「タスク」の研究

GTDの高度について

デビッド・アレンの『ストレスフリーの整理術 実践編』では、将来への見通しを得るための考え方として「高度」という概念が用いられている。

ひとつ上のGTD ストレスフリーの整理術 実践編 仕事というゲームと人生というビジネスに勝利する方法
ひとつ上のGTD ストレスフリーの整理術 実践編 仕事というゲームと人生というビジネスに勝利する方法 デビッド・アレン 田口 元

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第11章〜17章がその解説に当てられているのだが、少々全体像が掴みづらいこともあり、自分なりに整理してみた。

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これを少しまとめてみよう。

「高度」とは

まず「高度」とはなんだろうか。簡単に言えば「視点の高さ」ということだ。

Googleマップをイメージしてみよう。日本列島が俯瞰できる状態から縮尺を上げていく。視点がぐんぐん寄って行き、関西の全体像になり、京都府の全体像になり、私がいる街の全体像になる。今、私が現実の目で見ている現実の世界が一番低い高度だ。対して、日本全体、あるいは地球全体を見る視点が一番高い高度になる。

私が近所のコンビニに行くときに必要なのは、低い高度の視点であり、日本の全体像ではない。

しかし、大分なり宮城への旅行計画を立てるときには、その視点だけでは足りない。関西の全体像でも力不足だ。できれば日本地図が欲しいところである。

「高度」とは:その2

もう少し別の例で考えてみよう。

あなたは兵士だ。当然、自分が次に踏み出す一歩がどのような道であるのかを把握する必要がある。少し先の地形も把握して、突然襲われそうな場所はないかもチェックしておく必要がある。

あなたは隊長だ。隊長は目の前の道ばかりに注目してはいけない。そのまま進めばどんな地域に突入するのか、その地域はどんな状況であるのかを把握する必要がある。

あなたは将軍だ。将軍は一つの地域ばかりに目を向けているわけにはいかない。戦場の全体を眺め、適切な量の部隊を適切なタイミングで配置しなければいけない。リソースの分配やタイミングを間違えただけで、結果に致命的な影響を与えてしまう。

あなたは国王だ。国王は戦場ばかりを見ていてはいけない。周辺の国々がどのように動いているのか。それが自国にどのような影響を与えるのかを考慮しなければいけない。時に過剰な戦力の投入、時に勇気ある撤退の判断を下す必要もあるだろう。

役割ごとに、持つべき地図の縮尺は変わってくる。

高度についての誤解

こういう比喩的イメージは理解しやすいが、一つ致命的な勘違いが生じる可能性に気をつけなければいけない。

それは、上位の(高高度の)視点ほど「偉い」という思い込みだ。

現実世界の組織でも高いマネジメント層は高い地位と給料を得ている。それは要求されるスキルや負うべき責任の量が多いから、という前提なのだろうが、本当にそうなのかは検討の必要があるだろう。

ともかく、自分の行動管理に限っていえば、どの高度が特別に重要ということはない。どれもがそれぞれに重要である。むしろ、高い視点ほど偉いと感じるバイアスを相殺するために、下の視点ほど重要であると強調しておいても良いぐらいだ。

さらに言えば、上の視点に登っていくほど、具体的な要素はぼやけてくる。

将軍が地図上で小隊を動かすのは実に簡単だ。しかし、現実の地形によっては進行がひどく困難な場合がある。そして、兵士が現実的に前に進まなければ小隊は何一つ機能しないし、誰かが立てた作戦も同様だ。

行動する主体の視点を忘れてはいけない。

遠目にみれば、富士山は綺麗に見える。でもその道程はゴミで散らかっているかもしれない。その可能性は忘れてはいけないし、ゴミが散らかっているのならば片付ける必要がある。

高度0:<次に取るべき行動>

一番低い視点。現実という言葉に一番近い視点だ。これが機能していないと、その上の高度の視点は単なる夢物語に過ぎない。綺麗な富士山。

この高度で必要なものは、「次に取るべき行動」だ。GTDのフローで作成されるコンテキストごとの「済んでいない行動リスト」(ネクストアクション)や「カレンダー」がその管理方法になる。

