7-本の紹介

【書評】個を動かす(池田信太朗)

「まあ、二番のままでいいよ。一番は強敵すぎるしね。現状維持、現状維持」

と、上司に言われたらどんな気持ちがするだろうか。

全力で仕事に当たろうとするだろうか。あるいはアイデアを振り絞るだろうか。

人の心はそれほど強靱ではない。いや、むしろ従順と言ってよいだろう。そんな環境に置かれたら、全力を出して仕事をするのがバカらしく感じるはずだ。ましてや、それが企業文化として根付いていれば、全ての仕事が惰性で動いていくことになる。

そうして硬直化し、現場から活気が失われ、イノベーションとは無縁になり、徐々に顧客から見放されていく企業は多い。ユニクロの会長ならば「大企業病」と呼ぶだろう。

その大病を患ってしまった一つの企業__ローソンを大きく刷新した社長の姿勢とその手腕が本書では明らかにされている。

個を動かす 新浪剛史、ローソン作り直しの10年
個を動かす  新浪剛史、ローソン作り直しの10年 池田信太朗

日経BP社 2012-12-13
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※献本ありがとうございます。

二つの主題

本書は大きく二つの主題を追いかけている。

一つは、企業文化がどのように変わっていくのか、という点。「変えていく」と主体的に表現したい所だが、実際は「変えていく」と「変わっていく」が混ざり合った状態で進行することが本書を見ればわかる。企業文化、というのはそういうものである。

二つ目の主題は、「新浪社長とはいなる人物なのか」である。メディアでも取り上げられることの多い新浪社長なので、興味を持っている人も少なからずいるだろう。そのメディアで示される像は、はたしてどれほど「本人」に近いのか。この視点も面白い。本書第10章では、新浪社長の半生が語られ、その本人像に迫っている。

私自身は、「経営者がいかに改革を成し遂げていったのか」に興味がある。一度でも組織に属したことのある人間ならば、企業文化が持つ力の強さを誰しも体験しているだろう。Methodという洗剤会社を紹介した『メソッド革命』という本でも、別の視点から企業のカルチャーが持つパワーが紹介されている。

必要なビジョンを明らかにするのは、優秀な経営者であれば難しくない。しかし、それを全ての社員にまで浸透させて、行動や思考を変えさせるのは遙かに困難な仕事である。古い企業文化という水がいっぱいに入った壺には、新しい水はなかなか注ぎ込めないのだ。

しかし、その両方が達成できなければ、改革は進まない。

組織の再生

新浪社長が行ったのは、再生であり新生である。

再生は「ローソン」という企業の生まれ変わりだ。社長就任から店舗閉鎖などの大なたを振るい、それと共に組織の形を改め、眠っていた個人の力が発揮されやすいように動いている。

特筆すべき点はいくつもあるが、本部組織の機能を「分権化」したのは、勇気ある決断であると共に、非常に効果的な施策であったと思う。日本の消費はもはや「日本」という大ざっぱな括りで捉えられるものではなくなっているのだ。単に支社を作るだけではなく、そこに権限を譲り渡すことによって、ロケーションに見合った動きが迅速に取られるようになる。

ともかく、組織として滞っていたものをほぐし、最適な形に再配置することで、ローソンという組織は再生されようとしている。

新しく生まれるもの

では、新生とは何か。何が新しく生まれようとしてきているのか。

それは「コンビニ」だ。

決して極端なことではなく、日本の「コンビニ」の定義はセブンイレブンが作ってきた。というか、セブンイレブンの足跡が「コンビニ」の定義になってきたのだ。業界第三位のファミリーマートは、そのコンビニ像をベースに付加価値を加えようとしている。それも一つの戦略だ。

では、業界第二位のローソンはどうか。ローソンの最近の動きを見ると、おそらくこう言えるだろう__「新しいコンビニ」を作り出そうとしている__と。

つまり、既存のコンビニの定義に収まらない新しい小売業の形を生みだそうとしているということだ。資金力や先行者利益を考えれば、セブンの後追いをしている限り絶対に勝てない勝負に挑むことになる。ずっとセブンの背中を見つめながら走り続けるわけだ。それはあまり心浮き立つ「現実」ではない。

しかし、視点を変えてみれば、この「現実」も姿を変え始める。お客様を見つめ、何が提供できるのかを模索し、どうすれば喜んでもらえ、自分たちの商品を買ってもらえるのかを考える。するとどうだろう、セブンの姿は視界から消える。別にいなくなったわけではない。ただ、自分たちの向いている方向が変わっただけだ、そして、それと共に商売の喜びの根本はそこにあることに気がつくだろう。

「別に新しいコンビニを作ったって良い」というある種の開き直りが最近のローソンの施策からは感じられる。プレイするゲームが変わったのだ。だとしたら、そこには様々なアイデアが生まれる余地がある。そして、俊敏で柔軟な行動力も必要になってくる。

企業文化の改革だ。

もちろん一朝一夕でその文化が生まれることはない。本書が明らかにするローソン及び新浪社長の10年の歩みを見てもそれは明らかだ。腰の据わった対話から始まり、何度も何度も呼びかける姿勢を続ける。どちらかといえばそういう「泥臭い」積み重ねが必要になってくる。

さいごに

私がコンビニ業界に関わり始めた14年前から比べて「ローソン」は大きく変わった。驚くほど、というありふれた形容詞が実にぴったりくるほどの大変化だ。

その変化の大きさから、中で行われたであろう改革の大きさは感じていた。「大変だっただろうな」、と。本書を読んで、その感覚が正しかったことが確認できた。それと共に、大変なだけではない何かもそこにはあったんだろうな、ということも思い浮かんだ。充実感のある仕事というのは、常にそういうものなのかもしれない。

本書は経営学の本というには、あまりにも実践的である。そして、職人が先輩の背中から学んでいくように、経営者の実践から得られるものは多くある。

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