7-本の紹介

【書評】ビジョナリー・カンパニー4(ジム・コリンズ モートン・ハンセン)

何の気なしに買った株が、連日の爆上げ。
ほんの一週間で月収に等しい金額をゲット。
さらに買い増しすると、一ヶ月で年収ほどの収入が。

さて、その人はトレーダーとして生計を立てていくことができるだろうか。

概要

本書は「ビジョナリー・カンパニー」シリーズの第四弾である。

ビジョナリー・カンパニー 4 自分の意志で偉大になる
ビジョナリー・カンパニー 4 自分の意志で偉大になる ジム・コリンズ モートン・ハンセン共著

日経BP社 2012-09-20
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原題は『GREAT BY CHOICE』。日本語の副題が「自分の意思で偉大になる」なので、実にうまい翻訳である。自由意思の選択によって偉大になること。つまり、環境や運によってではなく、自らの意思と行動が偉大さへのルートを切り開いている、というニュアンスがうまく出ている。

基本的にこれまでのシリーズとコンセプトは同じだ。飛び抜けた企業を選び出し、その企業に共通する特徴を探り出す。

比較する手法

秀逸なのはその手法である。「一対比較法」と本書では紹介されているが、飛び抜けた企業だけを分析するのではなく、飛び抜けた企業と似たような環境にありながらも飛び抜けられなかった企業との対比が行われている。

つまり、飛び抜けた企業とそうでない企業の「違いは何か?」というのがコアとなる問いだ。

この視点が欠落していると、あまり意味のある分析は出てこない。たとえば、ものすごく成果をあげた社内チームがあったとしよう。5人メンバーで、さまざまな部署から人材を引っ張ってきており、全員が20代の男性社員で構成されている。

そのチームのリーダーが「成功の秘訣は何ですか?」と聞かれて、「全員が男だったからでしょうね」と答えたらさすがに苦笑するしかないだろう。全員が男のチームは他にいくらでもあるし、そのチーム全てが成功しているわけではない。効果のある要素を見極めるためには、比較対象が必要なのだ。

これは本人が語る成功法則は鵜呑みにしてはいけない、ということに通じるが、それは横に置いておこう。

ともかく、本書では10X型企業と呼ばれる予測不可能な環境、逆境下の中でも大きな成果を出している企業が持つ特徴が探られていく。

全7章で、索引まで含めると500ページ近い大著である。厚みを見ただけで、うげっ、となる人もいるかもしれない。が、ひとたびページをめくるとスイスイ読み進められるはずだ。要素が適切にまとめられ、興味を惹くエピソードも盛りだくさんである。

また、これまでのシリーズとの関連性も適時解説されている。似たような話を見かけるかもしれないが、それはつまり有用性が高い話題である、ということでもある。

3(+1)の要素

さて、将来が予測不可能で、時に逆境の環境に置かれても成長する企業の特徴とは何だろうか。本書によれば3(+1)の要素があるようだ。

  • 狂信的規律
  • 建設的パラノイア
  • 実証的創造力

こういうネーミングも実に本シリーズらしい。それぞれの要素はさらにキャッチーに

  • 二十マイル行進
  • 銃撃に続いて、大砲発射
  • 死線を避けるリーダーシップ

というメタファーを用いて解説されている。

どれも非常に面白い。特に「二十マイル行進」はさまざまな分野で使える考え方だろう。

一日に二十マイル進む。天気が悪くても二十マイル。天気が良く、もっと進めそうでも二十マイル。そのペースをひたすら維持し続ける。

五年後の目標をきちんと達成する唯一の方法は毎年着実に進むこと。

遅れすぎるとたどり着けないし、急ぎすぎると途中で破綻する。結局たどり着けない。比べるのも野暮だが、私がこうしてBlogを更新している中でも似たようなことを感じる。

ペースとリズムが肝要だ。

+1の中心的要素

上にあげた三要素の中心になるのが「レベルファイブ野心」だ。

三要素を実行するのは簡単ではない。いや、厳しいといっても過言ではないだろう。そのような企業文化を持つ組織の中になぜ人が集まるのか。それはリーダーが「レベルファイブ野心」を燃やしているからだ。偉大なとあるCEOの言葉を借りれば「宇宙に衝撃を与えよう」としているからだ。

そのビジョンが、無茶とも呼べる行動の動機付けとして機能している。実際、そこで働く人は大きな精神的満足感(及び肉体的疲労感)を覚えているだろう。でなければ、スキルの高い人は集まらないはずである。

日本で「ビジョナリー」というと、大きな野望や目標を掲げる人がイメージされる。確かにビジョンに人を惹きつける力がある。が、ビジョンは所詮ビジョンである。ビジョンだけでは何も生まれない。

成果をあげている企業は、ビジョンに加えて上にあげた企業文化・機能を備えている。それが伴ってこそ初めて意味あるものが生まれてくるのだ。「ビジョンを打ち出せば何もかもうまくいく」的にビジョナリーを理解していると痛い目に合うことだろう。

運との付き合い方

本書が興味深いのは、まるまる一つの章(第七章「運の利益率」)をあてて「運」について言及している点だ。

どうひいき目に見ても、科学的な手法で「運」を扱うのは難しい。定義付けが不明だし、その効用(作用)も判然としない。

それでも「企業経営なんてしょせん運なんだから、経営手法なんて分析して学んでも意味ないよ」という声に応えようとしている姿勢は評価できる。ただ、本書の「運」の分析がどれほど成功しているのかは私には判断することができない。とりあえず、一定の保留が必要そうだ。

ちなみに、先日紹介した『ファスト&スロー』がまさに上のような声を表明している。少し長くなるが引用してみよう。

『ビジョナリー・カンパニー』を始めとするこの種の本が発信するメッセージは、よい経営手法は学ぶことができるし、それを学べばよい結果がついてくるというものである。だがどちらのメッセージも、誇張がすぎる。多かれ少なかれ成功した企業同士の比較は、要するに、多かれ少なかれ運のよかった企業同士の比較にほかならない。読者は運の重要性をすでに知っているのだから、めざましい成功を収めた企業とさほどでない企業とを比較して、ひどく一貫性のあるパターンが現れたときには、眉に唾をつけなければならない。

第七章で紹介されている「運の利益率」の考え方は、こうした疑問に一定の答えを出しているように思える。

少なくとも本書では「運なんか関係ない」という立場は取っていない。運の重要性は十分に指摘されている。その上で、偶然性があり、予測不可能な環境下でどのように振る舞えばよいのか、ということに対して一定の示唆を与えてくれている。

さいごに

さて、最初のトレーダーの話に戻ろう。幸運を手にしたあのトレーダーだ。

率直に言って、彼がトレードで生計を立てていくのは難しいだろう。

どんな株式に、どのぐらいの金額を投資すればいいのかを彼は知らない。
有望な株式の見つけ方を彼は知らない。
どんな時に買い増しし、どんなときに売り逃げればいいのかを彼は知らない。

そんなスキルレベルでは、「直感」で見つけた株式に全力投球したあげく、売り時を間違えて塩漬けにしてしまう、なんて状況にすぐに陥ってしまうだろう。トレーダー失格だ。

しかし、それらは学ぶことができる。

偉大なる企業とは、それを日々学び続けているような存在なのだろう。

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