王は願った。望むものをすべて欲する力を。 神は与えた、すべてを手に入れる力を。わずかな呪いと共に。 王は欲するものをなんでも手に入れることができた。おのが権力を超えるものでさえ、それは可能だった。 あふれんばかりの黄金、…
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カレーの美味しい和菓子屋
二代目が継いだばかりの和菓子屋はあいかわらず美味しかった。技は引き継がれ、新しい技法も試されている。将来にも期待ができそうだった。 二代目は、美しく若い女性と結婚していた。料理研究家ということで、道は違えど通じる何かがあ…
冷えゆく星
inspired by 【急速冷凍!】 5/6文フリで頒布予定の 「オルタニア緊急増刊7.5号」の 掲載原稿を急募します。 文字数は2000字ぐらい。 ショートショートのSF小説で、 テーマは新元号にちなんで「冷」。 締…
魔女の呪い
会場は緊張感に包まれていた。 新しい元号の発表は11時からなので、あと30分は時間がある。会場では、さまざまなメディアの記者が、即座に記事を送信できるよう準備を整えている。紙のメモやノートを持っている記者はひとりもいない…
Rashita’s Christmas Story 10
藤崎さんは、本物のサンタだった。 もちろん、白髭に赤い服をまとい、トナカイを駆って日本中にプレゼントを届けるわけではない。彼自身は、紺のスーツがよく似合う、せいぜい三十代前半にしかみえない眼鏡男子だ。乗馬やロッククライミ…
伝説の勇者となりうる男
むかしむかしあるところに、伝説の勇者となりうる男がいた。齢は16。これからグングン成長が見込めるたくましい体つきで、現時点では空っぽであるが魔力の潜在性も十分だった。 しかし彼は手先も器用だった。編み物や小物作りが得意で…
Rashita’s Christmas Story 9
クリスマスイブに、家で飲むほうじ茶ほどおいしいものはない。電気のケトルでお湯を沸かし、百均で買ったコップにティーパックを浸す。スーパーで買った1つ10円もしない安物だ。ふぅ。至福のひとときが訪れる。いまごろ世間の連中は…
ため息
はあ。ため息をついた。一体何度目のため息だろうか。 ため息をつくと幸せが逃げてしまうなんて言葉があるけど、あれは嘘だ。幸せが逃げているからため息が出てくるのだ。観測者の認識違いによって、因果関係の混乱が生じている。ば…
Rashita’s Christmas Story 8
視界の端の時刻表示が23:59から00:00に切り替わる。セカンダリースペースに置いておいた動画サイトから、サービス名を高らかと宣言するPR音声が溢れてくるが、今は気にしている場合ではない。イベントの始まりだ。 僕は…
断片作家の生涯
彼は断片作家だった。しかも超一流の断片作家だった。彼に並ぶものは誰もいなかったし、これから生まれることもない。なにせその呼び名は、彼に与えるためだけに生まれたのだ。孤高に作業を続ける彼に、世間が便宜的に付けた名前。それが…
レシピブック
(先行者利益 + 累積的優位性 + 偶然的出来事) – ノウハウ = ? 「カレーがあるとするじゃない。すごく美味しいカレーが」 「いいね。食べたくなってきたよ」 「バカね、たとえよ、たとえ。で、そのカレーが…
解毒剤
「博士、ついに完成しましたね」 「うむ。これで多発性認識偏向症を克服できる」 さっそく博士と助手は、いくつかの試験を行い、効果と安全性を確認した上で、<解毒剤>として大々的に発売した。博士は研究一筋ではあったものの、研…
真・嘘発見器
「博士、ついに完成しましたね」 「うむ。まったく新しい嘘発見器だ。いや、嘘感知器と呼んだ方いいかもしれない」 さっそく助手が完成したばかりの装置を身につける。腕時計とヘヤーバンドのような二つ装置は、同じタイミングでほのか…
トンネル
長いトンネルを抜けると、そこはまた別のトンネルだった。 やれやれ、またトンネルか。さっきもトンネルだったし、その前もトンネルだった。ここしばらくトンネルしか見ていない気がする。たぶん、次もトンネルなんだろうし、その次もト…
炊飯器
「お前、これ使うか?」 段ボールに本を詰めていた僕に、先輩は小さな炊飯器を掲げてみせた。 僕は大量の本を、先輩はキッチン家電を、先輩の彼女は食器を段ボールに詰めていた。狭いアパートとは言え、3人で引っ越しの準備をするのは…