4-僕らの生存戦略

経営手法と運 〜宝くじか麻雀か〜

以前紹介したカーネマンの『ファスト&スロー』はたいへんおもしろい本だが、一点どうしても引っかかるポイントがあった。

それは『ビジョナリーカンパニー4』の書評でも取り上げたビジネス書への批判だ。

長くなるが、攻撃的なその文章を引用してみよう。

『ビジョナリーカンパニー』を始めとするこの種の本が発信するメッセージは、よい経営手法は学ぶことができるし、それを学べば良い結果がついてくるというものである。だがどちらのメッセージも、誇張がすぎる。多かれ少なかれ成功した企業同士の比較は、要するに、多かれ少なかれ運の良かった企業同士の比較にほかならない。めざましい成功を収めた企業とさほどでない企業を比較して、ひどく一貫性のあるパターンが現れたときには、眉に唾をつけなければならない。

さらにカーネマンはこう続ける。

運が大きな役割を果たす以上、成功例の分析からリーダーシップや経営手法のクオリティを推定しても、信頼性が高いとはいえない。たとえCEOがすばらしいビジョンとたぐいまれな能力を持っているとあなたがあらかじめ知っていたとしても、その会社が高業績を挙げられるかどうかは、コイン投げ以上の確率で予測することはできないのである。

カーネマンの主張はとてもよく理解できる。

  1. 企業の成果は運に依る部分が大半である
  2. だから経営手法なんておまけみたいなものでしかない
  3. 特に運が良かった企業の経営手法なんて分析しても意味がない
  4. 高い経営手法を持つCEOがいるからといって、その企業が好業績を挙げられるかどうかは推測不可能

1,2,4についてはまったく同意できる。実にその通りだ。問題は3である。

そうそう簡単に「意味がない」と切り捨てることはできない、という気がする。

たぶんそれは、マルコム・グラッドウェル風に言えば、経営を宝くじと捉えるか、麻雀と捉えるかで変わってくるのだろう。

宝くじなるもの

宝くじは、完全なる運ゲームだ。ほぼ大半の人が負け、本当に一握りの人だけが勝利の美酒に酔うことができる。

戦略やスキルといったものが介在する余地は皆無だ。「よく当たりが出ている売り場」を探すのは気休めでしかない。

おそらくカーネマンが指摘しているのはこれだろう。

過去の宝くじ当選者を分析したら「東京都に住んでいて、革靴を好んで履き、マンション住まいの人が多い」ということが判明した、なんて事実が分かっても何の意味もない。でもこれが「○○販売所で購入し、販売所の開店直後を狙い、買うときに<当たれ>と強く念じていた」だと、多少戦術っぽく見えてくるから不思議である。

が、何の意味もない点は変わりない。

ランダムで当たりが決定され、その当たりの枚数が非常に少ないとき。成功確率を上げるためには「ただひたすら買う」しかない。しかも、そうしたとしても絶対に当たるとは断言できない。たった10枚買った人が大当たりを引くことだってあるのだ。そして、それだけで勝負が決してしまう。

麻雀なるもの

では、麻雀はどうか。麻雀も運のゲームである。将棋や囲碁に比べると運が作用する要素はとても大きい。しかし、スキルが介在する余地がまったくないわけではない。

もし、完全に運だけで決まるのならば、初心者も上級者も長期間で平均を取れば勝率は同じ程度になるはずである。

が、現実はそんな風にはなっていない。上級者は初心者に比べて勝ちやすいのだ。短期間で見れば、初心者も上級者より高い勝率を出すことはあり得る。でも、なんだかんだと続けていけば、収支、じゃなかった点棒は実力差に基づいて配分されることになる。

なぜなのか?

第一に上級者はミスが少ない。人間はコンピューターではないので、何かをうっかり見落としたり、考え違いをしたりといったことが起こりうる。上級者はそれが少ないが、初心者はよくやりがちである。すると本来得ていたはずの得点が得られなくなる。

コイン投げは表と裏しか出ないように思われるが、現実は放り投げたコインを手の甲で受け止められない奴もいるのだ。

第二に上級者は平均得点が高く、平均失点が少ない。二、三手先の高い役に変化する手順を見逃さないし、それにそなえて行動することも忘れない(例えば、ドラ周りを安易に切らない)。また、自分が極端に不利な状況ではアガリを捨てて防御に回る。その判断が初心者に比べて早い。三人に囲まれてどうしても逃げ切れない場合は、一番点数が安そうなプレイヤーに飛び込むようなこともする。被害を最小に押さえるわけだ。

ほかにもいろいろあるが、これぐらいで十分だろう。

麻雀はその結果に運が大きく作用するが、運だけで全てが決まるわけではない。

だから、初心者が「上級者に共通する打ち方」を学ぶことには意味がある。特に長期的なスパンで考えれば確実に意味がある。

運と選択

もし、経営が宝くじであるとすればカーネマンの言うとおりだ。しかし、麻雀であるならば経営手法を学ぶことには一定の意味がある。

企業経営は運の影響を受ける。だが、

  • 運がよいときに、なぜ大規模な成長ができたのか。
  • あるいは運が悪いときに、なぜつぶれなかったのか。

というのは興味深い疑問である。

もちろんこれに、つぶれた企業は「つぶれるぐらい運が悪かった」、つぶれなかった企業は「つぶれない程度の運の悪さでしかなかった」と反論を返すこともできるだろう。これでは、運の定義になってしまってややこしい話になる。

麻雀に置き換えれば簡単だ。明らかに危険牌でしかも振り込むと大打撃を受けそうな牌を、なぜ切らなかったのか。しかも自分のアガリがあと一歩の状態にまで来ているというのに、となる。

危険牌を持ってくる所までは運だ。しかし、それを切るか切らないかは運ではない。チョイスである。

さいごに

ある意味で「経営手法なんておまけでしかない」というのは本質だ。

新しく100の企業が誕生して、長期的に生存できるのはその5%ぐらいだろう。良き経営手法はその5%を6〜8%にあげる効果しかないのかもしれない。おまけ的存在である。

しかし、おまけでしかないものが、人間の関与できる最大の部分であるということもある。

「5%しかないのなら、起業は諦めます」という選択も偉大なチョイスだ。

しかし、一度起業することを決めたのならば、その5%を引き上げるために最大限の努力を支払う必要があるだろう。決して100%にならないことを十分知りつつも。

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