ハサミ

 男はハサミを弄んでいた。指かけはぬめりとした漆黒、刃は輝くような銀。それだけでどこか惹きつけられるそのハサミを、男は図書館で見つけた。奥まり、ジメジメとした空気が漂う一角に、堆く積まれた書籍。新雪のような埃。誰にも顧み

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ため息

 はあ。ため息をついた。一体何度目のため息だろうか。  ため息をつくと幸せが逃げてしまうなんて言葉があるけど、あれは嘘だ。幸せが逃げているからため息が出てくるのだ。観測者の認識違いによって、因果関係の混乱が生じている。ば

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信号機

二人の男がいた。二人は同じ道を使って出勤していた。 二人はちょうど同じ信号に引っかかった。二人は、同じものに気がついた。 「おっ、なんだ。あの信号機に木の枝が引っかかっているじゃないか。見えにくい。一体なんだ。誰が俺の邪

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