【SHF】本棚を片付ける前に準備すること(後編)

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さて、どうしたものか。

助手くんはノートを見つめながら、本の動きを想像してみた。置かれた本、入ってくる本、出ていく本。本は移動する。いや、本は流れている。当然、本の配置はその流れを邪魔するようなものであってはならない。助手くんはノートに書き付ける。「1.本の流れに沿った配置にする」。続けて疑問も書き付ける。「流れにはどのようなものがあるのか?」

まず、新しく購入された本だ。それぞれの本の共通点は「新しい」というだけ。すでに書庫に置かれている本に似ている本があるかもしれないし、ないかもしれない。そうした本が日々書庫に流入してくる。参照される頻度はとても高いが、全てが参照されるというわけでもない。
あとは、もともと置かれている本。これは参照される頻度は低いが、まったく使われないというわけではない。数は多いけれども、使われた研究課題で分類することができるだろう。
「ふむ」
助手くんは腕を組んだ。研究課題ごとに本を配置しておけば、楽に探せるんじゃないだろうか。本棚ごとに番号を割り当て、そこに第一研究課題、第二研究課題と割り振っていく。特に手助けがなくても、ルリさんが自分で本を探せるようになるにちがいない。

さっそく助手くんはノートに線を引き、仮想的な本棚群をその上に構築した。まるで定規で測ったかのように全ての四角形が均一な形をしている。「番号は、研究課題の時系列でいいかな」。その方が思い出しやすそうだ。細かい字で、仮想的な本棚に課題名を割り振っていく。魔術で複製されたかのように全ての文字が同じ大きさだ。
「よし、できた」
ノートには完璧な図面が出来上がっていた。助手くんは、さっそくそれを持って書庫に向かう。

他に誰もいない朝早い風景。魔術的なランプが灯された書庫。腕まくりした助手くん。
勢い込んで一冊目の本の本紙を作り終えた彼は、はたと気がついた。本を置く場所がない。
「そりゃそうですね」
助手君はぼりぼりと頭をかく。
仮想的な本棚は全ての場所が空いていたが、現実の本棚には本が置かれている。「第一研究課題」に置くべき本があってもすでにその部分には詰める隙間無く本が置かれているのだ。
助手くんは手近な椅子を引き、再びノートを広げる。そして、そこに書かれた本棚に現実味を与える。本で埋まっている本棚は黒く、少し空いている本棚は薄く黒めに、そして空白の本棚は空白のままに色づけする。どう楽観的に計算しても空白の本棚だけでは、全ての研究課題の番号を振ることはできない。薄黒い、あるいは黒い本棚を使わなければいけない。いや、そもそも均等に割り振ったものの、全ての研究課題が同じ幅を使うとは限らない。であれば、先に全ての本がどの研究課題にあたるのか調べる必要があるのだろうか。
いやいや、まてまて。
本紙を作るのには時間がかかる。とすれば、作っているうちに新しい本が入ってきて、新しい研究課題が生まれるかもしれない。だとすれば、永遠に本棚の割り振りなど決めることができないのではないか。
それに、一つの本が一つの研究課題だけに対応するとは限らない。その場合、本の置き場所はどのように決めればいいのだろうか。それに、あとから研究課題の本が増えてしまったら、必要な棚の幅が変わることもありえる。そうすると、本の配置を全体的に動かす必要が出てくる。その作業を思い浮かべて助手くんは背筋が寒くなった。
「2.研究課題ごとの配置は不可」。そう書き付けたところで、小鳥のさえずりが助手君くんの耳に聞こえてきた。

「あ、助手くん、おはようなのです」
「おはようございます、ルリさん。全然早くないですけどね」
「助手くん!若い女性には、睡眠はとってもとっても大切なんです」
とってもが一回多かったか。
「なんです?」
いえ、別に。助手くんは苦笑混じりで返す。机に広げていた本紙を見つけた彼女は「新しい本ですか?」と目を輝かせた。
「これは前から書庫に置いてあった本の分ですよ。ほら、見覚えある書名でしょ」
助手くんがルリに一枚の本紙を手渡す。
「この下の方にある番号はなんです?」
「これは、本の”住所”ですよ」
「住所?」
「ええ」
助手くんは得意になって説明を始める。なんといっても2時間かかって考え出した仕組みだ。
「1-1-3-5とありますよね。これは一列目の一番最初の本棚の上から3段目の左から5番目、という意味です。その場所に行けば、この本が置いてあります。簡単でしょ?これならドジっ子のルリさんでもすぐに本が見つけられますよ」
「なっ、ドジっ子とは失礼な」
「これはどうも。ともかく、全ての本にこうして”住所”を割り当てておけば本を探すのはすごく楽になります。本を研究課題ごとに分類して並べることはできませんが、その代わり本紙をこの箱に入れておきましょう」
そういって助手くんは即席の分類箱を指さした。
「研究課題ごとに枠を設けてあるので、ルリさんが適切だと思う場所に置いておいてください」
「もし、一冊の本が複数の課題にまたがる場合はどうするのかな?」
「同じ本紙をもう一枚作ってください」
「え〜、そんなのメンドーだよ」
「じゃあ、僕がやりますよ。どうせそれほど数は多くないでしょう。本棚の本を移動させることに比べれば……」
「何です?」
「いえ、こちらの話です。ともかく、本棚の位置は一意に定まるので、本の場所での混乱はなくなるでしょう。あと、辞書の類は専用の場所を設けておきました。これは増減することがほとんどないので、場所を気にする必要は無いでしょう。机に近い棚にまとめてあります。あと、新しく入ってきた本も最初は専用の棚に置いておいて、しばらくしてから本・本棚の方に移動させます」
うなずくルリ。さすがに奇才だけあって説明されるでもなく理由を理解しているのだろう。しかし、一度回り出した説明の歯車は簡単には止まらない。
「たいていの本はそのまま使われますけれども、必要ないと判断される本もあるでしょうから、とりあえず様子見の期間を設けておくわけです。捨てる本の本紙を作るのは無駄ですからね。少しでも作業が減るのは僕としてもありがたいところです。あと、このやり方だと、順番を気にせず本・本棚に移動できるので、本が入ってきた順番に並べられます。すでに存在している本はもはやどうしようもないですが、これから入ってくる本は”住所”の数字が大きいほど新しく入った本、という風になります。たぶん、これも本を探しやすくなるじゃないでしょうか」
「なるほど。さすが助手くんなのです。私が見込んだ変態的几帳面さは伊達ではないのです」
うんうん、と頷くルリ。たぶん、自分が面倒なことを一切やらなくて良いのが気に入っているのだろう。
「ともあれ、この仕組みの完成はまだまだ先ですよ。とりあえず新しく入ってきた本の処理を優先して、残りは少しずつ手を付けていきますから」
「もちろん、書庫管理は助手くんのお仕事なので、そこはすべてまるっとお任せするのです」
そう言って彼女は作り終えたばかりの本紙を手に取り、分類箱に入れる。本棚が二つ生まれた瞬間だ。
ルリが椅子に座り、研究の世界に没頭するのを眺めてから、助手くんは腕まくりを元に戻した。

(終わり)



※当コンテンツは以下の小説のスピンオフです。

【SHF】本を片付ける最中に本を開いてはいけない(前編)
【SHF】本を片付ける最中に本を開いてはいけない(後編)
(なんかカラフルな生活)

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Rashita
物書きをやっております。実用書から小説までなんでもござれのハイブリッド物書きです。 ライフハックや仕事術、知的生産などに興味があります。

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