7-本の紹介

【書評】なぜ、勉強しても出世できないのか?(佐藤留美)

率直に言って、本書のタイトルをみて私はこう思った。

「なぜ、勉強したら出世できると思うのだろうか?」

どこかのルールブックに「勉強したら出世できます」とでも書いてあったのだろうか。少なくとも私はそれを見かけたことはない。勉強というのは仕事に必要だからするものであって、出世のためにするものではないだろう。

いや、そもそもとして「勉強」とは何を差すのだろうか。あるいは私たちは出世を目指す必要はあるのだろうか。そういう疑問も湧き上がってくる。

なぜ、勉強しても出世できないのか? いま求められる「脱スキル」の仕事術 (ソフトバンク新書)
なぜ、勉強しても出世できないのか? いま求められる「脱スキル」の仕事術 (ソフトバンク新書) 佐藤 留美

ソフトバンククリエイティブ 2012-10-18
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概要

本書は、これまでビジネス雑誌でスキルアップ系の記事を書いてきた著者による、ある種の振り返り、もしくは総括と言える。むろん、タイトルからわかるように「バリバリ勉強しましょう」という内容ではない。むしろ、その道進んじゃって大丈夫ですか?というテイストだ。

2000年前後から、それまででは考えられない大企業の倒産が日本でも発生し、「会社に頼るのではなく、自分自身の足で立とう」というブームが起き始める。というか、その流れは今にでも続いているし、私自身「会社だけに頼る」のは少々危ういと言うのにやぶさかではない。

ただ、その流れがビジネスと結び付いて、「スキルアップすれば、未来は明るい」というあまり根拠のない考え__信仰__を生み出してきたことは否めないだろう。著者はそうした流れを「スキルアップ教」と呼んでいる。もちろん、この言葉遣いには否定的なニュアンスが込められていることは言うまでもないだろう。

これまでの総括

本書は大きく5つの章立てで構成されている。

第1章 日本を覆った「スキルアップ教」
第2章 なぜ、勉強しても出世できないのか?
第3章 スキルアップに振り回される人々
第4章 最も「わりに合わない」勉強はこれだ 
第5章 「脱スキル」で幸せな職業人生を作る28の仕事術

第1章では、日本の社会情勢と雇用環境の変化から、どのように「スキルアップ教」が生まれ、浸透してきたのかが明らかにされていく。特定のビジネス書著者に対する攻撃の一歩手前のような表現も見られるが、大きな流れは外していないだろう。

タイトルにもなっている第2章では、なぜスキルアップを目指しても自分の評価に返ってこないのかが考察されている。この章の内容は、おそらく次の一文で集約できる。

要は、本当にビジネスで役に立つ実務能力は、会社の中、あるいは仕事を通してしか学ぶことはできないのだ。

身も蓋もないと言ってしまえばそれまでだが、本質は外していないだろう。ただ、仕事を進める上で「実務能力」だけが問題になるのではない、ということは一応補足しておきたい。仕事を進める上で役立つ「周辺的な知識・知見」というのもあり、それはそれでなかなか役に立つ。

ちなみにこの場合「実務能力」に対比されるのは「頭に入れただけの知識」ということになるのだろう。まあ、それだけで仕事ができるなら誰も苦労などしない。

第3章は、「スキルアップ」を目指したがショボーンな結果になってしまった人の話。第4章ではおまけ的に、「こういうのは目指さない方が良いよ」というスキル群が紹介されている。この辺はざっと読めば充分だろう。

その打開策は?

さて、問題は第5章だ。

「スキルアップ」がダメだとしたら、一体どうすりゃいんですか?という疑問に対する著者なりの答えが提示されている。28の仕事術と書かれてあるが、これを果たして「仕事術」と呼んでいいのかどうか私にはわからない。

適当に素数の番号をピックアップしてみよう。

仕事術2 仕事を選ばない
仕事術3 勉強に逃げない
仕事術5 今自分がいる現場で、物事を考える
仕事術7 小技に逃げない
仕事術11 スキルと実務能力の違いを理解する
仕事術13 横文字や流行のビジネス用語を使わない

術というよりも、心構え的な感じがしないではない。まあ、間違ったことは書いてないように思う。

ざくっとまとめると、「自分が求められている仕事は何かを考え、しっかりと実行し、実務経験を通して自分にできることを増やしていく」というぐらいになるだろうか。

これまた身も蓋もないフレーズになってしまった。ただ、確かにこういう基本は__そこが働く人のことをまったく考慮しないブラック企業でないかぎりは__大切である。

あと、本書ではビジネス書が揶揄の対象となっているが、その他のジャンルと同じように「良いビジネス書」と「そうでないビジネス書」があることは、一応書いておきたい。

さいごに

やはり、現在の課題は「スキルアップがダメだとしたら、どうしたらいいんですか?」という疑問に答えることだろう。

一つだけ言っておくが、別にスキルアップが根本的にダメなわけではない。どのような形の勉強であるにせよ、自分のスキルを向上させていくことは良いことであるし、また必要なことでもある。

ただ、今後変化が多く、不安定な時代がやってくるとすれば__もう来ているかもしれないが__、「このスキルさえ持っていれば安泰」と呼べるようなものは見出せなくなるだろう。必要なのは変化に対応する力だ。

それは、次の時代を見据えて自分から変化を起こすことなのかもしれないし、新しい技術を次々に吸収していくことなのかもしれないし、異色の分野の勉強をこなし新しい技術を生み出すことなのかもしれないし、少々の変化では揺るがない土台を作ることなのかもしれないし、変化が少なそうなところへ待避することなのかもしれない。

何が正解なのかはわからないが、「変化なんてやってこないんですよ。そんなの幻想ですよ」と目を瞑ってしまうことだけは不正解と言えるだろう。

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