5-創作文 「タスク」の研究

スマートタスクリスト2.0 あるいはアリスの物語

「おはようアリス」
『おはようございます。マスター』
私が声をかけると、アリスが姿を現す。いつも通り長めの赤いプリーツスカートと白のブラウス、それに黒のジャケットだ。
「今日も晴れか。気分良く仕事が始められそうだ」
『それはなによりです』
「さっそくタスクリストを作成してくれ。モード”平日”で頼む」
『了解しました。モード”平日”にてデイリータスクリストの作成を開始します』
アリスの”目”がこちらを向く。
『体温、心拍数、脈拍、脳波ともに平常値の範囲内です。マスターの体調を”元気”と判定しました。何か追加で考慮すべき要素はありますか』
「まったくない。元気そのものだよ」
『了解しました。”平日”、”元気”のパラメータに、”火曜日”、”21日”のパラメータを追加します。リマインダーをご覧になりますか』
「ああ、見せてくれ」
目の前にウィンドウが立ち上がる。
「重要度大だけを表示、それに先週以前に追加したものは消してくれ」
リストの項目が3つに減る。”ヤマトに契約書送信”、”アリスのアップデート”、”トマトケチャップを買いに行く”。そうだ、もうストックが無くなっていたのだった。あの偏屈なじいさんの店に行かないと。
「アリス、ケチャップ購入をタスクに追加だ。リマインダーはもういいよ」
『了解しました。これでリストのパラメータを確定させますか』
そうしてくれ、と言いながら私はドルズショップの棚を思い浮かべる。
どれだけ店主が偏屈でも、品揃えに一流のこだわりがあればこのご時世でも小売店がやっていける、と証明するご立派な棚だ。
いつの時代でも食にこだわる人間はいるし、そこにお金は湯水のように注がれる。人はどんな快楽にもいずれは慣れてしまうが、食事と縁を切って生活していくことは不可能だ。
「今日はあの店定休日じゃなかったよな」
『はい、マスター。ドルズショップは毎週水曜日が定休日、と登録されています』
だったら、今日行っておかないと。
『タスクリストの作成が終わりました。買い物時間を考慮して、通常の80%で構成してあります』
「80%?えらくタイトスケジュールだな。あの店はそんなに遠くないだろう」
アリスに計算間違いがあるとは思えないが、さりとて前提条件を誤れば結果も誤る。確認は必要だ。
『これまでのログを考慮すると、マスターはドルズショップに長時間滞在することが想定されます。平均買い物時間のおよそ200%というのが私の推測で、それが反映された結果です。リストを再構築なさいますか』
怒りも皮肉もない声で冷静に事実を告げられると、心の持って行き場がなくなってしまう。アリスの指摘する通りあのじいさんと話し出すと時間を忘れてしまうのだ。どうせ、今日もそうなるだろう。
「いや、再構築は構わない。これで行こう。じゃあ、ファーストタスクから取りかかろうか。20分のタイマーをセットしてくれ。あと、その間にフィードのフィルターを頼む。今日はのんびり読んでいる暇もなさそうだから、10分程度にまとめておいてくれ」
『了解しました。何か優先事項はございますか』
「そういえば、昨日はオレンジの新機種が発表されたんだったな。オレンジ関連の記事は一つでいい。その他は全てシャットアウトだ。その代わり株価関係をピックアップしておいてくれ」
『どこかご希望のサイトはございますか』
アリスがサイトのリストを表示させる。が、私はそれを右にスライドさせた。
「いや、リストはいいよ。ワヨーフーアルティメットでいい。じゃあ、タスクに入るよ。タイマーを起動してくれ」
『了解しました。では、フィードのフィルタリングを開始します。グッドラック、マスター』
アリスはそう言い残し姿を消す。チコチコなるタイマー音と、AIに幸運を願われるというのも不思議な体験だなという私の思いだけが部屋の中に残った。

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