この高度を整理したい場合は、「必要な行動は何か?」を問いかける。

とにもかくにも行動だ。現実的、具体的、実質的な行動だ。コンビニに行くときの視点。兵士の視点。「あいつらに攻撃だ!」「サーイェッサー!」。難しいことは一切考えない。ただ、ただ、行動あるのみ。それを補助するためのリストを作る。

きちんと整理され、これがあれば大丈夫と思えるリストがあれば、行動はより容易にスムーズになる。リストの形はさまざまであってよい。ともかく「これがあれば大丈夫」と思えるかどうかが鍵だ。

高度1000:<プロジェクト>

少し視点の高さが上がる。行動した後のこと、時間軸における未来のことを少しだけ考える。「誰を撃つか?」から「倒すべき部隊は?」と考える。

この高度で必要なものは「プロジェクト」だ。それを一覧できるプロジェクトリストを作る。ノートに一行一件で書くなり、一ぺージ一件で書くなり、方法はいろいろある。

この高度の整理には「何を終わらせなければならないか?」を問いかけるとよい。

その問いから出てくるものは、それ自身直接行動できるものではない場合が多い。「部屋を片付ける」「旅行を計画する」「マーケティングを勉強する」など、ある種の行動をひとまとまりにパッケージしたような答えが出てくる。

それぞれの項目について、「それを達成するために必要なことは何か?」を問いかければ、高度0のリストが再構成できる。あるいは最新の状態に同期される。「週次レビュー」で実施される行動だ。

おそらく、高度0と高度1000を愚直に続けるだけもかなりの効果がある。きっと安心感が得られるはずだ。

高度2000:<コミットメント>

さらに視点があがる。ここでは、自分が責任を持っている事柄について考える。短いフレーズで「コミットメント」と呼ぶことにした。

問いかけはこうだ。「維持していかなければならないことは何か?」

プログラマーならば「生産性」や「コードスキル」がそれにあたるだろう。人によっては「新人育成」なんかも入ってくるかもしれない。

私のようなフリーの物書きならば、文章に関する要素以外にも経理・営業・広報などといった要素も入ってくる。

もちろん仕事以外の要素(家族関係、健康管理、住居を清潔に保っておくこと、……)も存在する。

このコミットメントがプロジェクト発生装置である。何かしらの責任があるからこそ、「終わらせなければならない」という義務が発生する。

時折コミットメントを再確認したり、あるいは馬謖を斬る思いで古いコミットメントとおさらばする必要も出てくるだろう。

A4の紙を横に置き、中心に自分の名前を書いて、そこから自分の「コミットメント」をさまざまに書き出していくとよいだろう。コミットメントは短い期間でクルクル変わるものではないので、頻繁に行う必要はない。

やることが一杯ありすぎる、と感じた時などに行ってみるとよいだろう。

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※Rashitaの活動領域を描いてみた図

高度3000:目標とゴール

このあたりから、視点の質的な違いが出てくる。高度0のような現実感覚は薄れ、綺麗な富士山が見えるようになる。

ここでの問いは「何を達成したいか?」だ。

期間としては一年以上かかるような目標が、このあたりに位置することになる。

高度0は日常を回していくための視点であり、こちらは新しい行動を生み出すための視点である。もちろん、出てくる答えは何だってよい。「電子書籍を一冊書いてみる」でもよいし「大学に入学する」でも「PV100万のブロガーになる」でもよい。「宇宙飛行士になる」はちょっと厳しいかもしれないが、目標はいろいろあってよいだろう。

