように書かれている。

だが社会は「働けばすべてが得られる」以外のモデルを示せていないから、30’sの葛藤はいっそう深まる。

現代では「働けばすべてが得られるかもしれない」である。そして、そもそもその働き口にたどり着くことすら難しい状況でもある。それに「働けば全てを失う」可能性だってある。仕事で受けた影響で自殺してしまう人の存在は決して忘却してはいけないし、それよりも僅かながらに程度が低い”被害”は目に見えない形でもっと多く広がっている。

「働けばすべてが得られる」モデルのルートに乗れている人は、その道を邁進すればいい。それは誰に否定されるものではない。

でも、それ以外のルートも必要だ。

また、そのルートを示すだけではなく、そこに至る道のり、あるいはそれぞれのルートの存在を認め合う価値観、そういうものも必要だろう。しかし、現状はそれがない、あるいはとても少ない。

こういう二つの、あるいは二重の「生きづらさ」が存在しているのではないだろうか。

さいごに

本書を読みながら、何度も何度も引っかかったのは「こんなのはリアルではない」という読者の声だ。「(私が知っている)現実とは違う」という声に共感の響きはまったくない。

では、ここに登場している人たちはフィクションの産物なのだろうか。もちろん、そんなことはない。では、レアケースだから考慮に値する必要は無いのだろうか。もちろん、そんなこともない。

自分の住んでいる地域に米軍基地がないからと言って、その存在について考えなくてよいわけではないだろう。生き方だって似たようなものだ。

おそらく「若者」が団結し、政治的な声を上げても、きっと一つにはまとまらないだろう。それぞれのリアルが乖離しすぎている。

他者の、つまり同世代の別の生き方をしている人の「生きづらさ」が理解されないとしたら、それぞれが主張する声もまた変わってしまう。「若者」VS「高齢者」という単純な構図だけの話ではないのだ。

一人一人が違った「リアル」を抱えていて、それぞれが断絶している中で共感の不足が起きているとしたら、この連載はそれをつなげる効果が多少なりともはあったといえるだろう。

もちろん、それで全てが解決するわけではない。ただ、「自分だけじゃない」「一人じゃない」「こういうのもアリかもしれない」という感覚は、何かしらの変化をうむことにつながっていくのかもしれない。

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