王は願った。望むものをすべて欲する力を。 神は与えた、すべてを手に入れる力を。わずかな呪いと共に。 王は欲するものをなんでも手に入れることができた。おのが権力を超えるものでさえ、それは可能だった。 あふれんばかりの黄金、…
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ダメダス王の手
男は欲した。手にできるものはなんでも欲した。そのためなら、あらゆる努力も呪術もいとわなかった。 やがて、彼は神に願った。もともと彼は恵まれておらず、手にできるものはあまりにも少なかった。神に願うしかなかった。 神は彼の願…
カレーの美味しい和菓子屋
二代目が継いだばかりの和菓子屋はあいかわらず美味しかった。技は引き継がれ、新しい技法も試されている。将来にも期待ができそうだった。 二代目は、美しく若い女性と結婚していた。料理研究家ということで、道は違えど通じる何かがあ…
信号機
二人の男がいた。二人は同じ道を使って出勤していた。 二人はちょうど同じ信号に引っかかった。二人は、同じものに気がついた。 「おっ、なんだ。あの信号機に木の枝が引っかかっているじゃないか。見えにくい。一体なんだ。誰が俺の邪…
確信というウィルス
私は正しい。 私は間違っている。 私は賢い。 私は愚かしい。 私は正しい。 私は間違っている。 私は、自分が正しいと考えている。 私は、自分が間違っていると考えている。 私の考えは正しい。 私の考えは間違っている。 ん?…
『残念ながら、あなたは救われません』
「残念ながら、あなたは救われません」 男は予言者のように物々しくそう言った。 「えっ、本当ですか」 言われた男は聞き返した。中年ぐらいだろうか。苦悩が皺となって顔に刻まれている。 予言者のような男は、静かに頷いて…
二つの島
二つの島があった。そう遠くもなく、そう近くもない。そんな二つの島があった。 それぞれの島には、それぞれの住民がいた。そこには似ていながらも、確固とした固有の文化が育っていた。 住民たちは、自分たちの島で生活しながら、たま…
門の開いた町
その町の門は開いていた。 大きな門ではない。それでも城壁の所々には人が行き来できる空間があった。 あまり大きくない門と同じように、その町も大きくはなかった。こぢんまりとではないせよ、中央都市とは比べものにはならない…
動く歩道
ウィーン。ウィーン。 「やっぱり、動く歩道は楽だね」 「なにせ、まったく歩かなくていい」 「楽チンは正義」 「おっ、なんか門が見えてきた」 「だいじょぶじょぶ。こうして乗っておけば、自動的にくぐり抜けてくれるよ」 「だね…
イノベーター / Kejserens nye Pillar
「なにこのでっかい木は。えっ、柱っていうの? 知らない、知らない。だいたい邪魔でしょ。家の中にこんなでっかいものがあったら。えっ、屋根を支えている? そんなの古い考え方だよ。アンシャンなレジームだよ、ほんとに。そういう考…
個性的
「はい、授業をはじめます。教科書5ページを開いてくださいね。 今日みなさんに覚えてもらいたいのは、≪みんな違って、みんないい≫という言葉です。ええ、良い言葉ですね。先生、最初この言葉を見たとき感激して泣いてしまいました。…
「旅立ちの日 2」
「勇者や、起きなさい」 その日、母親から起こされ、自分が勇者であることを知った若者が世界中に溢れた。人類勇者化計画。魔王の侵攻を恐れる国王たちが集い、一気に戦力をアップするための方策を三日間の会議で作り上げた。その成果が…
空っぽのグラス
情報消費は楽しい。 情報消費は低コスト。 情報消費は疲れない。 望むなら、四六時中、情報消費の浴槽に浸かっていられるのが現代。 情報消費は楽しい。でも、情報消費は楽しくない。 ときどき。ほんとに、ときどき、ふっと薄ら寒い…
当たり前のセイギのヒーロー
「隊長、これを」 僕が白い封筒を差し出すと、隊長は灰色の眉をひそめた。HBの鉛筆を装着したコンパスでスッと引かれたような目も決して笑ってはいない。 「どうしても変わらないのか」 隊長の視線は封筒に向けられたままだ。辞表、…
ポイントカード
「合計一点で、3980円になります。ポイントカードはお持ちでしょうか?」 5000円札をさっと出してお釣りを待つ私に、店員がお馴染みのセリフを投げかけてくる。彼は一体このセリフをどのぐらい繰り返してきたのだろうか。 「い…