遠目で見た富士山の輪郭線が単純な線で表せるように、この高度も高度0のような入り組んだ手法は必要ない。単に箇条書きのリストにしておけばよい。

時折見返して、達成できたものはリストから外す。それだけで十分である。

高度4000:<ビジョン(構想)>

さらに視点が上がる。「構想」という翻訳はイマイチしっくり来なかったので「ビジョン」をメインで採用した。

ここでは長期的な成功のイメージを描く。長期的とは、達成するのに数年を要するような、という意味だ。

この高度ではすでに高度0の視点はまったくない。今がどうであるかはあまり関係ないのだ。なので「もし、自分が成功していたらどういう状態になっているか」を考えるとよい。

たとえば「100万部のベストセラーを出す」は高度3000の<目標とゴール>にあたるが、「執筆依頼が10/月でやってくるようになる」だと<ビジョン>になるだろう。

個人的にはここの高度が高すぎて酸素が薄くうまく息をできない人もいるのではないだろうか、という気はする。そういう場合は無理して登る必要ないだろう。

この<ビジョン>を導き出す手法として「宝の地図」が紹介されている。当ブログの読者さんならマインドマップ的なやつ、と書いておけば十分だろう。自分の理想的な(あるいはこうなりたい)将来像について自由気ままにブレストすればよい。

高度5000:<目的・価値観>

とうとう山頂である。細かい要素は消え失せ、大きな要素だけが目に入る。ムスカならば「人がゴミのようだ」と言いそうだが、実際はまったく見えないぐらいの高視点だ。

ここでは「自分や組織の存在意義は何か?」を問いかける。「なぜそれをするのか」「何のためにそれをするのか」を真摯に考えていくことになる。表現は逆になるが、かなり深い井戸に潜る必要があるだろう。

<目的>とは何のために存在し、どこに向かっていくかを決めるアルティメットな判断基準だ。<価値観>は守っていくべき重要な価値。大企業が掲げているビジョンはこれにあたる。

山登りと同じで、いきなりこんな高度にチャレンジするとエラい目にあうだろう。延々と答えのない問いに拘泥してしまう可能性もある。仮にヘリコプターか何かでここにたどり着いたとしても、高度0からの視点から徐々に上がってきていないと、それが「大義」に化ける可能性がある。

現実感覚を一切欠いた言葉の音だけが虚しく響くあれである。ネット界隈でも、っと脱線は止めておこう。

いつ問いかける?

デイビッド・アレンは「何かうまくいかないことがあったとき、これを考えるとよい」とアドバイスしてくれているがまったく同感である。

何かに行き詰まる。その時「なぜ、これをしようとしているのか?」を問いかける。「〜〜のために」と答えが出てくる。さらに「なぜ〜〜を求めているのか?」を追問いする。「××が必要だから」と答えが出てくる。さらに「なぜ、それが必要なのか」を追追問いする。

ある程度問いを重ねていくと、最終的に(あるいは原初的に)求めているものを得る上で、当初の行動は別に必要ないことが分かったりもする。それが分かれば別の手段に切り替えたり、きっぱり諦めたりすることもできるだろう。

その時、出てきた原初的な答えをどこかに書いておくと、自分の目的や価値観のリストが出来上がる。

さいごに

おさらいしておこう。

  • 行動を管理する上で複数の視点があったほうがよい
  • それぞれの視点に優劣はない
  • 注目すべきは高度0だが、高高度の視点も忘れない方がよい
  • 高い視点ほどラフで良く、低い視点ほど細かい管理が必要
  • 高度が近い要素は、互いに影響し合う
  • 視点ごとの問いかけを活用する
  • それぞれを書き留め、見返せるようにすべし(そして見返すべし)

GTDの理解の助けになれば幸いである。

4件のコメント

  1. GTDは概念を理解するのが難しいですね。

    わかったつもりで実践してみると、
    なんだかしっくりこないことが多いです。

    今回の記事は、「高度」とそれに応じた問いかけが
    参考になりました。
    ありがとうございました。

  2. >とらきちさん
    コメントありがとうございます。

    GTDは本当にじわじわとわかってくることが多いですね。何かしら記事がお役に立てていれば幸いです。

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