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魔女の呪い

会場は緊張感に包まれていた。 新しい元号の発表は11時からなので、あと30分は時間がある。会場では、さまざまなメディアの記者が、即座に記事を送信できるよう準備を整えている。紙のメモやノートを持っている記者はひとりもいない…

Rashita’s Christmas Story 10

藤崎さんは、本物のサンタだった。 もちろん、白髭に赤い服をまとい、トナカイを駆って日本中にプレゼントを届けるわけではない。彼自身は、紺のスーツがよく似合う、せいぜい三十代前半にしかみえない眼鏡男子だ。乗馬やロッククライミ…

伝説の勇者となりうる男

むかしむかしあるところに、伝説の勇者となりうる男がいた。齢は16。これからグングン成長が見込めるたくましい体つきで、現時点では空っぽであるが魔力の潜在性も十分だった。 しかし彼は手先も器用だった。編み物や小物作りが得意で…

Rashita’s Christmas Story 9

 クリスマスイブに、家で飲むほうじ茶ほどおいしいものはない。電気のケトルでお湯を沸かし、百均で買ったコップにティーパックを浸す。スーパーで買った1つ10円もしない安物だ。ふぅ。至福のひとときが訪れる。いまごろ世間の連中は…

ため息

 はあ。ため息をついた。一体何度目のため息だろうか。  ため息をつくと幸せが逃げてしまうなんて言葉があるけど、あれは嘘だ。幸せが逃げているからため息が出てくるのだ。観測者の認識違いによって、因果関係の混乱が生じている。ば…

Rashita’s Christmas Story 8

 視界の端の時刻表示が23:59から00:00に切り替わる。セカンダリースペースに置いておいた動画サイトから、サービス名を高らかと宣言するPR音声が溢れてくるが、今は気にしている場合ではない。イベントの始まりだ。  僕は…

断片作家の生涯

彼は断片作家だった。しかも超一流の断片作家だった。彼に並ぶものは誰もいなかったし、これから生まれることもない。なにせその呼び名は、彼に与えるためだけに生まれたのだ。孤高に作業を続ける彼に、世間が便宜的に付けた名前。それが…

レシピブック

(先行者利益 + 累積的優位性 + 偶然的出来事) – ノウハウ = ? 「カレーがあるとするじゃない。すごく美味しいカレーが」 「いいね。食べたくなってきたよ」 「バカね、たとえよ、たとえ。で、そのカレーが…

解毒剤

「博士、ついに完成しましたね」 「うむ。これで多発性認識偏向症を克服できる」  さっそく博士と助手は、いくつかの試験を行い、効果と安全性を確認した上で、<解毒剤>として大々的に発売した。博士は研究一筋ではあったものの、研…

真・嘘発見器

「博士、ついに完成しましたね」 「うむ。まったく新しい嘘発見器だ。いや、嘘感知器と呼んだ方いいかもしれない」 さっそく助手が完成したばかりの装置を身につける。腕時計とヘヤーバンドのような二つ装置は、同じタイミングでほのか…

トンネル

長いトンネルを抜けると、そこはまた別のトンネルだった。 やれやれ、またトンネルか。さっきもトンネルだったし、その前もトンネルだった。ここしばらくトンネルしか見ていない気がする。たぶん、次もトンネルなんだろうし、その次もト…

炊飯器

「お前、これ使うか?」 段ボールに本を詰めていた僕に、先輩は小さな炊飯器を掲げてみせた。 僕は大量の本を、先輩はキッチン家電を、先輩の彼女は食器を段ボールに詰めていた。狭いアパートとは言え、3人で引っ越しの準備をするのは…

線の向こう側

線の向こう側にいる人々を眺めていた。ときに指さし、ときに憧れ、ときにあざ笑いながら。 こちら側は多勢。あちら側は少人数。何も問題ない。 ましてや壁は絶対だ。 それは真理のごとく僕の前に立ちふさがる。こちら側はこちら側であ…

墨流しと写真

アランが久々に枯山水を眺めるために寺に足を踏み入れると、そこには先客がいた。青年だ。大学生ぐらいだろうか。日本人はカジュアルな格好をしていると年齢がよくわからない。 青年はひなたぼっこをする猫のように静かに胡座をかいてい…

リンシャンカイホウ

「それは、リンシャンもついてるぞ」 「えっ、トイトイだけじゃないんですか」 指を折り、翻数を数えていた後輩が視線をこちらに向けてくる。 「そうだ。カンしてツモった牌で和了ると1翻つくんだ。それがリンシャンカイホウという役…