発露、という言葉があります。
デジタル大辞泉によると、
「心の中にあるものや隠していたことがおもてに現れ出ること」
という意味のようです。
使い方としては、「あいつの腹黒さがとうとう発露したか」、みたいな感じになるのでしょうか。
こういう状況を表す言葉に「露」という漢字が使われているのが実に興味深いところです。情緒豊かな日本人、というわけではありませんが、物事の現象がうまく捉えられています。
露、とは
朝早く目を覚ますと、ベランダの植物に水滴が付いていた。いわゆる朝露です。
その水滴は魔術の力や誰かの願いによって突然現れたわけではありません。空気中に含まれる水蒸気が冷えて水滴になったものです。きちんと、この世界で規定されている物理法則に沿った現象と言えるでしょう。
私たちは昼間、「空気」を目にしていますが、そこに水蒸気が含まれていることはまったく意識していません。そこにあるにも関わらず、見えていないのです。
それが気温の低下という現象によって可視化される、それが「露」という現象です。発露、という言葉もそんな露のイメージから来ているのでしょう。
アナロジーから見えてくるもの1
さてここで、「アイデアの発露」という言葉に注目してみましょう。以前、とある方が使われていた言葉です。
アナロジーを進めれば、アイデアそのものはすでに存在していることになります。ただし、それは「見えて」はいません。それが環境の変化によって、可視化されるようになる。それが「アイデアの発露」です。
こう考えると、いろいろなことが見えてきます。
まず、大気中に水蒸気が一切含まれていないような環境では、発露は起こりえません。
次に、含まれている水蒸気が多ければ、そうでない環境よりも発露の量は増えるでしょう。
これは「インプット」の重要性を示唆します。
SF的妄想(ないし思考実験)を作り上げるとすれば、20歳の成人男性の(そして平均的IQを備えた)クローンを作ったとして、そのクローンに「オズボーンのチェックリスト」を与えたところで、彼の知識や体験がほぼゼロであれば、何か意義あるものが出てくるとは思えません。
インプット、別の表現を使えば、「生きる」ということが大切です。
アナロジーから見えてくるもの2
あるいは「アイデアの発露」のアナロジーから別のことも考えられます。
地表付近の気温が下がり、そこにある物体の表面に接触した空気が「露」を生み出します。逆に言えば、気温が下がらないままであれば、水蒸気はずっと見えません。
つまり、「別の環境におくこと」がアイデアのトリガーとなり得るわけです。同じ環境に居続けたのでは、アイデアは発露しないでしょう。
さらに、「露」は植物の葉以外にも発生しますが、その多くは吸収されて見えにくい状態になります。葉っぱは水分をある程度はじく性質があり、それによって私たちが認識しやすい「露」という状態になるわけです。
このことは、発生したアイデアも、それとわかるように捕獲しておかないと、すぐさまどこかに消え去ってしまう(認識できない形になってしまう)ことを彷彿とさせます。
さいごに
アイデア発想のアナロジーは、いくつものバリエーションが考えられそうです。でも、基本的にそれらが示していることは共通しています。
- 知識や経験を多く積み
- 異なる視点で物事を捉えられるようになり
- それらを一度頭の中から出して記録し
- 選別や改良を加えていくこと
連想を刺激する発想法は、たしかに意義あるものですが、それだけで解決できるものではありません。プロセスとして、全体を捉える必要があります。
▼こんな一冊も:
Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術 (デジタル仕事術) |
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倉下 忠憲
技術評論社 2012-06-30 |